ニワトリ由来膜結合型幹細胞因子を用いた効率的なニワトリ始原生殖細胞培養法

要約

ニワトリ始原生殖細胞は、線維芽細胞増殖因子(FGF2)を含有する培地を用い、ニワトリ由来膜結合型幹細胞因子(chSCF2)を発現するフィーダー細胞上で培養することによって増殖が5倍以上促進される。

  • キーワード:家畜育種、ニワトリ、始原生殖細胞、細胞培養、幹細胞因子
  • 担当:家畜生産・家畜育種
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニワトリでは精子や卵子の源である始原生殖細胞の長期培養が可能となっている。しかしながら、現在までに報告されている培養系は増殖効率が低く、培養に際しては過大な時間と労力を要する。そのため、より増殖効率の高い培養系を開発する必要がある。これまでニワトリ始原生殖細胞の増殖メカニズムはほとんど明らかになっていなかったが、最近、細胞の増殖を制御する受容体型チロシンキナーゼであるc-Kitがニワトリ始原生殖細胞において発現していることを明らかにした。このことはc-Kitのリガンドである幹細胞因子(SCF)がニワトリ始原生殖細胞の増殖を促進する可能性を示唆している。そこで、ニワトリで明らかになっている分泌型SCF(chSCF1)または膜結合型SCF(chSCF2)を発現する細胞を作製し、これらをフィーダー細胞とした培養系におけるニワトリ始原生殖細胞の増殖効率を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • chSCF1またはchSCF2を発現ベクターにクローニングした後、バッファローラット肝細胞(BRL)に導入することによりchSCF1またはchSCF2を安定発現するBRL細胞株(chSCF1-BRL またはchSCF2-BRL)が樹立される(図1)。
  • chSCF1-BRL またはchSCF2-BRLをフィーダー細胞として白色レグホン雄由来の始原生殖細胞株をFGF2含有の始原生殖細胞培養液で培養した場合、培養20日目における始原生殖細胞数は通常のBRLをフィーダー細胞として培養した対照群に比較して、chSCF1-BRL群では平均1.87倍(P>0.05)、chSCF2-BRL群では平均5.86倍(P<0.05)に増殖する(図2、図3)。
  • chSCF2-BRLをフィーダー細胞として培養した白色レグホン雄由来始原生殖細胞は生殖巣への移動能および配偶子形成能を有しており、宿主胚へ約1000個を移植した場合、正常産子を得ることができる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • chSCF2-BRLを培養系に用いた場合の始原生殖細胞増殖効果は、培養液中にFGF2が存在していることが必須であり、FGF2を含有しない培養液を使用した場合はchSCF2-BRLを用いて培養しても、始原生殖細胞の増殖の促進は認められない。
  • この培養系は、白色レグホン雄由来の始原生殖細胞で検証されており、雌由来始原生殖細胞やその他のニワトリ品種、ニワトリ以外の家禽および野生鳥類の始原生殖細胞に適応するかどうかについてはさらなる検討が必要である。
  • マウス由来SCFあるいはヒト由来SCFを培養液に添加してもニワトリ始原生殖細胞の有意な増殖効果は認められない。

具体的データ

その他

  • 中課題名:繁殖性及び生涯生産性等に対する効率的な家畜育種技術の開発
  • 中課題整理番号:130a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:田上貴寛、武田久美子、小林栄治、宮原大地(信州大農)、大石勲(産総研)
  • 発表論文等:
    1)Miyahara D. et al. (2014) J. Poult. Sci. 51(1):87-95.
    2)Miyahara D. et al. (2016) J. Reprod. Dev. 62(2):143-149.