レタス腐敗病細菌(Pseudomonas cichorii)が生産する植物毒素・チコリンの作用機構

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要約

腐敗病細菌(Pseudomonas cichorii)に感染したレタス組織では、病原細菌が生産する植物毒素・チコリンによって、自家蛍光物質の蓄積、組織硬化などの生理的反応が誘導される防御反応を乗り越えて、病徴が発現する。

  • キーワード:腐敗病細菌(Pseudomonas cichorii)、レタス、植物毒素、チコリン
  • 担当:野菜・茶業試験場 野菜育種部 耐病性機構研究室
  • 連絡先:019-643-3414
  • 部会名:野菜・茶業、総合農業(生産環境)
  • 専門:作物病害
  • 対象:葉茎菜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

Pseudomonas cichoriiによるレタス腐敗病は、長野県、岩手県などの寒高冷地での夏秋作で多発し、安定生産上の大きな阻 害要因となっている。本病原細菌はレタスに病徴と類似した症状を発現させる植物毒素・チコリンを生産することから、病原細菌の接種並びにチコリンの施与が レタス組織に及ぼす作用を解明する。

成果の内容・特徴

  • 接種により、P.cichoriiでは6時間後から、チコリンでは3時間後からそれぞれ原形質膜を中心とした微細構造変化が観察され、24時間後には細胞死が観察される。
  • P.cichoriiを接種した場合と同様に、チコリン接種によってレチュセニン Aと考えられるファイトアレキシンの生産がレタス組織で誘導される。ファイトアレキシンの生産は他のレタス類とダイコン、カブ、ヤマノイモでも誘導される。 (表1)
  • P.cichorii及びチコリンの接種によってレタス組織内で細胞壁を中心として自家蛍光物質が24時間以内に集積する。この自家蛍光物質の蓄積は他の作物でも誘導される。 (表2)
  • レタス組織は、接種によってP.cichoriiでは12時間目から、チコリンでは6時間目から硬化しはじめ、約24時間目まで直線的に硬化する。 (図1)
  • チコリン及びP.cichoriiの接種によって電解質の漏出、接種6時間目のPAL(phenylalanine ammonia lyase)活性の誘導が認められる。
  • シクロヘキシミド、ブラストサイジン-S等のタンパク質合成阻害剤のレタス組織への前処理は、チコリン及びP.cichoriiによる病徴発現を抑制する (表3) 。また、レタス組織での自家蛍光物質の蓄積、組織硬化は、シクロヘキシミドの前処理によって抑制される(図1)。
  • チコリンは病原性を有するP.cichroiiの一部の菌株によって生産され、他の植物病原細菌では生産されない。チコリンを生産しない病原性P.cichroiiによる病徴は、チコリンによる症状と同一であるので、これらの菌株ではチコリンに類似した植物毒素が生産されていることが示唆される。
  • 以上の結果から、P.cichoriiによる病徴発現は、チコリンまたはチコリン類似物質によって誘導されるレタス組織側の自家蛍光物質の蓄積、ファイトアレキシン誘導等に代表される過敏感反応等の生理代謝反応の結果であることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本病の防除手法を開発する際の基礎資料として活用できる。
  • チコリンは他の作物にも過敏感反応と考えられる反応を誘導するので、他の作物の感染生理機構を解明する際の基礎資料として活用できる。

具体的データ

表1 各種作物におけるファイトアレキシンの誘導

表2 接種による自家蛍光の発生

図1 チコリン及びP.cichorii接種によるレタス組織の硬化とシクロヘキシミド前処理による硬化抑制

表3 タンパク質合成阻害剤前処理による病徴発現の抑止

その他

  • 研究課題名:野菜の細菌性腐敗病の発病機作
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成8年度(昭63~平8年)
  • 研究担当者:白川 隆・堀内誠三・尾崎克己
  • 発表論文等:1)Pseudomonas cichorii及びcichorinによるレタスの微細構造変化.日植病報,
    59,316,1993.
    2)Cichorinによるファイトアレキシンの誘導.日植病報,60,368-369,1994.
    3)Pseudomonas cichorii及びcichorin接種によるレタス組織の早期変化.
    日植病報,62,313-314,1996.