TUNEL法によるウシ精子核DNAダメージ率の検出とその利用性

要約

TUNEL法によるウシ精子核DNAダメージ率の検出とその利用性

  • キーワード:牛、精液、精子核、DNAダメージ、凍結保存
  • 担当:家畜生産・有用家畜作出
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウシ精液の品質は、精子活力や生存率、精子濃度など精液性状に基づいて評価されることが多いが、精液性状の評価が良好でも人工授精に使用してみると受胎性の低い精液が存在している。精子DNAダメージは受胎率の低下に関わるとされ、ヒトでは男性不妊の一因と考えられている。DNAの断片化を検出する方法として、TUNEL法、コメットアッセイ法、Halo法、Toluidine blue染色法等が利用可能である。TUNEL(TdT-mediated dUTP nick end labeling)法は、末端トランスフェラーゼによってDNA断片化を標識する方法であり、精子だけでなく様々な細胞種においてDNA断片化の検出に用いられる信頼性の高い手法である。そこで今回、TUNEL法によるウシ精液評価への利用性を検討する。

成果の内容・特徴

  • スライドグラス上に塗抹固定したウシ精子を、市販のキットを用いたTUNEL法によって蛍光染色した後、蛍光顕微鏡下での観察によって精子核DNAダメージ率の評価が可能である(図1)。
  • 種雄牛の新鮮精液を、上記手法により年間を通じて調査すると、雄牛毎の精子核DNAダメージ率の特徴を把握することができる(図2)。
  • 精液の凍結保存もしくは液状保存(4°C、5~7日間)により精子核DNAダメージ率は上昇する(図3)。
  • 家畜改良事業団において調整交配に用いた黒毛和種雄牛(30頭)の凍結精液の精子核DNAダメージ率の平均値は4.7±4.0%であり、受胎率との相関は-0.27であったが有意でない。ホルスタイン雄牛(34頭)の精子核DNAダメージ率は平均4.9±2.3%であり、受胎率との間に-0.33の有意な負の弱い相関がみとめられる(P<0.05)。
  • 黒毛和種2頭の低受胎精液(受胎率が10%未満)の精子核DNAダメージ率(4.8%および6.8%)には顕著な違いは検出されない。

成果の活用面・留意点

  • TUNEL法による精子核DNAダメージ率を単独で低受胎精液の摘出に用いることは困難であるが、ウシ凍結精液の品質評価指標として補助的な評価を加えうる。

具体的データ

その他

  • 中課題名:生殖工学を用いた有用家畜作出技術の開発
  • 中課題整理番号:130c0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:武田久美子、渡邊伸也、金田正弘(東京農工大)、内山京子(家畜改良事業団)、絹川将史(家畜改良事業団)
  • 発表論文等:Takeda K. et al. (2015) J. Reprod. Dev. 61:185-190