イノシシ対策に使われているオオカミ尿には忌避効果がない
要約
イノシシの圃場侵入防止を目的に現場で使われているオオカミ尿の忌避効果を、オオカミが排泄した尿を吸収させた稲ワラを用いて試験したところ、忌避効果は皆無であり、オオカミ尿をイノシシ被害対策として使っても効果は期待できない。
- キーワード:イノシシ、オオカミ、尿、忌避、鳥獣害
- 担当:基盤的地域資源管理・鳥獣害管理
- 代表連絡先:電話0854-82-0144
- 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・畜産草地・鳥獣害研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
深刻化する獣害対策の一環として、かつてイノシシの天敵であったオオカミの尿を用いて、圃場への侵入を防ぐための対策が各地で行われている。効果のない対策に投資することは農家にとって損失となるため、対策の効果を検証することが必要である。そこで、オオカミが排泄した尿を吸収させた稲ワラを用いてオオカミ尿に対するイノシシの反応試験を行い、忌避効果の有無を検証する。
成果の内容・特徴
- オオカミの尿を吸収させたワラ(以後、尿ワラ)とサツマイモを同時に提示すると、供試した9頭の成イノシシ(雄5頭・メス4頭)のうち、8頭は尿ワラに対して警戒を全く示さない。また、残りの1頭は試験開始直後に、尿ワラから離れたところで数秒間警戒を示した後、すぐに尿ワラを体に擦り付ける(図1、図2)。
- 尿ワラの先にイノシシにとって嗜好性の高いサツマイモを提示すると、イノシシはサツマイモよりも先に尿ワラを摂食する(図3、図4)。
- 尿の匂いを直接嗅いだ直後のイノシシの行動は、尿ワラの摂食44%、身体を尿ワラに擦り付ける33%、隣のサツマイモの摂食11%、歩いて通り過ぎる11%であり、警戒行動は皆無である(図5)。
- オオカミの尿を用いてイノシシの警戒および忌避行動を発現させることは困難であり、本能的にオオカミの尿を忌避する可能性はきわめて低い。そのため、オオカミの尿を被害対策に用いるべきではない。
普及のための参考情報
具体的データ
その他
- 中課題名:野生鳥獣の行動等の解明による鳥獣害の回避技術の開発
- 中課題番号:420d0
- 予算区分:交付金、委託プロ(動物行動)
- 研究期間:2003~2012年度
- 研究担当者:江口祐輔、上田弘則
- 発表論文等:
1)上田、江口ら(2005)Proc. Int. Congr. Appl. Ethol.
2)上田、江口ら(2008) NIAS No.4 動物・昆虫の行動メカニズムを解明する:46-48.