ポイント
農研機構は、異なる農機・機器のデータを組み合わせ(データ連携)、農機の稼働状況や作物の生育環境等を評価・分析するため、これまでに策定してきた農機Open2)仕様書のデータ項目等を更に充実させました。併せて、機器間データ連携の実証結果や農機 OpenAPI仕様書の今後の維持管理体制について取りまとめた「令和 5 年度成果報告書」を公開しました。これまでの成果を活用するとともに、将来にわたって持続的かつ安定的に運用していくことで、メーカー間の垣根を越えたデータ連携が加速化し、農業者によるデータ利活用が進むことが期待されます。
概要
本事業では、令和 3 年度にメーカー各社が API を実装する際の標準となる「農機 OpenAPI仕様書」を策定しました。また、令和 4 年度にはその改訂を行うとともに農業者がデータ利活用で実現したい目的・シナリオを具体化した「ユースケース事例集3)」(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/iam/159034.html)を公開しました。令和 5 年度は農機 OpenAPI 仕様書のデータ項目等を更に充実させるとともに、ユースケースを実現するためのほ場農業機械、施設園芸機器を対象とした機器間データ連携実証の結果などを取りまとめた「令和 5 年度成果報告書」を公開しました。
農機 OpenAPI 仕様書には、透明性や一貫性等が求められることから、農研機構が運営する「農業機械技術クラスター事業の標準化・共通化推進委員会」内に関係者が自律的かつ継続的に改訂等の管理業務を行う組織を新たに設置しました。
これまでの成果が農機・機器メーカー、ICT ベンダー等に活用され、将来にわたって持続的かつ安定的に運用されることで、メーカー間の垣根を越えたデータ連携が加速化され、生産現場での農業者のデータ利活用の推進に貢献することが期待されます。
参考
URL : https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/cluster/aboutus/API/index.html
関連情報
同 農業情報研究センター センター長 村上 則幸
同 野菜花き研究部門 所長 東出 忠桐
室長 大森 弘美
社会的背景
農業者の高齢化や労働力不足に対応しつつ生産性を向上させるには、ICT・ロボット技術等を活用したスマート農業の導入が鍵となります。スマート農業は、作業の自動化や省力化はもとより、農業データの活用による効率的な農業経営や技術継承の円滑化などの効果が期待されています。
一方、これらスマート農業の機械・機器はデータ項目や形式等がメーカー間で異なっていることから、スマート農業の普及に伴い、農業現場からは、メーカー間の垣根を越えた様々な農機・機器のデータ連携を通じた一元的なデータ管理・分析と農業経営への活用に対するニーズが高まっています。
このため、農林水産省において、農機メーカー、ICT ベンダー、農業者、学識経験者が参画する検討会を設置し、異なる農機・機器が取得するデータの連携に向けたルールづくりに関する検討を行った結果、令和 3 年 2 月に「農業分野におけるオープン API 整備に関するガイドライン ver1.0」が策定されました。
事業の経緯
このような背景のもと、農林水産省「スマート農業の総合推進対策のうち農林水産データ管理・活用基盤強化事業」では、農業データを連携・共有するための環境整備の支援を通じてデータを活用した農業を推進することとなりました。
そこで、農研機構では、「農業情報創成・流通促進戦略に係る標準化ロードマップ」(令和 2 年 5 月)、「農業分野におけるオープン API 整備に関するガイドライン ver1.0」(令和 3 年 2 月)及び「農業分野における AI・データに関する契約ガイドライン」(令和 2 年 3 月)の趣旨を踏まえつつ、農業分野でのデータ連携を推進するため、農機・機器メーカー、ICTベンダー、業界団体、研究機関等からなる、農機 API 共通化コンソーシアム(以下、コンソーシアムという。)を令和 3 年 4 月に設立しました。
コンソーシアムに「ほ場農業機械 WG(ワーキンググループ)」、「穀物乾燥調製施設 WG」、「施設園芸機器 WG」を設置して分野ごとに仕様を策定するデータ項目やデータ形式の標準化等について検討を進め、ほ場農業機械、穀物循環式乾燥機、穀物検査機器、施設園芸機器の API の標準的な仕様が定められるなど成果が得られています。
さらに、生産現場で農業者が使いやすいデータ連携を実現するため、農業者、ICT ベンダー、学識経験者、業界団体等からなる事業検討委員会を設け、各 WG への助言・指導を行いました。
研究の内容・意義
令和 5 年度は、令和 4 年度に取りまとめたユースケース事例(データ連携の効果を農業者が実感できるよう優先的に取り組むべき事項等 11 事例をまとめた資料)の実現を目指し、ほ場農業機械及び施設園芸機器を対象とした機器間データ連携実証を実施するグループを新設(図1)するとともに、農機 OpenAPI 仕様書の更なる充実・改訂を行い、成果等を以下のとおり取りまとめ公表しました。
1) 令和5年度成果報告書
事業成果の要約版として、各種成果物の位置付け、成果の概要及びコンソーシアムの活動記録等について取りまとめたものです。令和 5 年度は新たに「ほ場農業機械及び施設園芸機器を対象とした機器間データ連携実証」の結果(図2)や「農機 OpenAPI 仕様書の今後の維持管理体制」について報告しています。
2) 農機OpenAPI仕様書
