背景
近年、主食用米の国内需要量は減少していますが、主食用米の中でも外食用の業務用米の需要は一方で増加しており、特に、低価格の業務用米に対する要望が高まっています。農業経営者の所得を確保しつつ、こうした要望に応えるには、多収で良食味の水稲品種が必要です。一方、中核農家や農業法人への農地の集約が進行しており、かつては経営規模の小さかった中山間地域でも中核農家や農業法人の経営規模は大きくなっています。こうした中山間地の稲作振興を図るため、早生で、耐冷性、いもち病抵抗性に優れ、業務用米の需要に対応しうる多収、良食味の品種が望まれていました。
経緯
「夢の舞」は、いもち病耐病性、耐冷性に優れた早生の良食味品種の育成を目標として、「東北160号(後の「こいむすび」)」といもち病に強い「収6084」を1998年に交配して育成した品種です。2004年から「北陸202号」の系統名で関係各県に配付し、奨励品種決定調査3)および特性検定試験4)に供試してまいりました。2010年より「北陸202号」の耐冷性、いもち病抵抗性、および多収性を活かした中山間地域における実用性を検討するため、島根県奥出雲地方の中山間地域にある株式会社ファーム木精と共同研究を行い、当該地域での適性及び市場評価を検討してきたところ、「北陸202号」は「コシヒカリ」より明らかに多収であり、卸、小売りの食味に関する評価も高かったため、2012年に「夢の舞」として品種登録出願を行いました。
内容・意義
- 「夢の舞」(写真1、3)の出穂・成熟期は、育成地(新潟県上越市)では「コシヒカリ」より3日程度早い、早生品種です。(表1)。
- 「夢の舞」は、標肥栽培では「ひとめぼれ」より4%程度、多肥栽培では「ひとめぼれ」より10%ほど多収となります。
- 湛水直播栽培における収量性は「はえぬき」よりやや低いですが、苗立ち率、耐倒伏性は直播栽培に適する「はえぬき」と同等であり、湛水直播栽培が可能です(表1)。
- 玄米の外観品質は「ひとめぼれ」よりも優れ(写真2、表1)、食味は「コシヒカリ」に近い良食味です(表2)。
- いもち病抵抗性は、葉いもち、穂いもちともに「ひとめぼれ」よりも強く、耐冷性は「ひとめぼれ」と同等の"極強"です(表3)。
- 「夢の舞」の稈長は「ひとめぼれ」よりも6cm度短く、耐倒伏性に優れるため、多肥栽培が可能です。島根県の中山間地における現地試験でも、「夢の舞」は標肥栽培の「コシヒカリ」より明らかな多収を示しました(表4)。
今後の予定・期待
- 「夢の舞」は、冷害やいもち病に強いことから、中山間地の作付けに適すると考えられます。良食味でかつ玄米収量が高いことから、業務用米等への利用が期待されます。
- 倒伏抵抗性が強く、湛水直播栽培が可能なことから、省力低コスト栽培用品種としても利用が期待されます。
- 今後は、島根県の山間部にある農業法人で数十haの作付けが計画されています。
用語の解説
1)いもち病
稲の重要な病気の一つで、糸状菌(かび)により感染、発病します。葉に出るものを葉いもち、穂に出るものを穂いもちといい、品種によって抵抗性に差異があります。抵抗性が弱いと、枯れて減収しやすくなります。
2)耐冷性
寒さに対する抵抗性で、品種によって差異があります。抵抗性が弱いと、冷害時に減収しやすくなります。
3)奨励品種決定調査
奨励品種(都道府県が普及すべきと選定した優良な品種)を決定するために、都道府県が実施する調査のことです。
4)特性検定試験
いもち病等の病気に対する抵抗性、耐冷性等の品種の特性を明らかにするために、試験研究機関が実施する試験のことです。
5)精玄米重
米選機でくず米を除いた玄米の重量です。
6)玄米千粒重
玄米1,000粒の重さのことです。
現地栽培試験担当者
株式会社ファーム木精 代表取締役 加瀬部 一倫
表1.「夢の舞」の生育特性

表2.穀物検定協会における「夢の舞」の食味評価(2008年)

表3.「夢の舞」の障害耐性

表4.「夢の舞」の島根県中山間地における現地試験成績(島根県飯石郡飯南町)


写真1.「夢の舞」の草姿
(左:夢の舞、中:ひとめぼれ、右:コシヒカリ)

写真2. 「夢の舞」の玄米と籾
(左:夢の舞、中:ひとめぼれ、右:コシヒカリ)

写真3. 新潟県上越市における「夢の舞」
(左:コシヒカリ、中:夢の舞、右:ひとめぼれ)