ブタ未成熟卵子のガラス化保存に適した耐凍剤処理方法
要約
ブタ未成熟卵子において、2%(v/v)のエチレングリコール(EG)とプロピレングリコール(PG)を含む平衡液での5~15分間の平衡後に、17.5%(v/v)のEGとPG及び0.3Mショ糖を含むガラス化液でガラス化することが有効な耐凍剤処理方法である。
- キーワード:ブタ、卵子、ガラス化保存、体外成熟、体外受精
- 担当:家畜生産・有用家畜作出
- 代表連絡先:電話029-838-8647
- 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
これまでに、ブタ卵子のガラス化について様々な結果が報告されている。しかし、それぞれの報告では異なる組成の耐凍剤をガラス化液に用いており、また、その添加濃度やガラス化前の平衡処理時間も異なり、結果の比較が出来ない。本研究は、既存の異なる手法を比較し、ガラス化後に高い生存率と発生率が得られる耐凍剤処理方法を明らかにすることを目的とする。
成果の内容・特徴
- ブタ未成熟卵子卵丘細胞複合体のガラス化・加温はSomfaiらの方法(2014, PLoS One)で、加温後の卵子の体外成熟・受精・発生培養はKikuchi(2002, Biol Reprod)らの方法で行う。
- ガラス化液へ添加する耐凍剤として0.3Mトレハロースと0.3Mショ糖を比較した場合、卵子のガラス化保存・加温後の卵子生存率は同等である。
- 浸透性耐凍剤の濃度を計4%(v/v)、平衡時間を15分とする条件下では、2%(v/v)エチレングリコール(EG)と2%(v/v)プロピレングリコール(PG)を含むガラス化平衡液が2%EG と2%ジメチルサルファイド(DMSO)を含むガラス化平衡液よりもガラス化後の卵子の生存率および体外成熟・受精後に得られる胚盤胞期胚の質が高まる(表1)。
- 浸透性耐凍剤の組み合わせに関わらず、その濃度を計4%(v/v)にして平衡時間を15分にした方が、計15%(v/v)で5分の平衡時間と比較して、ガラス化後の卵子の生存率および体外成熟・受精後の胚盤胞期胚発生率が高まる(表2)。
- 2%(v/v)EGと2%(v/v)PGを含むガラス化平衡液を用いて、平衡時間を5または15分間にした場合、ガラス化後の卵子の生存率および体外成熟・受精後の胚発生には差が無いが、25分間に延長すると発生率が低下する。
- ブタ未成熟卵子では、2%(v/v)EGと2%(v/v) PGを含む平衡液での5~15分間の平衡後に、17.5%(v/v)EGと17.5%(v/v)PGを含むガラス化液でガラス化するのが有効な耐凍剤処理方法である。
成果の活用面・留意点
- ブタ未成熟卵子では、2%(v/v)EGと2%(v/v) PGを含む平衡液での5~15分間の平衡後に、17.5%(v/v)EGと17.5%(v/v)PGを含むガラス化液でガラス化するのが有効な耐凍剤処理方法である。
- ガラス化前に計15%(v/v)浸透性耐凍剤濃度で平衡する現在の定法は、卵子の生存に悪影響を及ぼすことが明らかになった。
具体的データ
その他
- 中課題名:生殖工学を用いた有用家畜作出技術の開発
- 中課題整理番号:130c0
- 予算区分:競争的資金(科研費、地球規模課題)
- 研究期間:2014~2015年度
- 研究担当者:ソムファイタマス、メンングイェンティ(筑波大学)、野口純子(生物研)、金子浩之(生物研)、柏崎直巳(麻布大)、菊地和弘(生物研)
- 発表論文等:Somfai T. et al. (2015) J. Reprod. Dev. 61:571-579