プレスリリース
(研究成果) ホクホク食感のおいしいサツマイモ新品種「ひめあずま」

- 青果用と菓子加工用の両方に適している「ベニアズマ」の子孫 -

情報公開日:2022年11月15日 (火曜日)

更新日:2023年3月3日(金曜日)

更新日:2023年3月29日(水曜日)

2023年3月29日(水曜日)追記
種苗の入手先は、以下のHPから検索できます。
農研機構HP内【農研機構育成品種の種苗入手先リスト】はこちら
(表の右上にある検索入力部分に"ひめあずま"と入力し、検索いただくと、入手先リストが表示されます。)

2023年3月3日(金曜日)追記
※2022年12月31日(土曜日)をもちまして、2022年度の原種苗入手にかかる種苗許諾契約に関する受付を終了しました。

ポイント

農研機構は、ホクホクした食感で良食味のサツマイモ品種「ひめあずま」を開発しました。「ひめあずま」は、関東地域の主力品種「ベニアズマ」に似た風味と食感を持ち、菓子等への加工適性も優れているため、青果用と菓子加工用の両方に適しています。また、いもの外観や形状のそろいが良く、貯蔵性にも優れることから、「ベニアズマ」の後継品種として期待されます。

概要

近年はねっとりとした食感で甘いスイーツのような焼きいもが人気ですが、ホクホクとして素朴な甘さの焼きいもにも根強い人気があります。1984(昭和59)年に育成された「ベニアズマ」は、このようなホクホクした食感の代表品種として長い間親しまれています。

サツマイモを加熱調理した際のホクホクした肉質は、いもようかんや大学いもといった菓子等に加工する際には重要な性質です。そのため、「ベニアズマ」は、青果用だけでなく、菓子加工用として広く利用されており、主に関東地方で生産されてきました。しかし、最近はねっとりした食感で人気が高い「べにはるか」が「ベニアズマ」よりも生産しやすいこともあり、産地である関東地域における「ベニアズマ」の作付面積が減少しており、市場からは「ベニアズマ」の数量確保が難しくなってきているとの声があがってきています。

そこで、農研機構では、「ベニアズマ」の生産上の欠点であるいもの外観、形状そろいの問題を克服し、病害虫抵抗性と貯蔵性の大幅な改良を図るとともに、菓子加工への適性が高い品種開発を進めました。その結果、「ベニアズマ」の後継になりうる青果用と菓子加工用の両方に適するホクホクした食感の良食味新品種「ひめあずま」を開発しました。

「ひめあずま」の種苗は、農研機構との間で許諾契約を行った民間種苗会社等を通じて供給を行う予定です。
「ひめあずま」の焼きいも
黄色みが強く、香ばしい風味と素朴な甘さのホクホクした焼きいもに仕上がります。

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:「第36149号」(2022年3月29日出願、2022年7月26日出願公表)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構中日本農業研究センター所長中村 ゆり
研究担当者 :
温暖地野菜研究領域上級研究員田口和憲
広報担当者 :
研究推進室広報チーム長谷脇 浩子
TEL 029-838-8421

詳細情報

新品種育成の背景と経緯

「ベニアズマ」は、青果用として良食味の黄肉でホクホクした肉質を持ち、菓子加工用としていもようかんや大学いもなどにも多く利用されています。一方で、「ベニアズマ」は近年の人気品種である「べにはるか」に比べると、いもの外観、形状が悪くなりやすく、A1)として高値で取引きされにくいことがあり、これが生産者の「ベニアズマ」離れの一因になっています。このため、生産者が生産しやすく、実需者からの需要もある青果用と菓子加工用の両方に適するホクホクした肉質で良食味の新品種の育成が望まれていました。

