プレスリリース
(研究成果)長期貯蔵が可能なポテトチップ用バレイショ新品種「しんせい」を開発
- ジャガイモシストセンチュウに対する抵抗性を持ち、 国産原料の周年供給に貢献 -
ポイント
農研機構は、ポテトチップ用のバレイショ新品種「しんせい」を開発しました。「しんせい」はバレイショの重要害虫であるジャガイモシストセンチュウに対する抵抗性を持ち、ポテトチップ加工適性が優れるとともに、収穫から翌年6月まで9ヶ月間貯蔵してもでん粉の糖化がゆるやかなためポテトチップの焦げにつながる糖が増えにくく、焦げの少ないポテトチップの製造が可能です。この特性により、国産原料が不足する2月から6月の期間におけるポテトチップ原料の安定供給への貢献が期待されます。2026年春から本格的な一般栽培が開始される予定です。
概要
近年、バレイショの国内需要は加工食品用、特にポテトチップ用途が顕著に増加しており、その割合は加工食品用国産バレイショの約7割に達しています。しかし、現在の主力品種は長期貯蔵1)に適さず、秋の北海道産の収穫後長期貯蔵原料に切り替わる翌年2月以降は原料が不足気味となるため輸入原料で一部不足分を補っているのが現状です。このため、ポテトチップ製造販売者からは、国産原料の安定的な周年供給を実現するための、長期貯蔵に適した品種の開発が求められていました。また、国産バレイショの安定生産のためには、収量の低下を引き起こす重要害虫であるジャガイモシストセンチュウ2)に対する抵抗性を有する品種の作付拡大も大きな課題です。
国産原料の周年供給には、ポテトチップ用バレイショの約8割を占め、8月から10月に収穫される北海道産原料の長期貯蔵が必要ですが、長期貯蔵を行うと、いもに含まれるでん粉が糖化し、それが焦げの原因となるためポテトチップの外観が悪化します。現在の主要なポテトチップ用品種「トヨシロ」は長期貯蔵には適しておらず、長期貯蔵後の加工では焦げてしまいます。また、ジャガイモシストセンチュウへの抵抗性もありません。長期貯蔵後も焦げにくい品種として知られる「スノーデン」もまた同様に抵抗性を有していません。
そこで農研機構は、収穫後の長期貯蔵性に優れ、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有するポテトチップ用新品種「しんせい」を開発しました。
「しんせい」は、9ヶ月間貯蔵してもポテトチップが焦げにくくチップカラー3)に優れ、原料の周年供給への貢献が期待されています。主に北海道での普及が見込まれており、2026年春から本格的な一般栽培が開始される予定です。
関連情報
- 予算 : 農林水産省委託プロジェクト研究「イノベーション創出強化研究推進事業(実需者ニーズに対応した病害虫抵抗性で安定生産可能なバレイショ品種の育成)」JPJ007097
- 品種登録番号 : 「第30337号」(2024年7月22日品種登録)
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 北海道農業研究センター 所長 奈良部 孝
研究担当者 :
同 寒地畑作研究領域 主任研究員 下坂 悦生
広報担当者 :
同 研究推進部 研究推進室 広報チーム長 竹内 順一
詳細情報
開発の社会的背景と経緯
バレイショの国内需要は、青果用やでん粉原料用が減少する一方で、近年は加工食品用、特にポテトチップ加工用が顕著に増加しており、加工食品用国産バレイショは全体の約26%の約62万tを占め、そのうちの約73%(約46万t、2023年)がポテトチップ用途となっています。さらに、その約84%(約39万t、2023年)は北海道産が占め、8月から10月に収穫された北海道産バレイショは順次、加工へ供給されますが、九州産の原料が十分に出回り始める翌年6月頃までは長期貯蔵された北海道産原料が使用されます。北海道の輪作体系では、バレイショは秋まき小麦の前作として栽培されることが多く、9月中下旬の小麦の播種の前に収穫を終える必要があるため、熟期4)の早さも重要視されます。現在のポテトチップ用主力品種「トヨシロ」は、比較的熟期の早い品種として広く普及していますが、長期貯蔵には適していません。また、長期貯蔵性を持つ「スノーデン」は熟期が遅い中晩生品種であるため「トヨシロ」ほどの作付けはありません。そのため、年間を通じてその需要を全て国産原料でまかなうことは難しく、原料が不足気味となる2月以降は一部のポテトチップ製造販売者はアメリカから原料の一部を随時輸入して不足分を補っています。このため、国産原料による安定的な周年供給の実現に向けて、小麦の前作として作付け可能な熟期で、長期貯蔵に適した品種の開発が強く求められていました。
また、これら2品種は、減収を引き起こし、発生すると「種いも」生産への制限要因ともなる重要害虫であるジャガイモシストセンチュウ抵抗性もありません。ジャガイモシストセンチュウは1972年に国内で発生が確認されて以降、発生地域の拡大が続いており、感受性品種から抵抗性品種への転換が強く奨励されています。
そこで農研機構は、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有し、熟期が早く長期貯蔵性に優れるポテトチップ用新品種「しんせい」を開発しました。
新品種「しんせい」の特徴
<主な特徴>
- ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有するポテトチップ加工用品種の開発を目標として、抵抗性とチップ加工適性を有する「98009-8」を母、「00045-4」を父とする交配組み合わせから選抜した品種で、塊茎(いも)の形は卵~長卵形、肉色は白です(図1)。
図1塊茎(いも)の外観
左:トヨシロ、中央:しんせい、右:スノーデン
- 「トヨシロ」と同程度の熟期である中早生に属し比較的早く収穫できます。また、収量も同程度であり、でん粉価5)は「トヨシロ」よりやや高いことから、「トヨシロ」に置き換えて栽培するのに適しています(表1) 。
※1 茎葉がほとんど枯れた日。
※2 上いも平均重:20g以上のいもの1個平均重量。
※3 上いも重:20g以上のいもの重量。
※4 規格内いも重:ポテトチップ用途の場合:60g以上340g未満のいもの重量。
※5 標準比:ポテトチップ用標準品種として「トヨシロ」を100とした比率。
- ジャガイモシストセンチュウに対して抵抗性を有し(表2)、打撲黒変への耐性も高く、ポテトチップの品質の向上や原料のロスを軽減できます。
※打撲黒変耐性:収穫や貯蔵、流通の際に衝撃を受けることで、いもの内部に打撲痕が生じ黒く変色することがあります。ポテトチップのような加工品では、品質の低下につながります。
- ポテトチップ加工適性は、収穫時のポテトチップ加工後の外観や食味が「トヨシロ」「スノーデン」より優れ、アグトロン値6)も両品種より高いです(表3)。
※1 外観、食味:下、やや下、中、やや上、上の5段階で評価
※2 褐変:無、微、少、中、多の5段階で評価(少ないほど高品質とされる)
- 収穫翌年の6月まで8°Cや6°Cで貯蔵してもポテトチップ加工後の外観に優れアグトロン値の低下も少なく、ポテトチップ原料としての利用が可能であり「トヨシロ」「スノーデン」と比較して長期貯蔵性に優れています(図2、図3)。
図2長期貯蔵後のポテトチップの外観
(収穫翌年6月まで6°C貯蔵したいもをポテトチップに加工)
左:トヨシロ、中央:しんせい、右:スノーデン
図3長期貯蔵中のアグトロン値(白さ)の推移
(収穫翌年6月まで貯蔵した塊茎(いも)をポテトチップに加工)
品種の名前の由来
「しんせい」は育成地である農研機構北海道農業研究センター芽室研究拠点が所在する地名「新生」にちなんで命名されました。あわせて、新品種として輝く「新星」となることを願い、名づけられています。
今後の予定・期待
「しんせい」は、「トヨシロ」と同程度の熟期(中早生)と収量性を持ち、長期貯蔵性にも優れるジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種です。2026年から本格的な一般栽培が予定されており、主に北海道のポテトチップ原料用バレイショ生産地帯への普及が見込まれています。「トヨシロ」や「スノーデン」に置き換えて栽培することで、国産バレイショの安定供給、特にポテトチップ原料の周年供給への貢献が期待されます。
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用語の解説
- 長期貯蔵
- ポテトチップの原料となるバレイショは、北海道産では8月から10月にかけて収穫され、これを貯蔵して翌年の6月頃まで使用されます。この長期間の貯蔵により、いもに含まれるでん粉が糖化し還元糖が増えることで焦げの原因となり、ポテトチップの外観の悪化や苦味など、ポテトチップ品質の低下を引き起こします。
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- ジャガイモシストセンチュウ
- 線虫の一種で、バレイショの根に寄生して大幅な減収(高密度ほ場では半減)を引き起こします。一度発生すると根絶が難しく、発生履歴のあるほ場で生産されたバレイショは、植物防疫法により種いもとして移動や譲渡することができなくなります。抵抗性品種を作付けることで、被害を抑えるとともに土壌中の線虫密度を低減する効果があることが認められています。
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- チップカラー
- ポテトチップに加工した際の外観や色合い、焦げがない方が良いとされます。
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- 熟期
- 枯ちょう期(茎葉がほとんど枯れた日)を目安とした収穫に適した時期の区分。「トヨシロ」は中早生、「スノーデン」は中晩生に属します。
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- でん粉価
- いもに含まれるでん粉の割合(%)。比重により算出します。
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- アグトロン値
- アグトロン社製の食品用分光光度計を用いて測定した食品の色調を示す指標であり、値が高いほど白く、低いほど焦げ色が強いことを示します。
[新品種「しんせい」の特徴4.へ戻る]
発表論文
下坂悦生、田宮誠司、浅野賢治、津田昌吾、西中未央、森元幸、小林晃、向島信洋、赤井浩太郎、岡本智史、高田明子(2024)農研機構研究報告第17号:23−37