トウモロコシの耐湿性育種に利用可能な湛水・還元耐性に関与する遺伝子座

要約

トウモロコシの近縁野生種テオシントの一種"Zea nicaraguensis"は第4染色体長腕に湛水・還元耐性に関与する量的形質遺伝子座"Qft-rd4.07-4.11"を持つ。Qft-rd4.07-4.11は相加効果が大きく、トウモロコシの耐湿性向上に利用できる。

  • キーワード:耐湿性、湛水・還元耐性、テオシント、トウモロコシ、量的形質遺伝子座(QTL)
  • 担当:自給飼料生産・利用・飼料作物品種開発
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国におけるトウモロコシの生産量を拡大するためには水田転換畑における作付け・増産が必要であるが、その際に生じる湿害が生産の障害となっている。また近年の気候変動による多雨で、畑作物の湿害がさらに深刻になることが懸念される。トウモロコシの近縁野生種テオシントの一種"Zea nicaraguensis"(以下nica)は耐湿性が強く、トウモロコシに耐湿性を付与するための重要な遺伝資源と考えられる。そこで、nicaの持つ耐湿性関連形質の1つである湛水・還元耐性(湛水により土壌が還元状態になった場合の耐性)に関与する量的形質遺伝子座(QTL)を探索するとともにその遺伝様式を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 染色体部分置換系統(IL, Introgression Line)のシリーズ45系統は、トウモロコシ自殖系統「Mi29」の遺伝背景にnicaの様々な染色体断片を導入して、シリーズ全体でnicaの全ゲノムをカバーしている(図1)。
  • 「IL#18」は、ILのシリーズ45系統の中から湛水・還元条件下における地上部の葉枯れ程度を指標にして選抜した湛水・還元耐性が強い系統である(図2)。この系統は、湛水・還元耐性に関与するQTL (Qft-rd4.07-4.11) を含むnicaの第4染色体の長腕(bin4.07-4.11)の染色体断片を持っている(図1)。
  • Qft-rd4.07-4.11をホモで持つF1系統 [「IL#18」×「BC3#90」(自殖系統「Mi47」にQft-rd4.07-4.11を導入したBC3F2系統)]は、Qft-rd4.07-4.11を持たないF1品種「ゆめちから」(「Mi29」×「Mi47」)よりも葉枯れ程度を指標とした湛水・還元耐性が強い。また、Qft-rd4.07-4.11をヘテロで持つF1系統(「Mi47」×「IL#18」)はそれらの中間であることからQft-rd4.07-4.11の遺伝様式は相加効果が大きい(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ILのシリーズは、耐湿性に関連する形質、農業形質のマッピングや準同質遺伝子系統の作出に利用できる。
  • Qft-rd4.07-4.11はトウモロコシの耐湿性向上に利用できる。
  • Qft-rd4.07-4.11は、組み換えが起こらない領域(約60Mb)に座乗しており、その領域にnicaの他の形質に関する遺伝子がある場合には除去することが困難である。
  • Qft-rd4.07-4.11は、湛水・還元条件下の幼植物検定において葉枯れ程度を指標とした場合に効果があるが、湛水・還元耐性を地上部乾物重の対照区比など他の指標で評価した場合のQft-rd4.07-4.11の効果については検証中である。

具体的データ

その他

  • 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
  • 中課題整理番号:120b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開、気候変動、収益力向上)
  • 研究期間:2008~2015年度
  • 研究担当者:間野吉郎、佐藤尚、玉置宏之、黄川田智洋、三ツ橋昇平、高橋亘
  • 発表論文等:
    1)Mano Y. and Omori F. (2013) Ann. Bot. 112(6):1125-1139
    2)Mano Y. and Omori F. (2015) Euphytica 205(1):255-267