プレスリリース
(研究成果) 赤肉・紫肉色のカラフルポテト新品種「シャイニールビー」と「ノーブルシャドー」
- いもの形が整い、生産・加工両面で扱いやすい -
ポイント
農研機構は、赤肉・紫肉色を示すジャガイモ新品種「シャイニールビー」と「ノーブルシャドー」を開発しました。「シャイニールビー」は赤肉色、「ノーブルシャドー」は紫肉色で、いずれも既存の有色品種よりアントシアニン1)含量が高いです。また、いもの形が整うため生産・加工両面で扱いやすく、肉色を活かした調理・加工ができます。北海道や本州で菓子類の加工用や青果用として普及が期待されます。
概要
ジャガイモ品種は通常白~黄肉色ですが、アントシアニン色素を含む赤肉や紫肉色のジャガイモ品種はカラフルポテトとも呼ばれます。菓子類加工原料として利用される他に、色鮮やかな見た目が農産物直売所や家庭菜園を含む小規模栽培において消費者の人気を得ています。既存の赤肉色品種「ノーザンルビー」は収量性やいもの形状などに問題があり、また紫肉色品種「シャドークイーン」は重要病害虫である線虫への抵抗性やいもの形状などに問題があることから、生産や加工の現場からはこれらを改良した新品種の開発が望まれていました。そこで農研機構は赤肉色の「シャイニールビー」と紫肉色の「ノーブルシャドー」の新しいカラフルポテト2品種を開発しました。
「シャイニールビー」は、既存の「ノーザンルビー」よりアントシアニン含量や収量が高く、「ノーブルシャドー」は、既存の「シャドークイーン」にはないジャガイモシストセンチュウ2)抵抗性を有し、アントシアニン含量が高く、両品種とも、いもの形状が整い、揃いも良いため生産・加工両面で扱いやすい特徴があります。肉色を活かした調理・加工が可能で、北海道や本州での普及が期待されています。2025年春頃から、民間の種苗会社や農協等を通じて両品種の種いもが供給される予定です。
関連情報
予算 : 運営費交付金
品種登録出願番号 : 「シャイニールビー」第35303号 (2021年6月16日出願公表)、「ノーブルシャドー」第35304号 (2021年6月16日出願公表)
その他
本資料は農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会、道政記者クラブ、札幌市政記者クラブに配付しています。
※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。新聞、TV等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター 所長 安東 郁男
研究担当者 :
同 寒地畑作研究領域
領域長補佐 兼 畑作物育種グループ長 片山 健二
詳細情報
開発の社会的背景と経緯
ジャガイモ品種は通常白~黄肉色ですが、アントシアニン色素を含む赤肉や紫肉色のジャガイモ品種はカラフルポテトとも呼ばれます。菓子類加工原料など加工食品として利用される他に、色鮮やかな見た目が農産物直売所や家庭菜園を含む小規模栽培において消費者の人気を得ています。これまで農研機構は赤肉色品種「ノーザンルビー」、紫肉色品種「シャドークイーン」などを開発し、この分野の生産・消費に貢献してきました。一方でこれらの品種は、収量性やいもの形状、線虫抵抗性などに問題があり、生産や加工の現場からはこれらを改良した新品種の開発が望まれていました。そこで農研機構は赤肉色の「シャイニールビー」と紫肉色の「ノーブルシャドー」の新しいカラフルポテト2品種を開発しました。
新品種「シャイニールビー」の特徴
- 栽培特性を向上した赤肉色品種の育成を目標として、大粒で赤肉色の「長系115号」を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性で淡赤肉色の「96049-1」を父とする交配組合せから選抜した品種です。
- アントシアニン(ペラニン)含量が高く、赤肉色を活かした調理・加工ができます(写真1、表1、表2)。
- 既存品種の「ノーザンルビー」に比べて収量が高く、いもが整った長卵形で目が浅く形状も揃うため生産・加工両面で扱いやすいです。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有します(写真1、表1)。
- 休眠3)期間がやや短いため、植え付け前に芽が伸び過ぎて種いもが老化すると萌芽の不揃いや茎数増加によるいもの小粒化を生じるため、浴光育芽4)するまで種いもの低温貯蔵管理が必要です(表1)。
