開発の社会的背景と研究の経緯
国内の飼料自給率は粗飼料自給率78%、濃厚飼料自給率は13%にとどまり、濃厚飼料は多くを輸入に依存している状況です(いずれも2023年)。加えて、飼料価格は2005年の98.7 USドル/tから2025年には207.1 USドル/tへと上昇し、この20年間で約2倍に達しました。こうした価格高騰により、畜産経営・酪農経営における飼料代は経営を大きく圧迫しています。
粗飼料および濃厚飼料として利用可能な飼料用トウモロコシはわが国の自給飼料生産の基幹作物であり、北海道では2023年時点で約6万ヘクタールが栽培されています。日本国内の普及品種の大部分を占める外国導入品種は、良好な生育環境下では高収量が期待できますが、低温、寡日照のほか、長雨などの生育を阻害する日本特有の環境下では収量が不安定になりがちです。また、北海道内の根釧および道北地域には、夏季も冷涼であるため飼料用トウモロコシの登熟に必要な気温が足りない「トウモロコシ栽培限界地帯」があります。この地域では飼料用トウモロコシに加温マルチを利用する栽培法が取り入れられていますが、生産拡大のためにはマルチなどの資材費をかけずに、露地栽培でも収穫可能な登熟の早い品種が求められています。
そこで農研機構と道総研は、北海道の道北地域や根釧地域のような気温が低い栽培限界地帯でも、栽培が可能な超極早生の飼料用トウモロコシ新品種「ハヤミノルド」を育成しました。
新品種「ハヤミノルド」の特徴
来歴
「ハヤミノルド」は、農研機構北海道農業研究センター育成のデント種6)自殖系統7)「Ho120」を種子親、同センター育成のフリント種6)自殖系統「Ho131」を花粉親とした飼料用トウモロコシF1(交配した子の1代目)品種です。「Ho120」および「Ho131」は極早生の自殖系統であり、いずれも耐倒伏性と耐病性に優れる自殖系統です。超極早生で耐倒伏性と病害抵抗性に優れるF1品種を育成するために「Ho120」と「Ho131」の交配を行いました。
主な特徴
1.早晩性(栽培期間の長さ)は北海道作付けでの"超極早生"です。北海道統一RMは60で、市販されている品種の中で最も早晩性が早いです。(表1) 。
2.WCS収量は、地域適応性検定試験を実施し適地と判断した根釧・道北地域平均では、可消化養分総量(TDN8))収量が1,201kg/10a、標準品種比で86%と低収でした(トウモロコシは、早晩性が早いほど収量性が低くなる傾向があります)。しかし、同時収穫であっても、「ハヤミノルド」の乾物率が高いことから、収穫適期9)には標準品種よりも早く到達しており、標準品種よりも早く収穫できます(表1) 。
3.耐倒伏性は標準品種より強く、極強です(表2)。
4.病害抵抗性は、すす紋病抵抗性は"かなり強"で強く、ごま葉枯病抵抗性は標準品種と同程度以上で強いです(表3)。赤かび病接種検定では、発病面積率が低い値を示しました。
5.北海道内の気温条件の良い地域では、標準播種(5月上旬~中旬)で早期収穫(8月下旬~9月上旬)が可能であり、ハヤミノルド収穫後に秋播き作物(秋小麦や牧草など)の播種が可能です。また、晩播(6月中旬~下旬播種)でも、地域の最適早晩性品種と同時収穫(9月下旬~10月上旬)が可能となり、1番草収穫や、他の作物の播種などで多忙である春季の作業分散が可能です。 また晩播栽培は、5月播種で失敗(遅霜、鳥害、獣害、干ばつによる不発芽など)した際のリカバリーとして利用可能です。(図2)
図2 ハヤミノルドの栽培暦
品種の名前の由来
超極早生を示す「早い」と、稔実する意味の「稔る(みのる)」と、北を意味する言葉の「Nord(ノルド)」を組み合わせ、「ハヤミノルド」と命名しました。
今後の予定・期待
栽培限界地帯でのWCS利用のほか、二毛作の1作目利用や、晩播利用可能な飼料用トウモロコシ超極早生品種として、北海道内の栽培適地での自給飼料生産の増産が図られるよう、普及拡大を目指します。
なお、種子の販売は2026年より本格開始されていますが、予約販売であるため、手続き等の詳細は下記の原種苗入手先へお問い合わせください。
原種苗入手先に関するお問い合わせ(生産者向け)
日本草地畜産種子協会
TEL 03-3251-6501 | https://souchi.lin.gr.jp/
利用許諾契約に関するお問い合わせ(種苗会社向け)
用語の解説
- 登熟
- 受粉後、デンプンを主体とする養分が子実へ転流・蓄積され、成熟する過程を指します。
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- 標準品種
- 同じ早晩性の優良品種の一つです。この標準品種との比較により、新品種の優良性を比較検討します。
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- RM
- Relative Maturityの略称で、相対熟度を示します。アメリカで開発されたトウモロコシの早晩性指標で、播種から登熟までに要する期間を示します。品種の早晩性比較の目安として使用され、数値が小さいほど早生です。種子メーカーのカタログには、各社で判断したRMが記載されています。北海道内でのトウモロコシ栽培条件下で、RMに北海道立総合研究機構が改良を加え、種子メーカーの違いによらず統一的に比較できるように示した新たな早晩性指標「北海道統一RM」が使用されており、こちらも数値が小さい方が早生となります。北海道では、RMの値から栽培適地を判断できるよう、北海道立総合研究機構が作成した安定栽培マップが整備されています。
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- すす紋病、ごま葉枯病
- いずれもトウモロコシの重要病害で、葉に病斑を形成します。病斑部は光合成ができなくなるため、収量に影響を与えます。抵抗性が弱い品種は個体全体に病斑が広がり、枯死することもあります。
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- WCS(ホールクロップサイレージ)
- トウモロコシの茎葉と雌穂を収穫し、裁断したのちに発酵させた飼料です。
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- デント種、フリント種
- トウモロコシの種類です。いずれも子実が硬化する品種で、飼料として用いられます。子実の特徴として、デント種は粒の先端がくぼみ、軟らかいでんぷん層で覆われます。フリント種は粒の先端はくぼまず、硬いでんぷん層で覆われます。トウモロコシの種類には、他にもスイート種、ポップ種など複数あります。
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- 自殖系統
- 優良な個体を選抜し、繰り返し自殖交配(自分の花粉を自分の雌しべに受粉させること)することにより、遺伝的に固定した系統です。自殖系統同士を組み合わせることにより、F1品種を作ります。
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- TDN
- Total Digestible Nutrientsの略称。家畜が消化できる成分の総量を表します。
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- 収穫適期
- 飼料用トウモロコシの収穫適期は、WCSでは総体乾物率が30%に到達したときとされています。早晩性が早い品種ほど、早く総体乾物率が30%に到達し、早く収穫できます。
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