農機・機器データの利用しやすさの向上及び農機・機器メーカーの迅速な API 実装を支援するために作成したもので、令和 5 年度は、令和 4 年度までに策定したほ場農業機械編、穀物循環式乾燥機編、穀物検査機器編、施設園芸機器編のデータ項目を充実・改訂しました。農機・機器メーカーが本仕様に沿って API を実装することにより、ICT ベンダーはメーカー間の仕様の違いを気にすることなく、API で取得できるデータ項目に関する定義の一貫性を担保することができます。これにより、農機・機器データの収集・分析が容易になり、営農情報管理システムの高機能化や農業者の利便性向上につながります。
3) 農機OpenAPI仕様の利用ガイドライン(ほ場と施設のデータの紐付けを行う)
これまで営農情報管理システムがほ場単位で集計・分析をしてきた栽培管理の情報に、穀物乾燥調製施設で取得したデータを紐付けることで、農業者が営農活動全体の評価を行えるサービスの構築が望まれています。この機能開発を農機 OpenAPI 仕様を活用して実現するための設計概論や、有益なデータ連携を実現するために望ましい作業方法をガイドラインとして示しました。農機 OpenAPI 仕様の具体的な活用法を紹介することで、ICT ベンダーによる営農情報管理システムの高機能化につながります。
▶成果物へのリンク
https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/cluster/aboutus/API/index.html#outcomes
今後の予定・期待
3 年間の「農機 API 共通化コンソーシアム」としての活動は令和 5 年度末をもって終了しましたが、3 年間の取組により、農業機械分野の協調領域と競争領域を明確に区別し、協調領域を対象とした農機 OpenAPI 仕様書の策定や API 利用ルール(API 利用規約の条文例)の公表等の成果を創出しました。また、農業機械のデータ利用に留まらず、データ駆動型農業を推進するために必要な将来像の策定や関係者が果たすべき役割等の整理も行い、農業分野で取り組むべきユースケース事例をまとめました。さらに、ユースケースの実現とデータ活用の成功事例創出を目指した実証等にも取り組むことで、農業データの管理・活用に対する幅広い環境整備を実施してきました。
今後農研機構では、令和 6 年度から新たに「農機 API 利活用コンソーシアム」を設立し、農機・機器メーカー、ICT ベンダー等と協業し、機器間データ連携実証を通じたデータ利活用の成功事例の創出に取り組みます。令和 6 年度は、令和 5 年度までの取組拡充に加え、高知県が主体となって取り組んでいる営農支援サービス「SAWACHI」での農機 OpenAPI 仕様の活用実証を行う予定です。
また、過去 3 年間の活動で作成した農機 OpenAPI 仕様書は、今後も技術の進展に応じた改訂が不可欠です。そこで、関係する企業・団体からの仕様の改善提案を受け付け、関係者が継続的に仕様改訂を協議できる場(常設の委員会組織)を農研機構 農業機械研究部門が運営する「農業機械技術クラスター事業の標準化・共通化推進委員会」に設けることで、引き続き成果の普及に努めるとともに、業界関係者が一体となって、農業者が農機・機器の各種データを容易に利用できる環境整備に取り組みます。
なお、本仕様に基づく農機・機器メーカーの API は、順次、農業データ連携基盤 WAGRI等に実装・公開されており、各種データを統一的に利用する環境も整いつつあります。
用語の解説
- API
- アプリケーションプログラミングインターフェース(Application Programming Interface)の略で、ソフトウェア機能の一部をインターフェースとして公開し、他のソフトウェアと機能を共有できるようにするものです。
- OpenAPI(オープンAPI)
- APIを提供する事業者が、自社システムへ接続するためのAPI仕様を外部に公開し、セキュリティを確保しながら一定の条件の下でアクセスを可能とし、データ交換等が行える仕組みです。オープンAPIの整備は、データ連携の推進に欠かせない取組です。
- ユースケース事例集
- 農業者がデータ利活用で実現したい目的・シナリオを具体化したものがユースケースです。まずは先進的農業者が既に取り組んでいるユースケースを大多数の農業者が簡便に実現できるよう、オープン API の整備を進めることとし、令和4年に優先的に実現を目指す8事例と中長期的に実現を目指す3事例の事例集を作成しました。
参考資料
1)「農業分野におけるオープンAPI整備に向けた検討会」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/openapikento.html
2)「農業情報創成・流通促進戦略に係る標準化ロードマップ」(令和2年5月)
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/20200522roadmap.pdf
3)「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドラインver1.0」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/openapi-16.pdf
4) 「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」(令和2年3月)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/keiyaku.html
5) 農業データ連携基盤WAGRI
https://wagri.naro.go.jp/