カリ施用による玄そばの放射性セシウム濃度の低減

要約

土壌からそばへの放射性セシウム(Cs)の移行を十分に低減するには、栽培前の作土の交換性カリ(K2O)含量を速効性のカリ肥料を用いて乾土100gあたり30mgK2Oを目標に土壌改良した上で、地域の施肥基準に応じた施肥を行うことが有効である。

  • キーワード:そば、放射性セシウム、カリ施用、移行低減
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 024-593-6176
  • 研究所名:東北農業研究センター・農業放射線研究センター
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性セシウム(Cs)は広範囲に飛散し、農耕地では放射性Csが作物により吸収され、可食部に蓄積することが問題となっている。2012年産の玄そばにおいて放射性Csの基準値超過が一部の圃場で認められた。そこで、そばへの放射性Csの蓄積と関わる要因を解析し、土壌からそばへの放射性Csの移行を低減するため対策技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 農家圃場での2012年産秋そばの調査において、玄そばの放射性Cs濃度と収穫後の作土の理化学性との関係をみたところ、収穫後の作土の交換性カリ含量が玄そばの放射性Cs濃度と最も密接に関係しており、収穫後の作土の交換性カリ含量が低いほど、玄そばの放射性Cs濃度は高い(図1)。
  • 現地圃場試験においても、作土の交換性カリ含量が低いほど玄そばの放射性Cs濃度は高い(図2)。
  • 以上より、吸収抑制対策として栽培前の作土の交換性カリ含量を速効性のカリ肥料を用いて乾土100gあたり30mgK2O以上とした上で、地域の施肥基準に応じた施肥を行うこととした。
  • 2012~2013年にそばを連作した5地点の農家圃場では、2013 年の吸収抑制対策により、2012年と比較して、いずれの圃場においても作土の交換性カリ含量が増加し、玄そばへの放射性Csの移行係数は低下した(図3)。
  • 農家圃場における2013年産の玄そばでは、放射性Cs濃度の基準値(100Bqkg-1)の超過は認められず、放射性Cs濃度はすべての玄そばで50Bqkg-1以下となり、2012年産と比較して大きく低下した(図4)。2012年から2013年にかけて、作土中の放射性Cs濃度の経時的な低下と相俟って、吸収抑制対策によって土壌の交換性カリ含量が増加したことが、玄そばにおける放射性Csの低下の要因と推察される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政機関、農業研究機関、農業技術普及指導機関、生産者
  • 普及予定地域:原発事故により放射性セシウムに汚染された地域(関係する7県の2013年度のそば作付け面積は約11,930ha)
  • その他:これらの成果は、2014年1月に農林水産省が公表した「放射性セシウム濃度の高いそばが発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」に掲載されている。これには、耕起法、収穫後の調製方法等による玄そばの放射性Csの低減に関する情報も掲載されており、有用である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(除染プロ)、その他外部資金(科学技術戦略推進費)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:久保堅司、小林浩幸、栗山泰(農水省)、原田浩秀(農水省)、松波寿弥、江口哲也、木方展治(農環研)、根本和俊(福島農総セ)、安藤慎一朗(宮城県古川農試)、粂川晃伸(栃木県農試)、慶徳庄司(福島農総セ)、星信幸(宮城県古川農試)、星一好(栃木県農試)、高橋守(岩手県)、太田健、木村武、信濃卓郎
  • 発表論文等:
    1) 農水省ら (2014)「放射性セシウム濃度の高いそばが発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」 (2014年1月)
    2) Kubo K. et al. (2015) Field Crops Res. 170(1):40-46