イチゴの休眠覚醒のための低温要求量の判定指標と遺伝

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要約

イチゴの休眠覚醒のための低温要求量を判定する指標として、「ランナー発生の有無」が有効である。また、本指標を用いた低温要求量についての遺伝解析では低温要求量の多い品種と少ない品種とのF1は少ない側に偏る。

  • キーワード:イチゴ、休眠覚醒、低温要求量、指標、遺伝
  • 担当:野菜・茶業試験場 野菜育種部 夏秋野菜育種研究室
  • 連絡先:019-643-3414
  • 部会名:野菜・茶業
  • 専門:育種
  • 対象:果菜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

寒冷地イチゴの半促成栽培には休眠が深い、すなわち休眠覚醒のための低温要求量の多い品種が適している。しかし、実生個体の休眠覚醒のための低温要求量 は、増殖したランナーを異なる低温量に遭遇させ、その後の生育などから判定するため、多数個体について実施することが困難である。そこで、簡易な低温要求 量の判定指標を明らかにするとともに、これを用いて低温要求量の遺伝様式を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イチゴの休眠程度を判定する指標には、従来、葉柄長の推移、ランナーの発生、開花の連続性などが用いられるが、個体間変動が小さく、判定が容易な低温遭遇後の温暖・長日条件でのランナー発生の有無が有効である(表1)。
  • ランナー発生で判定した品種の休眠覚醒に要する5°C以下の低温遭遇時間は、一季成り性で浅休眠性の‘女峰’は 250時間以下、中休眠性の‘宝交早生’は 500時間程度、深休眠性の‘ベルルージュ’は750時間程度であり、中間性の‘Aiko’、‘Pajaro’は極深休眠性で1000時間程度である(表1)。深休眠性個体の選抜には 750時間以上の低温遭遇時間が必要である。
  • ランナー発生の有無により判定した休眠覚醒に要する低温遭遇時間は苗質によって異なり、実生当年苗<実生越年苗<ランナー苗の順となり、最も低温遭遇時間を要するランナー苗で精度の高い深休眠性個体の選抜が可能である(表2)。
  • 実生のランナー苗を用いランナーの発生の有無を指標として深休眠性の遺伝性を‘女峰’と‘Aiko’の正逆交配組合せ、並びに‘Aiko’と‘Pajaro’との交配組合せでみると、交雑F1 実生の休眠性は浅い親側に偏る傾向にあり、低温要求量の多い個体の選抜には多数個体を使用する必要がある(図1)。

成果の活用面・留意点

深休眠性、浅休眠性品種の育成のための基礎資料となる。

具体的データ

表1 イチゴ品種の生育、開花と低温遭遇時間との関係

表2 実生の当年苗、越年苗及びランナー苗の休眠覚醒に及ぼす低温遭遇時間の影響

図1 3組合せにおける両親(S)、各S1及びF1のランナー発生から判定した休眠覚醒個体の頻度分布

その他

  • 研究1課題名:イチゴの生態的特性
  • 予算区分 :経常(場内プロ)
  • 研究期間 :平成8年度(平成3~8年)
  • 研究担当者:沖村 誠・五十嵐勇
  • 発表論文等:1)イチゴ品種の生育・開花に及ぼす低温遭遇時間の影響.園学雑,61(別2),1992.
                       2)イチゴのカリフォルニア品種群の生育・開花に及ぼす低温遭遇前歴の影響.東北農研,
                         48,1995.
                       3)イチゴの休眠覚醒に要する低温量の交雑実生における分離.園学雑,65(別2),1996.