プレスリリース
(研究成果)飼料用トウモロコシ新品種「トレイヤ」

- 雌穂(しすい)収量が高くサイレージから子実用まで幅広い利用が可能 -

情報公開日:2024年1月10日 (水曜日)

ポイント

農研機構は、飼料用トウモロコシ新品種「トレイヤ」を開発しました。本品種は、雌穂1)(しすい)の収量が高くサイレージから子実まで幅広く利用できるうえ、病害に強く、倒れにくいことから、北海道内の普及対象地域でのトウモロコシ作付けの増加、良質サイレージ原料の安定栽培および生産性向上に貢献できます。

概要

輸入飼料価格高騰の情勢もあり、牛や豚、鶏などの家畜の餌となる自給飼料生産の基幹作物である飼料用トウモロコシの国内での増産が望まれています。また、トウモロコシは部位ごとに用途が異なりますが、粗飼料であるホールクロップサイレージ(WCS)2) (雌穂と茎葉を利用する)利用に加えて、近年、濃厚飼料3)であるイアコーンサイレージ(ECS)4)や子実とうもろこしなどとしての利用への機運が高まっています。このような飼料用トウモロコシの作付け拡大は、我が国の飼料自給率向上に大きく貢献します。
そこで農研機構は、サイレージから子実まで幅広い利用が可能な飼料用トウモロコシ新品種「トレイヤ」(旧系統名「北交97号」)を開発しました。
トレイヤは以下の特徴を持ちます。

(1)雌穂収量が高い
雌穂収量および乾燥子実収量は標準品種5)よりも高いことから、雌穂や子実のみを利用するECSや子実とうもろこしとしての利用に適します。WCS利用では、比較の基準となる標準品種と同等の収量を示し、乾物中TDN割合が高く、良好なサイレージを生産できます。

(2)病害に強い
葉が枯れることにより光合成能力が低下し、収量に影響を与えるトウモロコシの重要病害のすす紋病やごま葉枯病6)にも強いうえ、カビ毒が問題となる赤かび病の接種試験でも、発病面積が小さく抑えられるという結果を示しました。

(3) 耐倒伏性が強い
近年北海道でも増加傾向にある台風や強風による倒伏被害に対しても、強い耐性を持っています。

北海道道央北部、十勝中部、網走内陸地域でのWCS利用に加え、北海道道央中部以南、道南地域でのECS、子実とうもろこしなどの雌穂利用型としても利用可能です。
種子の供給は、最短で2027年から、民間の種苗会社や農協等を通じて開始される予定で、北海道内栽培適地での自給飼料の増産が図られるよう普及を目指します。

図1 ほ場での「トレイヤ」の草姿(左)および雌穂(右)、飼料としての利用部位

関連情報

予算 : 農林水産省委託プロジェクト研究「子実用とうもろこし(国産濃厚飼料)の安定多収生産技術の開発」JP22677450
品種登録出願番号 : 「第36881号」 (令和5年5月25日出願、令和5年9月25日出願公表)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター 所長  奈良部 孝
研究担当者 :
同 寒地酪農研究領域 上級研究員 黄川田 智洋
広報担当者 :
同 広報チーム長   花井 智也


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

飼料用トウモロコシはわが国の自給飼料生産の基幹作物であり、北海道では約5.9 万ヘクタール(農林水産省作物統計、2022年)で栽培されています。近年の濃厚飼料価格の高騰もあり、高栄養で多収な自給粗飼料である飼料用トウモロコシの重要性はますます高まっており、飼料用トウモロコシの増産により飼料自給率を向上させることが強く求められています。また、飼料用トウモロコシは、雌穂と茎葉を利用する粗飼料であるWCSとしての利用が多いのですが、雌穂もしくは子実のみを用いて濃厚飼料とする利用法が全国的に増加しており、幅広い用途に利用可能な雌穂収量が高い品種の開発が望まれていました。
さらに、近年台風の北海道への襲来や、本州など温暖地で発生する主要病害であるごま葉枯病の北海道での被害が増加していることなどから、これまで以上に耐倒伏性やごま葉枯れ病抵抗性に強い系統が求められていました。
そこで農研機構では、WCSだけでなく雌穂利用も可能で、すす紋病、ごま葉枯れ病に強い高雌穂収量トウモロコシ「トレイヤ」を開発しました。

新品種「トレイヤ」の特徴

来歴

「トレイヤ」は農研機構北海道農業研究センター育成のデント種7)自殖系統8)「Ho123」を種子親、同センター育成のフリント種7)自殖系統「Ho126」を花粉親とした飼料用トウモロコシF1(交配した子の1代目)品種です。

