モンゴルの伝統的乳製品より分離されたブタ胃ムチンへの付着性を有する乳酸菌

要約

モンゴル国の牧民家庭で作られた乳製品由来の乳酸菌Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 6-8、8-1とLactococcus lactis subsp. cremoris 7-1は試験管レベルでブタの胃ムチンに高い付着性を有する。7-1株は培養条件を変えることにより付着性が向上する。

  • キーワード:乳酸菌、ブタ胃ムチン、消化管粘膜
  • 担当:食品機能性・生体防御利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳酸菌の消化管粘膜への付着力は消化管への定着力の向上につながることから、プロバイオティクス選抜の際の指標のひとつとなっている。また、ピロリ菌やサルモネラ菌の感染は大きな問題であり、消化管粘膜へのこれら病原菌の付着が乳酸菌との競合により阻害される効果が期待できる。モンゴル国では牛や羊、馬の乳を利用した様々な乳製品が多数作られており、これらの中から新規な有用乳酸菌を取得できる可能性がある。本研究では、モンゴル国の牧民家庭で作られた乳製品(馬乳酒等)から分離した乳酸菌について、ヒトのモデルとして、ブタの胃ムチンへの付着性を調べ、新しい有用乳酸菌を見出すことを目的としたものである。また、乳酸菌の機能性を向上させる培養条件を開発し、効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 試験に使用した乳酸菌21株の中でLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 6-8および8-1、Lactococcus lactis subsp. cremoris 7-1は付着性が高いプロバイオティック乳酸菌Lactobacillus rhammnosus GGよりもブタ胃ムチンに対して高いまたは同程度の付着性を示す(図1)。
  • 分離した3株はトリプシン、過ヨウ素酸処理により付着性が低下する。6-8株、8-1株は加熱処理をした死菌体では付着性が低下するが、7-1株では低下しない。これら3株はタンパク質、炭水化物成分が付着性に関わるが、6-8株、8-1株と7-1株では付着に関わる因子は異なることが推察される。
  • 7-1株は果糖を糖源とし、培地中の酢酸ナトリウム濃度を0.5%にすると付着性が向上する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝資源にかかるモンゴル国関係機関との取り決め(PIC:事前の情報に基づく合意、MAT:相互に合意する条件、MTA:素材の移転を伴う場合の取扱い)は済んでおり、本研究で見出された優れた消化管粘膜への付着性を持つ乳酸菌を利用した、病原菌感染予防効果を有する食品の開発が期待できる。
  • 当該機能性は加熱処理をした死菌体でも見られるため、発酵乳としての利用だけでなく、食材に添加またはサプリメントとしても利用が可能である。
  • 食品中における酢酸ナトリウムおよび果糖の濃度を調節することで、7-1株の消化管粘膜への付着性を高めた状態で活用できる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:生体防御作用に関する健康機能性解明と有効利用技術の開発
  • 中課題整理番号:310c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:木元広実、山崎正史(国際農研セ)、佐々木啓介、守谷直子、竹中昭雄(生物研)、鈴木チセ
  • 発表論文等:
    1)Kimoto-Nira, H. et al. (2015) Anim. Sci. J. 86(3):325-332
    2)Kimoto-Nira, H. et al. (2016) Anim. Sci. J. 87(6):802-808
    3)木元ら「消化管粘膜付着性を有する乳酸菌」特開2015-73483 (2015年4月20日)