ナス全ゲノムの概要塩基配列

要約

ナスの全ゲノムを解読して得られた8.33億塩基のDNA配列は42,035個の遺伝子を含み、そのうち7,614個はナスに特徴的である。これらの配列や連鎖地図上の位置などの詳細情報をデータベースとして公開している。

  • キーワード:ナス、ゲノム解読、ナス科、比較ゲノム、遺伝子
  • 担当:日本型施設園芸・野菜ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 050-3533-3861
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ナス(Solanum melongena L.)は古く奈良時代から栽培されているわが国ではなじみの深い野菜であり、現代でも指定野菜14品目に含まれる最も重要な野菜の1つである。病害抵抗性や多収性などの重要形質を支配する遺伝機構を解明し品種改良を加速するためにゲノム情報は極めて有用であるが、ナス科作物ではより国際的に優先度の高いトマトやジャガイモの研究が先行し、ナスのゲノム解読研究は遅れている。そこで、かずさDNA研究所と連携し、わが国独自の取り組みとしてナスの全ゲノムを解読する。

成果の内容・特徴

  • 日本のナスとして標準的な性質を持つ在来の固定品種「中生真黒」のゲノムをイルミナ社HiSeq 2000シーケンサを用いて解読して得られた115ギガ塩基(Gb、1Gb=10億塩基)の断片配列情報を用いた解析から、ナスの全ゲノムサイズは1.13Gbと推定される。115Gbの全データをつなぎ合わせ再構築して得られたユニークな配列(全長1.09Gb)はゲノムサイズの96.5%に相当し、全ゲノム配列のほぼ全てを網羅している(表1)。
  • 「中生真黒」のゲノムDNAから遺伝子コード領域だけを抽出してロシュ社454 GS FLXシーケンサにより解読して得られた配列(0.038Gb)を前項の1.09GbのDNA配列と合わせてさらに再構築し、500塩基以上の配列のみを取りまとめたデータセットSME_r2.5.1の全長は0.83Gb、解読結果の質を示す指標であるN50は64,536塩基であり、ナスの全ゲノムの概要情報として十分な精度をもつ(表1)。
  • SME_r2.5.1の配列情報は過去に報告された約17,000の発現遺伝子配列の96.7%を含む。したがって、SME_r2.5.1から予測される42,035個の遺伝子はナスの遺伝子のほぼ全てを網羅すると推定される。このうち、約50%にあたる21,445遺伝子は既知のナス科植物やシロイヌナズナと共通である(図1)。一方、7,614個はナスに特徴的な遺伝子であり、その中には病害抵抗性遺伝子に特徴的な配列を持つ遺伝子などの有用性が示唆される遺伝子が含まれる。
  • 高精度なゲノム解読がすでに完了したトマトの遺伝子とオルソログの関係にあることが推定できる16,573個の遺伝子により、両種のゲノム構造の高密度な対応付けが可能である(図2)。
  • 全ての配列情報や高密度連鎖地図情報は野菜茶業研究所およびかずさDNA研究所のサーバーからデータベースとして公開している(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:種苗会社、公立試験研究機関、大学等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ナスおよびナス科野菜を対象とする国内および国外の試験研究に広く普及する。
  • その他:このゲノム配列データはすでに単為結果性、半枯病抵抗性、とげなし性などの育種選抜マーカーの迅速な開発に大きく貢献した実績がある。ナスのゲノム情報を活用することで、防除の難しい重要病害に対する抵抗性を持つ品種や結実特性が向上した収益性の高い品種など、画期的な新品種の育成が大きく加速されることが期待される。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:野菜におけるゲノム情報基盤の構築と利用技術の開発
  • 中課題整理番号:141g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開)、競争的資金(イノベーション創出)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:福岡浩之、平川英樹(かずさDNA 研)、白澤健太(かずさDNA 研)、宮武宏治、布目司、根来里美、大山暁男、山口博隆、佐藤修正(かずさDNA 研)、磯部祥子(かずさDNA 研)、田畑哲之(かずさDNA 研)
  • 発表論文等:
    1)Hirakawa H. et al. (2014) DNA Res. 21(6):649-660
    2)Fukuoka H. et al. (2012) Theor. Appl. Genet. 125(1):47-56