タイの肉牛生産における集約化が温室効果ガス排出量等の環境に及ぼす影響

要約

タイの肉牛生産における集約化は、現状の放牧を主体とした粗放的生産と比較して、出荷体重1kgあたりの温室効果ガス排出量を削減するが、エネルギー消費および酸性化への影響を増加させる。

  • キーワード:肉牛生産、集約化、タイ、LCA、温室効果ガス、環境影響評価
  • 担当:気候変動対応・畜産温暖化適応
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産環境研究領域、家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

タイではこれまで、放牧を主体とし、資材・労力の投入を低く抑える粗放的な肉牛生産が主流であった。しかし、牛肉需要の拡大、特に高品質の牛肉需要の拡大に伴い、近年、高栄養の飼料を給与し牛舎において飼養する集約的な肉牛生産が増加してきている。生産体系の変化は、資材投入量の増加、生産性の向上等を通して肉牛生産からの温室効果ガス (GHG)排出量等の環境影響も変化させ得ると考えられるが、その影響はまだ明らかにはされていない。一方、現在では世界のGHGの半分以上が新興国・発展途上国から排出されているなど環境影響が大きくなっていることから、それらの国々においても環境影響の低減が必要になりつつある。ここでは、タイにおける粗放的(「粗放」)および集約的(「集約」)肉牛生産システムのライフサイクルアセスメント (LCA)を行い、環境影響を比較する (図1)。

成果の内容・特徴

  • 「粗放」および「集約」のCO2換算(CO2e)のGHG排出量は、出荷牛生体重1kgあたりそれぞれ、14.0および10.6 kgである (図2a)。「集約」は購入飼料由来のGHG排出量が増加するが、出荷月齢が早まることで特に消化管メタン排出量が減少し、出荷体重の増加と合わせ、全体のGHG排出量は「粗放」と比較して24%削減される。
  • 「粗放」および「集約」のエネルギー消費量は、出荷牛生体重1kgあたりそれぞれ、3.5および11.3MJである (図2b)。「粗放」は資材・燃料等の投入量が極めて小さいため、生産性が低くてもエネルギー消費量が小さい。一方「集約」では、エネルギー消費量の大部分が購入飼料によるものである。
  • 「粗放」および「集約」のSO2換算 (SO2e)の酸性化への影響は、出荷牛生体重1kgあたりそれぞれ、47.4および61.8gである(図2c)。いずれにおいてもふん尿由来のアンモニアが主要な負荷物質であり、「集約」においては購入飼料由来の負荷も一定の割合を占める。

成果の活用面・留意点

  • 評価の対象範囲は、飼料やその他資材の生産からと畜用に肉牛を出荷する段階までである。評価項目は、GHG排出量 (CO2、CH4、N2O)、エネルギー消費、酸性化である。環境影響評価に必要なデータは、現地の農家に聞き取り調査を行うことにより取得し、環境負荷係数等についてはIPCCガイドライン等の文献値を用いている。「集約」における購入飼料の主要な原料は、キャッサバ、パーム核油かす、米ぬか、大豆粕、糖蜜である。
  • 肉牛生産における環境と調和した生産性の向上を図るにあたり有用な情報となる。
  • 各肉牛生産システムの特徴、用いた環境負荷発生係数等、詳細については発表論文を参照されたい。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:畜産由来の温室効果ガス制御技術の高度化と家畜生産の温暖化適応技術の開発
  • 中課題整理番号:210c0
  • 予算区分:委託プロ(国際研究ネットワーク事業)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:荻野暁史、三森眞琴、山下恭広、田中康男、Kritapon Sommart(コンケン大)、Sayan Subepang(コンケン大)、林恵介(JIRCAS)
  • 発表論文等:Ogino A. et al. (2016) J. Cleaner Prod. 112: 22-31