好気培養で乳酸菌のカロテノイド生産が促進され、酸化ストレス耐性が向上する
要約
カロテノイド生産乳酸菌を好気培養することで、イソプレンおよびカロテノイド生合成経路を構成する遺伝子群の発現量を増加させ、カロテノイド生産を促進することができる。加えて、好気培養した菌株の酸化ストレス耐性を向上させることができる。
- キーワード:乳酸菌、カロテノイド、遺伝子発現、ストレス耐性向上
- 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
- 代表連絡先:電話 029-838-8647
- 研究所名:畜産草地研究所・畜産物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
乳酸菌は通性嫌気性細菌であり酸化ストレスに弱く、ストレス耐性機構を解明することでストレス耐性を有する乳酸菌の選抜・育種が行われている。また、乳酸菌由来の抗酸化物質は動物腸内での酸化ストレスを軽減するとの報告がある。
本研究では、乳酸菌の作る抗酸化物質としてカロテノイドに注目し、これまでに乳酸菌由来カロテノイドは乳酸菌の酸化ストレス耐性を大きく向上することを明らかにしている(平成23年研究成果情報)。このように、乳酸菌が生産するカロテノイドは、乳酸菌の抗酸化物質として酸化ストレス耐性に関わっていることがわかってきたが、その生産制御機構についてはわかっていない。そこで本研究では、カロテノイドを中心とした乳酸菌のストレス耐性機構を解明するため、乳酸菌のカロテノイド生産が促進される培養法を検討し、カロテノイド生産促進条件で誘導される遺伝子群を明らかにする。また、カロテノイドが高蓄積した乳酸菌の酸化ストレス耐性について検討する。
成果の内容・特徴
- ウシ生乳由来のEnterococcus gilvus CR1株を好気培養(酸化ストレス処理:500 mLフラスコに200 mLの乳酸菌培地を加えたものを振とう培養)することで、カロテノイド生産が著しく上昇する(図1)。菌体のメタノール抽出液を用いてOD470から算出したカロテノイド量は、好気培養することで嫌気培養(上述したフラスコをアネロパック入りのパウチ内で静置培養)に比べて14倍程度増加する。
- 好気培養してカロテノイドが高蓄積したCR1株は、嫌気培養したものに比べて、過酸化水素に対する耐性が上昇する(図2)。
- CR1株を好気培養することで、Acetyl-CoAから始まるカロテノイドの前駆体を合成するイソプレノイド生合成遺伝子群およびカロテノイド生合成遺伝子crtNMの発現量が増加する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 乳酸菌のイソプレン-カロテノイド生合成経路に関連する遺伝子群は、酸化ストレス耐性を向上させる育種のターゲット遺伝子として利用できる。
- 本技術はカロテノイド生産乳酸菌のカロテノイド生産の強化および酸化ストレス耐性強化に利用できる可能性がある。
- Enterococcus属だけでなく、カロテノイド合成遺伝子を持つ一部のLactobacillus属でも、好気条件でカロテノイド生産が増加することを確認している。
具体的データ
その他
- 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
- 中課題整理番号:330a0
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2013~2015年度
- 研究担当者:萩達朗、小林美穂、野村将
- 発表論文等:
1)萩ら「乳酸菌のカロテノイド生産促進および酸化ストレス耐性向上技術」特開2015-116167 (2015年6月25日)
2)Hagi T. et al. (2014) FEMS Microbiol. Lett. 350(2):223-230
3)Hagi T. et al. (2015) FEMS Microbiol. Lett. 362(12):fnv075