コムギ品種「きたほなみ」の優れた製粉性を支配する遺伝要因

要約

コムギ品種「きたほなみ」は、製粉性の向上に寄与する18個の量的形質遺伝子座(QTL)を持っている。3Bと7A染色体上のQTLは本州以南の多くの品種が持っていない可能性が高いので、これらQTLの導入により製粉性の向上が見込まれる。

  • キーワード:コムギ、製粉性、アソシエーション解析、量的形質遺伝子座、倍加半数体
  • 担当:作物開発・利用・小麦品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 019-643-3514
  • 研究所名:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道の秋まきコムギ品種「きたほなみ」は優れた製粉性を持つことから、本形質を本州以南の適応品種に導入する試みが進められている。そこで、「きたほなみ」の交雑後代から高製粉性系統を効率的に選抜するため、本形質の遺伝要因を明らかにする。
交雑集団による従来の量的形質遺伝子座(QTL)解析では、解析結果が両親の遺伝的背景に依存するため、検出されたQTLが他の集団では利用できないケースが多い。そこで、交雑集団ではなく、遺伝資源や主要品種を用いるアソシエーション解析によって製粉性に関するQTLを網羅的に検出し、その中から育種に利用可能なものを探索する。

成果の内容・特徴

  • 「きたほなみ」およびその類縁品種・系統からなる65点(軟質48点、硬質17点)を供試して、3場所(北見、盛岡、長野)で3作期(2008~2011年)試験したところ、製粉歩留の環境間相関は0.419~0.945で平均0.717である。全環境の平均値では、「きたほなみ」は軟質小麦の中で最も製粉歩留が高い(図1)。
  • 供試材料間で多型を示す3,815個のマーカーによるアソシエーション解析では、62個のマーカーが製粉歩留と関連性を示し、これらは21個のQTLとしてまとめられる。
  • 21個のQTLのうち、18個は「きたほなみ」型を持つ場合に製粉歩留が向上する。「きたほなみ」の系譜から、8個は母親由来、5個は父親由来、5個は両親のどちらかに由来すると考えられる(図2)。
  • 検出したQTLのうち効果の高いものに関して、「きたほなみ」と本州品種の交雑に由来する3つの倍加半数体(DH)集団で確認すると、5個のQTLで少なくともひとつのDH集団で効果が見られる(表1)。なお、3Bおよび7A染色体上のQTLは3集団ともに効果がみられる。また、これらQTLは組合せ効果が認められる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 検出したQTL近傍のマーカーを用いれば、「きたほなみ」の交雑後代から高製粉性系統を効率的に選ぶことができる。特に、3Bおよび7A染色体上のQTLは本州以南の品種の多くが持っていない可能性が高く、これらの導入効果は高いと考えられる。
  • 実際の育種集団は主に二系あるいは三系交雑からなるため、今回アソシエーション解析で網羅的に検出した全てのQTLが分離するとは限らない。
  • QTL近傍のマーカーの多くは検出に高額機器を必要とするアレイベースのSNPマーカーであることから、多数のSNPを安価且つ簡便に検出するための技術開発が必要である。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:気候区分に対応した用途別高品質・安定多収小麦品種の育成
  • 中課題整理番号:112d0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開)、委託プロ(ゲノム)
  • 研究期間:2008~2014年度
  • 研究担当者:石川吾郎、中村和弘、伊藤裕之、齋藤美香、中村俊樹、佐藤三佳子(道総研中央農試)、神野裕信(道総研北見農試)、吉村康弘(道総研北見農試)、西村努(道総研上川農試)、前島秀和(長野農試)、上原泰(長野農試)、小林史典(生物研)
  • 発表論文等:Ishikawa G. et al. (2014) PLoS ONE 9(10): e111337. doi:10.1371/journal.pone.0111337