ハクサイ根こぶ病抵抗性遺伝子座CRbの詳細遺伝地図および選抜マーカー
要約
根こぶ病病原型グループ3に抵抗性を付与するCRbは、2つのDNAマーカーKB59N07とB1005との間の約140kbのゲノム領域に座乗する。CRb周辺のDNAマーカーを活用することにより、根こぶ病抵抗性系統の高精度で効率的な選抜が可能である。
- キーワード:ハクサイ、根こぶ病、抵抗性遺伝子、CRb、DNAマーカー
- 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発
- 代表連絡先:電話 050-3533-3861
- 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
根こぶ病はアブラナ科野菜にとって難防除の土壌伝染性病害であり、抵抗性(CR)のハクサイ品種の罹病化が報告されている。罹病化の要因である根こぶ病菌系の分化に対応するためには、複数の抵抗性遺伝子を効率よく導入することが必要である。根こぶ病菌は4つの病原型(グループ1~4)に大別されており、野菜茶業研究所が育成した「はくさい中間母本農9号」は、グループ1、2、4に属する菌株には抵抗性を示すが、グループ3には罹病する。そこで、ハクサイF1品種「CR新黄」が有するグループ3に対する抵抗性遺伝子座(CRb)の詳細遺伝地図を作成し、選抜育種に有用な情報を提供する。
成果の内容・特徴
- 「CR新黄」のF2後代172個体を用いた連鎖解析により、CRbは開発した2つのDNAマーカーであるKBrH059N21FとKBrH129J18Rの間に座乗する。CRbと各マーカーとはそれぞれ0.2および0.4cM離れている(図1A)。
- Brassica rapaのゲノム配列情報 (BRAD: http://brassicadb.org/brad/)を用いて上記のDNAマーカー間に新たなマーカーを開発し、「CR新黄」のF2後代2,032個体のマーカーの分離からCRb周辺の詳細遺伝地図を作成した。マーカー間で組換えを生じた個体のF3のグループ3に対する抵抗性の有無に基づき、CRbはKB59N07とB1005との間の約140kbのゲノム領域に位置づけられる(図1B,C)。このゲノム領域には、14個の遺伝子が推定され、植物の病害抵抗性遺伝子に共通するモチーフ(TIR-NBS-LRR)を有する遺伝子も含まれる(データ略)。
- グループ3に分類される菌株「No.14」に罹病性を示すハクサイ・コマツナ類およびカブの58品種(表1)におけるCRb周辺に座乗する10個のマーカーの抵抗性アリルの遺伝子頻度は1.3~10.6%と低い(表2)。そのため、これらのマーカーは、罹病性の品種・系統にCRb遺伝子をマーカー選抜により導入する際に有用である。
成果の活用面・留意点
- 「CR新黄」を母本に用いることにより、グループ3に分類される菌株への抵抗性をマーカー選抜によって効率的に付与できる。
- 「CR新黄」の根こぶ病抵抗性は、一遺伝子座(CRb)の優性形質として遺伝する。
- グループ3抵抗性系統に「はくさい中間母本農9号」が有するCrr1とCrr2を導入することにより、4グループの根こぶ病菌系に抵抗性の品種を育成することができる。
- マーカー情報は、Kato T. et al. (2013) Breed. Sci. in pressから入手可能である。
具体的データ
その他
- 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
- 中課題番号:113b0
- 予算区分:交付金、科研費
- 研究期間:2011?2012年度
- 研究担当者:松元哲、加藤丈幸(三重大院生資)、畠山勝徳、吹野伸子
- 発表論文等:
1) Kato T. et al. (2012) Breed. Sci.62:282-287
2) Kato T. et al. (2013) Breed. Sci. in press