ハクサイ根こぶ病抵抗性遺伝子Crr1a
要約
ハクサイ根こぶ病抵抗性遺伝子Crr1aは、TIR-NB-LRRモチーフを有するタンパク質をコードし、根の中心柱および皮層周辺において発現する。Crr1aを導入することで、根こぶ病の病原型グループ2および4に分類される菌系に対する抵抗性を付与できる。
- キーワード:ハクサイ、根こぶ病、抵抗性遺伝子
- 担当:業務用畑野菜作・露地野菜品種開発
- 代表連絡先:電話050-3533-3861
- 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
根こぶ病抵抗性はアブラナ科野菜の重要な育種目標の1つである。これまでに、抵抗性素材カブ「Siloga」において根こぶ病抵抗性遺伝子座Crr1, Crr2が同定されているが、遺伝子の塩基配列情報、発現部位、菌系の病原型との対応関係についての情報はほとんどない。Crr1遺伝子座が存在する染色体領域の詳細な解析から、この領域には単独で根こぶ病抵抗性を発揮する遺伝子Crr1aとCrr2遺伝子座とともに抵抗性を発揮する遺伝子Crr1bが存在することが示唆されている。そこでCrr1a遺伝子を単離し、その構造、発現および機能を明らかにする。
成果の内容・特徴
- Crr1aはBrassica rapa連鎖群A08上の2つのDNAマーカー(B355H7とB359C3)間の8kb内に存在し、4つのエキソンからなる遺伝子である(図1)。
- Crr1aは、病害抵抗性遺伝子に特徴的なTIR(Toll/インターロイキン-1受容体相同)領域、NB(ヌクレオチド結合)領域、LRR(ロイシン反復)領域を有するタンパク質をコードする遺伝子である(図1)。
- Crr1aを過剰発現する形質転換したシロイヌナズナは、菌株「Ano-01」に対して抵抗性を示す(図2、表1)。
- Crr1aの根における発現部位は、根こぶ病の第2次感染が起こる中心柱および皮層周辺であると推定され(図3)、抵抗性植物において病原体の増殖抑制が観察される部位と一致する。また、抵抗性とは無関係な第1次感染が起こる根毛は発現部位ではないと推定される(図3)。
- Crr1aは、判別品種「CR隆徳」、「SCRひろ黄」を用いて分類される4つの病原型のうち、グループ2および4の菌系に対して抵抗性の効果を有する(表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象:民間種苗メーカー、公立研究機関等。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:実用品種育成に向けて本研究の情報を活用して3件の共同研究を実施中。
- その他:本遺伝子の塩基配列情報は、GenBankに登録されている(accession no. AB605024)。Crr1遺伝子の塩基配列情報を利用することで、Crr1a遺伝子座に連鎖するSSRマーカーBRMS-173(2002年成果情報)よりも高精度なDNAマーカーの作製が可能となる。「はくさい中間母本農9号」を素材として、効率的にハクサイにCrr1aを導入することができる。
具体的データ
![図1~3、表1](../../../files/113b0_01_09_01.png)
その他
- 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
- 中課題番号:113b0
- 予算区分:委託プロ(DNAマーカー)、科研費、交付金
- 研究期間:2004?2012年度
- 研究担当者:畠山勝徳、諏訪部圭太、加藤丈幸、布目司、福岡浩之、松元哲
- 発表論文等:
1)松元ら「根こぶ病抵抗性アブラナ科植物の作出方法」特開2012-065567
2)Hatakeyama K. et al. (2013) PLOS ONE 8(1): e54745. doi:10.1371/journal.pone.0054745