乾燥地で作物生育を促進する溝底播種

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

土壌面の溝底では、土壌水分の減少と塩類集積が遅れ、地温の日変化が抑制される。そのため、乾燥地で深さ5cm程の溝底に播種すると、作物の発芽・生育が促進される。

  • 担当:東北農業試験場・地域基盤研究部・気象評価制御研究室
  • 連絡先:019-643-3461
  • 部会名:生産環境・国際農業
  • 専門:農業気象
  • 対象:畑作物一般
  • 分類:研究

背景・ねらい

乾燥地の農業は、これまでも限られた水資源に依存してきた。近年、世界的に、 新しい農地の開発、砂漠の緑化、生活・工業用水の需要拡大などにより この水資源がさらに切迫している。この研究の背景となる中国、 新彊ウイグル自治区のグンバンチュンギュット沙漠南縁では、 このような状況にも関わらず、農地に多量な水が潅水されている。そこで、 農業用水を効率的に利用するために、 過度な潅水に頼らずに作物生育を促進する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 溝底播種は発芽率・生育を促進し、 その効果は新彊で慣行的な 湛水潅漑を上回る(表1)。
  • 深さ5cm程の小さな溝でも、その底では土壌水分の減少と地温上昇が抑制される (表1、図2)。
  • 溝底では、蒸発が抑制されるので塩類集積が遅れる (表2)。
  • 溝を南北方向に作ると、生育初期に朝夕の日射を遮り水ストレスの軽減に役立つ。 この方法では、作物生育にしたがって、遮光条件から徐々に馴化する利点がある (図3)。
  • これらの影響で、溝底播種では播種1カ月以内に、25から35mmの潅水を節約する (図4)。

成果の活用面・留意点

  • 伝統的に多くの乾燥地で多量な潅水に頼ってきたのは、 下層の塩の上昇を抑制するためである。したがって、節水栽培の導入には、 塩害の危険を回避するため、塩動態のモニタリングが不可欠である。
  • 日本でも夏の低温性作物では同様の効果が得られる。とくに、 西日本のコカブ栽培で良好な結果が報告されている。しかし、ホウレンソウでは、 抽苔が早まる場合があり、この原因は不明である。また、 ホウレンソウの萎凋病常発地では、病害が助長されるので利用できない。

具体的データ

図1 溝底播種の概念図

表1 溝底播種と湛水潅漑がコマツナの発芽・発育、土壌水分に及ぼす影響

図2 平床と溝底の地温の日変化

表2 地表面から深さ5cmまでの土壌のEC

図3 平床に対する溝底の透過率の日変化に及ぼす溝の包囲の影響

図4 小麦とコマツナの生体重と灌水量との関係に及ぼす播種方法の影響

その他

  • 研究課題名:溝底播種とべたがけの節水効果
  • 予算区分 :国際農業(乾燥農業限界地域)
  • 研究期間 :平成7・9年度
  • 予算区分 :経常(根圏物理環境の変化が作物の生育に及ぼす影響の解明)
  • 研究期間 :平成8~12年度
  • 発表論文等:新彊緑洲農業中新節水栽培方法的探討、干旱区研究、13、24-31。
                      Passive techniques to improve water use efficiency and plant growth
                      in arid regions. ActaHort(In press).