主な特徴

    1. 早晩性(栽培期間の長さ)は北海道作付けでの"早生の晩"です。北海道統一RM9)は総体89、雌穂83です。
    2. WCS収量は、地域適応性検定試験を実施し適地と判断した十勝中部・網走内陸地域平均では、可消化養分総量(TDN10))収量が1,301kg/10aと標準品種並みでした (表1) 。総収量中に占める乾燥雌穂収量の割合は53.7%と標準品種より3.5ポイント高い値を示しました。子実用では、乾燥子実収量は道央で1,205kg/10aと標準品種よりも多く、現地の子実とうもろこし普及品種「P9027」(熟期は"中生")に近い収量でした (表2)。
    3. 耐倒伏性は標準品種より強いことが確認されました(表2) 。

      表1   WCS収量特性注1)


    4. 表2   子実生産力検定試験注1)

    5. 病害抵抗性は、すす紋病抵抗性は"強"で強く、ごま葉枯病抵抗性は標準品種より強いことがわかりました(表3) 。一方、赤かび病接種検定においては「弱」の基準品種「たちぴりか」よりも発病面積率は低く標準品種よりも低いです。

    6. 表3  病害抵抗性に関する特性検定試験結果

    7. 栽培適地は、WCS利用としては道央北部、十勝中部、網走内陸、子実利用としては道央中部以南および道南となります。

    8. 品種の名前の由来

      雌穂収量が多い特性から、収量が高いことを意味する「とれる」と、雌穂の英語「イヤー」を組み合わせ、「トレイヤ」と命名しました。

      今後の予定・期待

      WCSとしても雌穂利用としても利用可能な飼料用トウモロコシ早生品種として、北海道内の栽培適地での自給飼料生産の増産が図られるように普及を目指します。
      なお、栽培用種子の販売は2027年以降の予定ですが、それまでの間、試験研究用試料として限定量の栽培用種子を有償提供することが可能です。その手続き等の詳細は下記の原種苗入手先へお問い合わせください。

      原種苗入手先に関するお問い合わせ(生産者向け)

      下記のメールフォームでお問い合わせください
      農研機構北海道農業研究センターHP【研究・品種・特許についてのお問い合わせ】

      利用許諾契約に関するお問い合わせ(種苗会社向け)

      下記のメールフォームでお問い合わせください
      農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】

      なお、品種の利用については以下もご参照ください。
      農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】

      用語の解説

      雌穂(しすい)
      トウモロコシの実になる部分です。
      ホールクロップサイレージ(WCS)
      トウモロコシの茎葉と雌穂を一緒に収穫し、裁断したのちに発酵させた飼料です。
      濃厚飼料
      デンプンやタンパク質含量が高い餌。穀類(トウモロコシ、飼料用米)、エコフィード(パンくず、豆腐粕)、糟糠類・かす類(フスマ、ビートパルプ、大豆油かす、菜種油かす等)等を含む飼料。2021年度の統計値では約87%が輸入(農林水産省食料需給表(概算))。
      イアコーンサイレージ(ECS)
      雌穂のうち、子実と穂軸や外皮を一緒に収穫し、裁断したのちに発酵させた飼料です。
      標準品種
      ここでは、同じ早晩性の優良品種の一つを指します。この標準品種との比較により、新品種の優良性を比較検討します。
      すす紋病、ごま葉枯病
      トウモロコシの重要病害で、葉に病斑を形成します。病斑部は光合成ができなくなるため、収量に影響を与えます。抵抗性が弱い品種は個体全体に病斑が広がり、枯死することもあります。
      デント種、フリント種
      トウモロコシの種類です。いずれも子実が硬化する品種で、飼料用として用いられます。子実の特徴として、デント種は粒の先端がくぼみ、軟らかいでんぷん層で覆われます。フリント種は粒の先端はくぼまず、硬いでんぷん層で覆われます。トウモロコシの種類には他に、スイート種、ポップ種など複数あります。
      自殖系統
      優良な個体を選抜し、繰り返し自殖交配(自分の花粉を自分の雌しべに受粉させること)することにより、遺伝的に固定した系統です。自殖系統同士を組み合わせることにより、F1品種を作ります。
      RM
      Relative Maturity、相対熟度。アメリカで開発されたトウモロコシの早晩性指標です。播種から登熟までに要する期間を示したもので、品種の早晩性比較の目安として使用(小さい方が早生)します。 種子メーカーのカタログには、各社で判断したRMが記載されています。
      北海道内でのトウモロコシ栽培条件下で、RMに北海道立総合研究機構(道総研)が改良を加え、種子メーカーの違いによらず統一的に比較できるように示した新たな早晩性指標が「北海道統一RM」で、数値が小さい方が早生となります。
      北海道では、RMの値から栽培適地がどこなのかが、道総研が作成した安定栽培マップによりわかるようになっています。
      TDN
      Total Digestible Nutrients。家畜が消化できる成分の総量です。