濁度観測による農業用水中の放射性セシウムの連続推定技術

要約

濁度の連続観測により農業用水中の放射性セシウム濃度の推定が可能である。簡易的かつ連続的に放射性セシウムの経時変化が把握できるため、農業用水中の放射性セシウムの新たな連続モニタリング手法として活用が期待される。

  • キーワード:放射性セシウム、除染、農業用水、灌漑管理、濁度
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7200
  • 研究所名:東北農業研究センター・農業放射線研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質の農業用水源への移行と下流への拡散が懸念されている。農業用水に含まれる放射性物質を経時的に把握することは、震災復興に欠かせない重要な課題である。そのためには農業用水を通じた水路や農地への放射性物質の流入量を明らかにすることが必要であるが、水中の放射性物質濃度の現地測定が困難であること等から、これまで検討されてこなかった。本技術は、用水中の濁度と放射性セシウム(以下、「RCs」という)濃度の関係性を利用して、比較的測定が容易な濁度の連続観測によって、用水中のRCs濃度の経時変化を推定するものである。

成果の内容・特徴

  • 阿武隈川を水源とする福島県中通りに位置するH地区において、幹線用水路上流部の用水の濁度とRCs濃度との間には強い相関があると分析され(図1)、環境水中の放射性物質が主に懸濁態由来であることから、用水中のRCsは降雨時に流出する土砂を起源とする懸濁態成分とともに供給されると考えられる。
  • 本RCs推定法は、対象地点において、用水を濁度毎に複数回に採水しRCs濃度を調べ、濁度とRCs濃度の関係式を求めるステップ1、濁度計、水位計を設置し、10分毎に濁度、水位(流量)を連続観測するステップ2、水位毎に複数回の流量観測を行い、水位・流量曲線を求めるステップ3、RCs濃度およびRCsのフラックスの経時変化を推定するステップ4に構成される(図2)。
  • 濁度の連続観測データに濁度とRCs濃度の関係式を適用することによって、濁度観測によるRCs濃度の経時変化を推定することができる(図3)。
  • 幹線用水路への流入量の経時変化に3.の濁度によるRCs 推定値を適用することで、RCsのフラックスの経時変化が推定され、これを積算することで測定地点を通過するRCs量を把握できる。

成果の活用面・留意点

  • 福島県浜通りなど、今後の作付け再開予定地域において、農業用水中のRCsモニタリング手法として活用が期待される。
  • 濁度の正確な測定のため、用水中のゴミなどがセンサーに接触しないよう、設置方法に留意する必要がある。
  • 濁度とRCs濃度の関係は、地区毎に求める必要がある。また、1年に1回程度更新することが望ましい。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:申 文浩、久保田富次郎、濵田康治、人見忠良
  • 発表論文等:申ら(2015)農業農村工学会誌、83(1):35-38