新品種「ノーブルシャドー」の特徴
- ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する濃紫肉色品種の育成を目標として、濃紫肉色の「05091-13」を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性で赤肉色の「勝系28号」を父とする交配組合せから選抜した品種です。
- アントシアニン(ペタニン)含量が高く、紫肉色を活かした調理・加工ができます(写真2、表3、表4)。
- 既存品種の「シャドークイーン」にはないジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有し、疫病5)とそうか病6)にも「強」の抵抗性を示します。いもが整った卵形で形状も揃うため生産・加工両面で扱いやすいです(写真2、表3)。
- 休眠期間が長く、萌芽や初期生育がやや遅いため、植え付け前に種いもの浴光育芽を十分に行うことが重要です(表3)。
品種の名前の由来
「シャイニールビー」は肉色がきれいな赤色(ルビー色)であることから、「ノーブルシャドー」は肉色の濃紫色が気高さと黒い影を印象させることから、それぞれ命名されました。
今後の予定・期待
「シャイニールビー」は既存の赤肉色品種「ノーザンルビー」と置き換えて、「ノーブルシャドー」は既存の紫肉色品種「シャドークイーン」などと置き換えて、新たな消費を喚起し、鮮やかな肉色を活かした菓子類加工用や青果用として、ジャガイモの生産振興に貢献することが期待されます。種いもの一般販売が開始される予定の2025年頃から北海道や本州で本格的な普及を見込んでいます。
農林水産省本省「消費者の部屋 さつまいも・じゃがいもの週 ~おいものみりょく~(開催期間 : 10月25日~10月29日)」にて、「シャイニールビー」と「ノーブルシャドー」の展示を行う予定です。
種いもの一般販売が開始される2025年頃までの間、試験研究試料として限定量の種いもを有償提供することが可能です。その手続き等の詳細は下記の原種苗入手先へお問い合わせください。
原種苗入手先に関するお問い合わせ
農研機構北海道農業研究センター 研究推進部 研究推進室 知的財産チーム
TEL 011-857-9417 | FAX 011-859-2178
利用許諾契約に関するお問い合わせ
下記のメールフォームでお問い合わせください。
【研究・品種についてのお問い合わせ】
なお、品種の利用については以下もご参照ください。
【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
用語の解説
- アントシアニン (ペラニン、ペタニン)
- 植物由来の天然色素で、ジャガイモに含まれるアントシアニンには、ペラニンを主とする赤系色素とペタニンを主とする紫系色素があります。
- ジャガイモシストセンチュウ
- 線虫の一種で、ジャガイモの根に寄生して大幅な減収を引き起こします。抵抗性品種を作付けることで、被害を抑えるとともに土壌中の線虫密度を低減する効果があることが認められています。
- 休眠
- 収穫されたいもが萌芽に適した環境においても収穫後一定期間は萌芽伸長しない状態のことで、その期間の長短は品種や貯蔵環境条件により異なります。
- 浴光育芽
- 植え付け前に種いもを明るい環境条件で加温して萌芽を促し、光を当てて丈夫な幼芽を発達させることです。この処理により、植え付け後の萌芽と生育が早まり、安定した収量を確保することができます。
- 疫病
- 病原菌は糸状菌の一種で、感染した植物残渣やいもなどから伝染し、茎葉が枯れ進行するといもが腐敗します。多雨時に発病しやすい病害です。
- そうか病
- 病原菌は土壌伝染する細菌の一種で、いもの表面が盛り上がりかさぶた状の病斑が生じます。外観が悪くなるため、いもの商品価値が損なわれます。
参考図
写真1 「シャイニールビー」の塊茎(いも)
左 : シャイニールビー、右 : ノーザンルビー、黒スケールバーは5×1cm
表1 「シャイニールビー」の栽培特性 (平成20~24年および令和元~2年の平均)
表2 「シャイニールビー」の品質特性 (平成20~24年および令和元~2年の平均)
写真2 「ノーブルシャドー」の塊茎(いも)
左 : ノーブルシャドー、右 : シャドークイーン、黒スケールバーは5×1cm
表3 「ノーブルシャドー」の栽培特性 (平成27~令和2年の平均)
表4 「ノーブルシャドー」の品質特性 (平成27~令和2年の平均)