トラクタで利用できる浅層暗渠施工器

要約

浅層暗渠施工器は64kWのセミクローラ型トラクタで、PTOからの動力を用いずに深さ0.5m程度に本暗渠を施工できる器械である。本器で本暗渠を施工することにより、雨量の14~30%を暗渠から排水することができ、水田の地下排水機能を強化できる。

  • キーワード:暗渠排水、トラクタ、営農排水技術、浅層暗渠、田畑輪換
  • 担当:新世代水田輪作・高能率水田輪作
  • 代表連絡先:電話 0187-66-2774
  • 研究所名:東北農業研究センター・生産基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田の排水機能を良好な状態で維持するには本暗渠の導入が不可欠である。しかし多くの本暗渠は公共事業等で整備され、農家が営農作業として簡便に整備する手段がほとんどない。そこで農家が所有するトラクタにより簡便に本暗渠の施工が可能な浅層暗渠施工器を開発し、効果的な排水改良技術を提供する。

成果の内容・特徴

  • 浅層暗渠施工器は暗渠溝開削部、暗渠管導入部、もみ殻疎水材投入部、掘削深制御部、暗渠管リールおよびリール台で構成される。本器は64kW以上のセミクローラ型トラクタによりPTOからの動力を用いることなく、管頂の深さで0.4~0.5mに本暗渠(暗渠管φ50mm)を施工できる器械である(図1)。浅層暗渠施工器では、暗渠溝の開削(溝幅8cm)、暗渠管の敷設およびもみ殻疎水材投入を同時に行うことができる。
  • 掘削深制御部を利用することにより、開削時に浅層暗渠施工器本体にかかる揚力をトラクタ本体で押さえることができ、施工器本体の上昇が抑制されるため、深度0.5m~0.6mでの安定した開削が可能である(図2)。
  • 施工は、(1)小型バックホーで本暗渠上下流端(水閘部、通気孔部)を掘削する。(2)暗渠施工位置を弾丸暗渠せん孔機等で心土層を破砕し浅層暗渠施工器にかかる牽引抵抗を低減させる。本手法では暗渠管敷設後の修正が困難であるため、(3)浅層暗渠施工器による開削のみを行い、暗渠施工位置における開削深度を確認する。(4)確認後に暗渠管の敷設と疎水材の投入を行う。長辺100mの圃場において1本の本暗渠を施工する場合、暗渠管の敷設には約0.3~0.5時間、作業全体では約2.3~3.5時間を要する(図3)。
  • 本暗渠が未整備あるいは既設の本暗渠機能が低下した水田において、浅層暗渠施工器で本暗渠を施工し、補助暗渠と組み合わせることにより、雨量の約14~30%を本暗渠から排水でき、水田の地下排水機能を高めることができる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 排水機能の向上が必要な水田や水田転換畑で活用できる。
  • 浅層暗渠の施工可能性については、事前に施工する心土破砕の施工状況で判断する。心土破砕の施工深度が、暗渠管敷設の計画深度に達すれば、施工可能とする。
  • 本暗渠の排水効果向上および維持のため、本暗渠に直行して弾丸暗渠等の補助暗渠を深度0.3~0.4m、間隔2~4mで施工する。そのため、浅層暗渠施工器による暗渠管の埋設深度は0.4m以深とする必要がある。
  • 本施工器は2007 年東北農業研究成果情報「暗渠もみ殻(疎水材)の簡易開削充填機」(http://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H19/suitou/H19suitou018.html)と同様に腐食した疎水材に対して再充填が可能である。また、同様に構造が簡素であるため、一般の鉄工所に製作を依頼できる。なお、本施工器の製作および暗渠施工はユーザー責任で行うことになる。図面等の詳細についてはマニュアル等で提示する予定である。制作費は諸材料費と工賃を含めて80万円程度と見込まれる。

具体的データ

図1~2
図3
図4

その他

  • 中課題名:作業の高速化による高能率低投入水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:冠秀昭、関矢博幸、大谷隆二
  • 発表論文等:冠ら(2014)農業農村工学会論文集、292:275-283