トリチウムによる高窒素固定能根粒菌の簡易・迅速判定法

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要約

一部のダイズ根粒菌は窒素固定で発生する水素を酸化(水素回収活性)し、少ないエネルギーで窒素を固定する。本法は、トリチウムを用いた有用菌株のスクリーニング法であり、従来法の 10日間に比べ 3日間しか要しない簡易・迅速判定法である。

  • 担当:東北農業試験場・作物開発部・育種工学研究室
  • 連絡先:0196-43-3514
  • 部会名:生物工学
  • 専門:バイテク
  • 対象:豆類
  • 分類:研究

背景・ねらい

ダイズ根粒菌(Bradyrhizobium japonicum)の水素回収活性は、ダイズの窒素固定能を向上させる形質の 1つで、子実収量の増加も報告されている。 この形質は、ダイズ根粒菌においては一部の菌株にしか見られないため、水素回収活性をもつ菌株を選抜して接種することは、 ダイズの生産性向上に有益である。しかし、従来法では、判定に長い時間がかかるうえ、培地交換などの煩雑な操作も必要である。 そこで、従来法より迅速・簡便に水素回収系の有無を判定する方法が望まれていた。

成果の内容・特徴

  • (1) トリチウムを含む放射性水素ガスは放射性水素化ホウ素ナトリウムより発生させる(図1)。
    (2) 水素回収活性誘導培地とリン酸緩衝液を1:4に混合した培地に菌を接種し、 24時間振盪培養した後、酸素 2%の気相に換え、 放射性水素ガスを加えて 24時間培養する。 培養後、菌が懸濁している培地をシンチレータと混合し、液体シンチレーションカウンターで取り込まれたトリチウム量を測定する(図3)。
    (3) 使用後の放射性水素ガスはパラジウム石綿で酸化し、硫酸で捕集する(図2)。
  • 水素回収活性がない菌におけるトリチウムの取り込みは 培溶液だけの対照区と有意差がないが、水素回収活性がある菌においては取り込まれるトリチウムの量は対照区の 10倍から 100倍大きい。 両者の間でトリチウムの取り込み量に有意な差がみられる(表1)。 このことから、有意に高いトリチウムの取り込みがあれば水素回収活性を持つ菌と判定する。
  • 本法では、従来法で 2段階で行っていた水素回収活性の誘導と水素の吸収を同時に行うので操作が簡単になる。 また従来法が 10日間必要とした判定期間を 3日間に短縮できる。
  • 液体シンチレーションカウンターを用いるので多数の試料を連続的に測定できる。

成果の活用面・留意点

  • RI使用施設が必要である。
  • 根粒の水素回収活性の判定には組織を磨砕したものを用いる。
  • 他の根粒菌や、水素細菌のスクリーニングにも応用できる。
  • 水素回収活性の誘導の強さが一定でないので トリチウム取り込み量は菌の能力を必ずしも示すものではない。

具体的データ

図1 水素発生装置

図2 水素捕集装置

図3 判定のための培養法と所要時間

表1 各根粒菌株のトリチウム取り込み量

その他

  • 研究課題名:ダイズ根粒菌における窒素固定能向上のためのRI利用技術の開発
  • 予算区分 :原子力
  • 研究期間 :平成2年度~5年度
  • 発表論文等:トリチウムを用いた根粒菌の水素回収系の判定法、
                      日本土壌肥料学会誌、63巻3号、1992。