単純な培養液を用いて体外で成熟・受精させた豚卵子からの子豚生産

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

豚未成熟卵子を、システインを 0.08mM含む修正TALP液内で36時間培養して得られた成熟卵子に体外受精を行い、受精 36時間後に 2-4細胞期に発生した受精卵をレシピエントに移植した。その結果、3頭の子豚が生まれた。

  • 担当:東北農業試験場・畜産部・家畜繁殖研究室
  • 連絡先:0196-43-3542
  • 部会名:畜産(家畜)
  • 専門:繁殖
  • 対象:家畜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

豚卵子の体外成熟・受精による子豚の生産は、 1989年にイタリアで初めて報告された。 しかし、受精後の雄性前核形成率が高い正常卵子を得るためには、 培養液中に卵胞細胞の添加を必要とするなど その卵子の培養方法が複雑であった。 ところが、組成が単純な成熟培溶液でもシステインを添加すると、 卵子内のグルタチオン濃度が高くなり、その結果、 受精後に高い雄性前核形成を示す正常な卵子を多く生産できることが判明した。 そこで、単純な培養方法で成熟させた豚未成熟卵子の個体への発生能を、 受精卵移植試験によって調べた。

成果の内容・特徴

  • システインを 0、0.02、0.04、0.08、0.14及び 0.57mM含む修正TALP液中で 36時間成熟培養した豚卵子のグルタチオン濃度 及び体外受精後の雄性前核形成率を調べた。その結果、 図1 に示すように 添加したシステインの濃度に依存して 卵子内のグルタチオン濃度及び雄性前核形成率が高くなった。
  • 豚未成熟卵子を、システインを 0.08mM含む修正TALP液中で 36時間培養して得られた成熟卵子(356個)に体外受精を行い、 受精36時間後に 2-4細胞期に発生した受精卵(84個)の内75個を 1頭のレシピエントに移植した。その結果、3頭の子豚が生まれた (表1参照) 。

成果の活用面・留意点

  • 比較的組成が単純な培溶液を用いた豚未成熟卵子の成熟培養の可能性が示唆され、 今後の豚における体外成熟・受精技術に活用できる。
  • 移植試験の頭数が少ないので、さらに例数を増やす必要があると思われる。

具体的データ

図1 成熟培養液へのシステイン添加が卵子内のグルタチオン濃度および受精後の雄性前核形成に及ぼす影響

表1 豚体外成熟・受精卵子の発生および受精卵移植試験

その他

  • 研究課題名:家畜の卵母細胞に係わる生理活性物質の作用機構
  • 予算区分 :大型別枠
  • 研究期間 :平成3~5年
  • 発表論文等:Nagai T., Ding J., Moor R. M.
                            Effect of follicle cells and steroidgenesis on
                            maturation and fertilization in vitro of pig oocytes.
                            J Exp Zool(1993) 266:146-151
                      Nagai T.
                            Current status and perspectives in INM-IVF of
                            porcine oocytes.
                            Theriogenology (1994) 41:73-78
                      Yosida M., Mizoguchi Y. Ishigaki K., Kojima T., Nagai
                            Birth of piglets derived from in vitro fertilization
                            of pig oocytes matured in vitro.
                            Theriogenology (1993) 39:1303-1311