黒毛和種雄子牛における経口補給ビタミンEの体内動態と制御遺伝子発現特性

要約

黒毛和種雄子牛において経口ビタミンE(VE)は十二指腸・空腸から吸収され、肝臓に蓄積後、末梢へ再放出され、副腎や精巣に高量、筋肉や免疫系組織の胸腺には低量蓄積される動態を示す。VE体内動態制御遺伝子は肝臓において優勢発現する特性がある。

  • キーワード:黒毛和種、雄子牛、ビタミンE、体内動態、遺伝子発現
  • 担当:自給飼料生産・利用、公共牧場高度利用
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

黒毛和種子牛は特に虚弱なため、肺炎や下痢による損耗率が高く、農家や公共牧場における持続的な素牛生産性の向上には、機能性物質等を利用した疾病予防および発育促進技術の開発が必要である。子牛へのビタミンE(=α-トコフェロール、以下VE)補給は、ストレス緩和や免疫機能を賦活化しワクチン効果を高めるなど有効性が示唆されているが、ウシにおけるVE体内動態(輸送、取込、蓄積および代謝)機序に関する知見は乏しい。本研究では、その機序を解明するため、経口補給VEの体内動態およびヒトにおいて報告のある「VE体内動態制御遺伝子」の子牛体組織における発現特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 母牛分離離乳後の3ヶ月齢黒毛和種雄子牛を供試し、基礎飼料のみの対照区(+0 IU/kg BW/day, n=5)およびVE経口補給区(+30 IU/kg BW/day, n=5)を設け、2週間の補給試験直後に体組織20種類を採取し、各組織におけるVE含量を定量、比較し、経口補給VEの体内動態を調べる。また、対照区の組織からRNAを抽出し、VE特異的輸送タンパク質αTTP、VE結合型分泌タンパク質AFMおよびVE代謝酵素CYP4F2のmRNA発現量を測定する。
  • 基礎飼料は育成前期配合とチモシー乾草であり、飼料由来VE摂取量は平均0.7 IU/kg BW/dayである。
  • VEは十二指腸・空腸領域から吸収され、腸間膜リンパ節を経由し、リンパから血液を介して肝臓に取り込まれ、蓄積される(約23倍増加、図1)。末梢組織に向けて、肝臓から血中へ再放出されるが、血中濃度増加は約8倍に制限される(図2)。VE取込・蓄積能は副腎、精巣および脾臓で高く、筋肉や脂肪、胸腺では低い(図1)。
  • 肝臓において、αTTPおよびAFM mRNAが優勢発現し、CYP4F2 mRNAも高発現していることから、主に肝臓がVE体内動態を制御していると考えられる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、VEの免疫機能賦活化や抗酸化効果を増強させる補給法の高度化に必要な基盤知見である。研究開発ターゲットとして、VE循環量を向上させる肝機能賦活化法や胸腺などの末梢組織取込みを促進する新規の血中VE担体の開発が想定される。
  • ウシの品種、性差および生育ステージ別のVE体内動態制御遺伝子の発現特性に関する知見が乏しく、今後明らかにしていく必要がある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:預託期間拡張を可能とする公共牧場高度利用技術の開発
  • 中課題整理番号:120c4
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:芳賀聡、中野美和、石崎宏、盧尚建(東北大農)、加藤和雄(東北大農)
  • 発表論文等:Haga S. et al. (2015) J. Anim. Sci. 93(8):4048-4057.