クラミドモナスの低光呼吸突然変異株による光合成能力向上のモデル系

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要約

光合成生物における世界初の低光呼吸突然変異株として作出に成功したクラミドモナス突然変異株7FR2Nは、光呼吸速度が野性株の半分程度である。単一の核遣伝子突然変異に由来するこの光呼吸の低下は、炭酸感受機能の障害に由来する過剰な細胞内炭酸輸送のためと推定する。

  • 担当:東北農業試験場・地域基盤研究部・生理生態研究室
  • 連絡先:019-643-3467
  • 部会名:生物工学、生物資源・生物工学
  • 専門:バイテク
  • 対象:植物
  • 分類:研究

背景・ねらい

イネ等のC3 植物の光合成は大気中の酸素により25~50%も阻害されている。 これは主に光呼吸によるもので、その主原因は、光合成CO2 固定酵素ルビスコがO2とも反応することにある。 多くの研究者の努力にも関わらず、 光呼吸の小さい品種や突然変異株はこれまでいかなる生物でも得られてなかった。 本研究の目的は「光呼吸の小さな突然変異株」を 緑藻クラミドモナスにおいて作出し、 それに関与する遣伝子の解明をすることにある。 イネ等の作物にその遺伝子を導入、 またはその作物の遣伝子を改良することで光呼吸を抑制できれば、 生産性の飛躍的な向上が期待できる。

成果の内容・特徴

  • 高CO2要求性で大気条件下では生育できない ホスホグリコール酸ホスファターゼ欠損突然変異株 (pgpl-18-7F)に更にエチルメタンスルホン酸で突然変異を誘発し、 大気条件下でも生育する二重突然変異 株として得た株のうち6株は、野性株より光合成のCO2 に対する親和性が高い。
  • 新開発の手法で測走した光呼吸速度は、 これら二重突然変異株の全てで野性株より小さい。 特に7FR2N株では、大気条件下で測定すると、 光合成速度が野性株より高いにも関わらず光呼吸速度は野性株の約半分である (図1)。
  • CO2固定酵素ルビスコの、 CO2とO2 の識別能力はいずれの株でも野生株と差がない (表1)。
  • 7FR2Nは光合成のCO2親和性が野生株より著しく高く、 低濃度の CO2をより効率的に利用できる。 なおこの能力は、細胞内の能動的なCO2輪送機能を阻害すると失われる。 これは、この株の細胞内CO2輸送が過剰な状態であることを 示唆しており、突然変異由来のCO2感受能力の低下が原因と推定する。
  • 遺伝解析(四分子解析)によると、低光呼吸速度、 光合成のCO2に対する高親和性、 生育の高CO2非要求性の3つの性質は単一の核遣伝子に由来している (表2)。
  • 戻し交配の結果得た突然変異株2株(表2の4-3と8-2)は低光呼吸ながら、 pgpl突然変異を含まない。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は、 クラミドモナスのpgpl突然変異株に二次突然変異を導人することで 低光呼吸突然変異株の作出が可能で、しかも実は容易であることを証明している。
  • 低光呼吸突然変異株の遺伝子解析により光呼吸の効果的制御法を 開発するには、さらに多くの低光呼吸突然変異株の単離・解析が必要である。
  • 従来の化学物質による突然変異誘発法の代わりに、 フレオマイシン耐性遺伝子等を含む優性易選択性マーカーの導人による 突然変異誘発法を用いる方が、突然変異遺伝子の解明がはるかに容易と考える。

具体的データ

図1 クラミドモナス野生株2137、ホスホグリコール酸ホスファターゼ欠損株18-7F、及び低光呼吸株7FR2Nの5%CO2培養細胞の大気条件下における光合成酸素交換速度及び光呼吸速度

表1 クラミドモナス野生株2137及び抵抗呼吸活性の二重突然変異株より精製したCO2固定酵素ルビスコのCCO2/O2相対特異性指数

表2 クラミドモナスの低光呼吸突然変異株7FR2N(交配型+)と野生株CC124(交配型-)を交配して行った遺伝解析(四分子解析)

その他

  • 研究課題名:クラミドモナス突然変異株を用いた光呼吸抑制法の開発
  • 予算区分 :バイテク育種
  • 研究期間 :平成10年度(平成8年~平成10年)
  • 発表論文等:Suzuki,K.(1997)Jpn J.Phycol.45;103-110.
                      Suzuki,K.,Mamedov,T.G.and Ikawa,T.(1999)Plant Cell Physiol.40