新品種「ひめあずま」の特徴

  • 「ひめあずま」は、カロテンを含み病害虫抵抗性に優れる「作系25」を母、やや粉質の肉質で食味に優れる「すずほっくり」を父とする交配組合せから選抜しました。「ひめあずま」は、「ベニアズマ」の子孫にあたります(図1)
  • 「ひめあずま」の塊根2)は、「ベニアズマ」の欠点であった条溝3)や凹凸がほとんど発生せず、形状そろいの良いことが特徴です(図2)
  • 「ひめあずま」の収量は「ベニアズマ」並ですが、普及が見込まれる茨城県の試験では、「ひめあずま」のA品収量は「ベニアズマ」より優れています(表1、図3)
  • 「ひめあずま」は、黒斑病は"中""やや強"サツマイモネコブセンチュウ4)、つる割病および立枯病への抵抗性がいずれも"やや強"の複合病害虫抵抗性であり、いもの貯蔵性5)は優れています(表1)。基腐病抵抗性は"やや弱"ですので、防除対策の徹底が必要です。
  • 「ひめあずま」の肉色は"黄"、肉質は"やや粉"、食味は"やや上"です(表2)。実需者による品質評価では、「ひめあずま」は「ベニアズマ」に近い香り、食味、硬さであり、いもようかんや大学いもへの加工に適しています(図4)

品種の名前の由来

「ベニアズマ」はごつごつした無骨な外観のいもができやすいのですが、「ベニアズマ」の血統を受け継いだ風味や食感を保ちつつ、表面がなめらかで美しい楕円型のいもができることを表すため「ひめあずま」と命名されました。

今後の予定・期待

「ひめあずま」の菓子等加工適性は高く評価されており、「ベニアズマ」に代わる青果用と菓子加工用の両方に適する品種として関東地域を中心とする全国への普及が期待されます。

需要が大きい菓子等への加工適性が高いことから、様々な派生商品開発への波及が期待されます。また、近年、日本産サツマイモは海外から高い評価を受けて輸出が急拡大していますので、加工品も含めたよりいっそうの輸出力強化に貢献できることが期待されます。

また、「ひめあずま」は貯蔵性が優れていることから、新緑のころでも品質が良く、おいしいサツマイモを提供できます。

原種苗の入手について

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【品種についてのお問い合わせ】はこちら

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【品種についてのお問い合わせ】はこちら

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法】はこちら

用語の解説

A:
曲がり等の障害が含まれず、品種固有の形状を有し、色沢、販売規格に適合した品質が良好ないものことです。
塊根:
植物の根の一部が肥大生長して塊状となったものです。サツマイモでは、収穫部位にあたる"いも"のことです。
条溝:
塊根の垂直方向に生じる溝のことであり、見た目をそこなうだけでなく、加工歩留まりを悪化させる生理症状です。
サツマイモネコブセンチュウ:
多くの作物の根に寄生し、根にこぶを作って作物の品質や収量を低下させる線虫(細い糸状の見た目をした線形動物)です。卵や体長約0.4mmの幼虫の状態で土中に生息しています。サツマイモ栽培において経済被害が大きいですが、品種によって抵抗性に差があります。
貯蔵性:
冬期間無加温の収納舎に90日間置いた後の腐敗いも率を調査し、腐敗いも率が0~10%を"易"、10.1~35%を"やや易"、35.1~60%を"中"、60.1~85%を"やや難"、85.1~100%を"難"とする5段階により、貯蔵のしやすさを判定しています。
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参考図

1「ひめあずま」の系譜図
2「ベニアズマ」と「ひめあずま」の塊根(育成地:茨城県、2021年10月撮影)
「ひめあずま」は「ベニアズマ」より条溝や凹凸が少なく、形状のそろいが良い。
1「育成地(茨城県)における収量(4か年平均値、2018年~2021年)および各種特性
1)サツマイモネコブセンチュウ、つる割病、黒斑病および立枯病抵抗性は特性検定法に基づき総合判定した階級。
2)基腐病抵抗性は、2022年に九州の基腐病甚発生圃場に苗を植付け、地上部の発病を経時的に調査し、地際が発病した株の割合と塊根の発病程度を総合的に判断して「シロユタカ」を"中"、べにはるかを"弱"として相対的に評価した。
2育成地(茨城県)における蒸しいもの品質特性(4か年平均値、2018年~2021年)
※11月中旬に約2時間蒸し煮して調査した。
3茨城県におけるA品収量の試験成績(3か年平均値、2019年~2021年)
エラーバーは標準誤差(n=3)を示している。A品は、茨城県及びJAグループ等の関係機関が作成した「かんしょ選別基準表」を参考に評価した。
4実需者による品質評価試験における官能評価
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