Fragaria × ananassaF.nilgerrensisとの複倍数性種間雑種と特性

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

8倍性栽培イチゴ(F.× ananassa)と2倍性野生種(F. nilgerrensis)との種間雑種から試験管内倍化法により、着果性に優れ、果重、果形、糖度、ビタミンC含量などは栽培イチゴと同程度で、かつ野生種の芳香を有した複倍数性種間雑種を育成した。

  • キーワード:8倍性栽培イチゴ、2倍性野生種、F. nilgerrensis、野生種の芳香、複倍数性種間雑種
  • 担当:野菜・茶業試験場 久留米支場 栄養繁殖性野菜育種研究室
  • 連絡先:0942-43-8271
  • 部会名:野菜・茶業
  • 専門:育種
  • 対象:果菜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

栽培イチゴの遺伝的変異拡大のために、野生種の有用形質(芳香性、四季成り性、耐病性)の導入が研究されており、2倍性野生種であるF.vescaと栽 培イチゴとの5倍性種間雑種をコルヒチンで倍加することにより、着果性のある複倍数性種間雑種が作出されている。同様の手法により、栽培イチゴにないモモ に似た香りを有し、育種素材として利用されていない2倍性野生種のF.nilgerrensisを用いた種間交配を行い、特有の香りを有する複倍数性種間雑種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 育成経過 国際農業研究プロジェクト(果菜類などの耐病性優良系統の育成に関する中国との共同研究)において上海市農業科学院より導入したF.nilgerrensisを 花粉親、'とよのか'を子房親として交配を行い複数の5倍性種間雑種を作出したが、これらは完全不稔であった。そこでこれらの茎頂組織を、コルヒチン 100ppm、BA 2.0ppm 及び NAA 0.02ppmを含むB5培地上で培養することにより倍加処理を行い、着果性に優れる複倍数性種間雑種を育成した。
  • 特性の概要 1)複倍数性種間雑種の植物体の形態は'とよのか'に近いが、毛じが多いなど花粉親の形質もみられ、葉柄長はやや短い。草勢は'とよのか'と同程度に強い。 2)RAPD分析の結果では、複倍数性種間雑種は両親の特異的バンドを併せ持つ(図1)。 3)花は大きく、花弁は淡黄ピンク色(日本園芸植物標準色票値:1301)、花粉のサイズは'とよのか'と同程度で、花粉の発芽は良好である。 4)果実は円錐形であり、果重、糖度、滴定酸度、ビタミンC含量などは栽培イチゴと同程度であるが、硬度がやや低く、果皮色が非常に薄く、光沢は劣る(図2、表1) 。 5)香気成分は Ethyl acetate 含量が非常に多く F.nilgerrensis と類似し、栽培イチゴとは大きく異なる(表2)。 6)味が淡泊であり、肉質が柔らかいことから食味は劣るが、モモに似た風味がある。

成果の活用面・留意点

  • 野生種型の香気特性を活かしたイチゴの品種育成のための基礎資料ならびに食品素材あるいは加工原料として利用する場合の研究材料となる。
  • 共同研究により野生種型香気特性の利用研究等を実施する場合には、遺伝資源配布規程により植物体の提供が可能である。

具体的データ

図1 'とよのか'とF.nilgerrensis及びそれらの複倍数性種間雑種のバンドパターン

図2 'とよのか'。F.nilgerrensis及びそれらの複倍数性種間雑種の果実形質

表1 イチゴ栽培種とF.nilgerrensisとの複倍数性雑種の果実特性

表2 イチゴ栽培種とF.nilgerrensisとの複倍数性雑種の主要香気成分

その他

  • 研究1課題名:2倍性野生種を利用したイチゴの有用形質導入技術
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成8年度(平成6~10年)
  • 研究担当者:野口裕司・望月龍也・曽根一純
  • 発表論文等:試験管内倍化法によるFragaria x ananassaF.nilgerrensisとの着果性に優れる
    種間雑種の作出.園学雑,64(別1),342-343,1995.