感染性クローンを利用した簡易で信頼性の高いTYLCV接種法
要約
トマト切断シュートを、Tomato yellow leaf curl virus (TYLCV)の感染性クローンを保持したアグロバクテリウムの菌懸濁液中に浸漬・減圧処理することで、簡易かつ確実にTYLCVを接種できる。接種漏れがなく、感染が揃うため正確な抵抗性評価が可能である。
- キーワード:トマト黄化葉巻病、TYLCV、感染性クローン、接種法、抵抗性評価
- 担当:日本型施設園芸・野菜ゲノム利用技術
- 代表連絡先:電話 050-3533-3861
- 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
Tomato yellow leaf curl virus (TYLCV)によって引き起こされるトマト黄化葉巻病は、トマトの重要病害である。抵抗性品種の利用が最も効果が高い防除法であるが、TYLCVは保毒タバココナジラミの吸汁によってのみ媒介されることから、抵抗性品種の育成には保毒虫による接種によって抵抗性検定が行われている。しかし、保毒虫による接種は虫の維持・管理や接種作業に多大な労力を要するとともに、接種圧が必ずしも一様とならないため接種漏れが生じやすい。一方、現行のTYLCV感染性クローンのシリンジによる注入接種は、塩基配列レベルで常に同一のウイルスを接種できるという長所があるが、労力の点で問題がある。そこで、感染性クローンを利用した簡易で信頼性の高いTYLCV接種法を開発する。
成果の内容・特徴
- 切断したトマトのシュート(トマト切断シュート)を、TYLCV-Mld系統焼津分離株(TYLCV-SzY)の感染性クローンpBSzYを保持するアグロバクテリウム菌懸濁液に5分間浸漬することにより(図1)、高効率にTYLCVを感染させることができる(図2)。
- 5分間の浸漬処理では接種漏れが発生する場合がある。浸漬時間を60分と長くしても接種漏れを確実に回避することはできないが、5分間の浸漬の後-0.09 MPaの減圧処理を5分間行うことにより(図1)、感染初期のウイルス検出率が向上するとともに、接種漏れなく確実に感染させることが可能である(図2)。
- 減圧処理を行うことにより、接種漏れなく接種ができ、ウイルス増殖量・病徴発現時期が揃うことから、ウイルス増殖量・発病指数の差から系統間の品種間差異を検出することが可能である(図3、4)。
- 本接種法は保毒虫の維持管理が不要であり、また接種法が簡便であるため、大量の植物を比較的短時間に接種することが可能である。
成果の活用面・留意点
- 抵抗性品種育成における大規模な接種検定やTYLCVの病理学的研究に利用できる。
- 感染性クローンpBSzYを保持するアグロバクテリウムおよび接種後の植物は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」における組換え生物等に該当するため、本接種法の利用にあたっては法令に定められた規制に従う必要がある。
- 接種法および抵抗性評価法の詳細については野菜茶業研究所ホームページ上で公開している(http://vegetea.naro.affrc.go.jp/joho/)。
- 感染性クローンpBSzYは、九州沖縄農業研究センターにおいて作出された(Ueda S. et al., 2004)。
- 感染性クローンpBSzYは、野菜茶業研究所より研究資料提供契約締結の上配布している。
具体的データ

その他
- 中課題名:野菜におけるゲノム情報基盤の構築と利用技術の開発
- 中課題番号:141g0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2010?2012年度
- 研究担当者:山口博隆、大西純、宮武宏治、布目司、大山暁男、根来里美、福岡浩之
- 発表論文等:1)Yamaguchi H. et al. (2013) J. Gen. Plant Pathol. (印刷中)