近縁野生種由来の耐湿性遺伝子を持つトウモロコシ新親自殖系統「Na110」
要約
「Na110」は、トウモロコシの近縁野生種テオシントが持つ耐湿性の関連形質"地表根形成能"を優良デント親自殖系統「Mi29」へ導入した新親自殖系統である。水田転換畑など湿害が発生しやすい条件での生育が良好なF1品種の親系統育成に利用できる。
- キーワード:SSRマーカー、耐湿性、地表根形成能、テオシント、トウモロコシ
- 担当:自給飼料生産・利用・飼料作物品種開発
- 代表連絡先:電話029-838-8647
- 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
サイレージ用トウモロコシは収量性と栄養価に優れるが、耐湿性に劣るため水田転換畑等への作付けが十分に進んでいない。そこで、トウモロコシの近縁野生種テオシントの一種Zea mays ssp. huehuetenangensis (以下hue)由来の、耐湿性を高める"地表根形成能"の遺伝子を優良親自殖系統「Mi29」へ導入し、耐湿性に優れる新しい親自殖系統を育成する。
成果の内容・特徴
- 地表根形成能とは、湛水時に比較的酸素濃度が高い地表付近により多くの根(不定根)を出す能力で(図1)、これにより根の酸素獲得が容易になるため、植物体全体の耐湿性が高まる。
- 「Na110」は、九州沖縄農業研究センターが育成したデント系列親自殖系統「Mi29」へ、hue由来の地表根形成能を導入するために、「Mi29」を反復親とした戻し交配と自殖により育成された系統である。「Na110」の第5染色体に座乗するhueの地表根形成能の遺伝子(QTL)を含む領域を保持している。
- 「Na110」の絹糸抽出期は「Mi29」よりも6日遅く、育成地(栃木県)での早晩性は"晩生"である。雌穂および粒が「Mi29」より小さく、子実収量は「Mi29」比42%である(表1)。
- 3.3葉期に「Mi29」と「Na110」各48個体を16日間ポット試験で湛水処理した結果、「Na110」の1個体あたりの地表根の総長、1個体あたりの地表根の数はいずれも「Mi29」に比べ有意に大きい値を示す(表2)。
- 「Na110」を片親に用いたF1系統2組合せの平均乾物総重は、一般圃場および6葉期以降約18日間の湛水処理圃場において、「Mi29」を片親に用いたF1系統2組合せの平均乾物総重より高い(表3)。
成果の活用面・留意点
- 水田転換畑など、湿害を受けやすい条件での生育が良好なF1品種を開発するため、親自殖系統として利用できる。
- 「Mi29」以外の優良な親自殖系統に地表根形成能を導入するための母材として活用できる。
具体的データ
その他
- 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
- 中課題整理番号:120b0
- 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
- 研究期間:2006~2015年度
- 研究担当者:玉置宏之、佐藤尚、間野吉郎、伊東栄作、黄川田智洋、高橋亘、三ツ橋昇平
- 発表論文等:2016年度に品種登録出願予定(飼料作物新品種候補系統審査会決定済み)