主要切り花花きに含まれる未同定糖質の同定とその生理的役割

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要約

キクではL-イノシトールとシリトールが、バラではメチルβ-D-グルコシドとキシロースが、 カーネーションではピニトールが、またスイートピーではボルネシトールが主要な構成糖 の一つである。メチルβ-D-グルコシドとピニトールは、切り花において貯蔵糖質としての 役割を果たしている。

  • キーワード:キク、L-イノシトール、シリトール、バラ、メチルβ-D-グルコシド、キシロース、、カーネーション、ピニトール、スイートピー、ボルネシトール、貯蔵糖質
  • 担当:野菜・茶業試験場花き部流通技術研究室
  • 連絡先:0592-68-4664
  • 部会名:野菜・茶業
  • 専門:生理
  • 対象:花き類
  • 分類:研究

背景・ねらい

切り花においては、炭素源は限られており、糖質の添加は品質保持に効果を示すため、糖質の役割を明らかにすることが重要となっている。切り花の糖代謝において、グルコース、フルクトースおよびスクロースのみが論議の対象とされていたが、主要切り花花きであるキク、バラ、カーネーションおよびスイートピーにおいて、これらの代謝糖以外に多量の未同定糖質が検出されたため、これらの未同定糖質の単離・同定・定量を行うとともに、その生理的役割を明らかにする。沖縄県は冬春季における我が国でも有数のサヤインゲンの産地である。しかし、耐暑性の高いサヤインゲン品種がなく、6月~10月の高温期には既存の品種は結莢できず、沖縄県にはこの期間に収穫するサヤインゲン栽培はなかった。そこで、本研究では耐暑性サヤインゲン品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 鉛結合型陽イオン交換カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより、グルコース、フルクトース、スクロースおよびミオイノシトール以外にキクでは2種類、バラでは2種類、カーネーションでは1種類、またスイートピーでは1種類の未同定糖質が検出された。(図1)
  • これらの未同定糖質を高速液体クロマトグラフィーを用いて単離し、NMRとマススペクトルにより構造解析を行い、キクの未同定糖質はL-イノシトール(ピークA)とシリトール(ピークB)、バラのそれはメチルβ-D-グルコシド(ピークC)とキシロース(ピークD)、カーネーションのそれはピニトール(ピークE)、またスイートピーのそれはボルネシトール(ピークF)であると同定した。これらの新たに同定された糖質は、それぞれの花きにおいて主要な構成糖の一つである。(表1)
  • バラ切り花におけるつぼみの開花は、茎が長いほど促進された(図2)。メチルβ-D-グルコシドは他の代謝糖と同様に減少しており(図3)、メチルβ-D-グルコシドの減少量と花径との間には高い相関がみられた。またメチルβ-D-グルコシド投与によりつぼみの開花は著しく促進された(データ略)。これらの結果より、メチルβ-D-グルコシドはバラ切り花において貯蔵糖質としての役割を果たしており、開花に寄与していることが明らかにされた。同様の実験により、ピニトールは他の代謝糖より代謝されにくいが、カーネーションの切り花において貯蔵糖質としての役割を果たしていることが判明した(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 切り花の老化生理における糖代謝に関する基礎的研究に利用可能である。
  • 切り花において貯蔵糖質が多いほど貯蔵性が優れていることが知られていることから、切り花の栄養状態の診断に関する研究に利用可能である。

具体的データ

図1.キク(葉)、バラ(花弁)、カーネーション(葉)およびスイートピー(花弁)糖画分のHPLCクロマトグラム

 

表1.キク、バラ、カーネーションおよびスイートピー各器官の糖含量

 

図2.異なる長さのバラ切り花における花径の経時的変化

 

図3.異なる長さに調整したバラ切り花の茎中の糖含量

 

その他

  • 研究課題名:切り花の老化に関連した未同定糖質の単離と構造の解明・花きの開花及び老化に関連した糖質の動態ならびにその役割の解明
  • 予算区分:短期重点、重点基礎、経常
  • 研究期間:平成7年度(平成4~7年)
  • 研究担当者:市村一雄・木幡勝則・須藤憲一
  • 発表論文等:
    ①園学雑,63(別1),410-411,1994.
    ②園学雑,64(別1),424-425,1995.
    ③園学雑,64(別1),426-427,1995.
    ④PlantCellPhysiol.,36(S),86,1995.
    ⑤園学雑,64(別2),496-497,1995.