プレスリリース
南西諸島の地域バイオマス利活用により減化学肥料栽培を実現

- 地域バイオマス利活用マニュアルの作成 -

情報公開日:2015年10月21日 (水曜日)

ポイント

  • サトウキビ栽培用の低価格堆肥製造、普及が期待される家畜ふん尿のメタン発酵から排出されるメタン発酵消化液の施肥技術開発、これらを利用した作物栽培実証研究を沖縄県で実施し耕畜連携モデルとなるマニュアルを作成しました。
  • これらの堆肥やメタン発酵消化液を利用することで、化学肥料を70%以上削減したサトウキビ栽培が可能となるだけでなく、ソルガムやソバ、野菜等の減化学肥料栽培も可能となります。

  • 南西諸島の基幹作物であるサトウキビは、有機物の施用不足などにより収量が著しく低下して問題になっています。また、畜産農家では家畜ふん尿の堆肥化のための水分調整用副資材不足から堆肥化が進まない中で、浄化処理の暫定排水基準1)の設定期限等からメタン発酵2)処理の必要性が高まっています。
  • 南西諸島で多く存在するバイオマスである家畜ふん尿と農業集落排水汚泥を堆肥化して、サトウキビ等の減化学肥料栽培を沖縄県金武町で実証し、地域バイオマス利活用のためのマニュアルを作成しました(図1)。
  • 南西諸島で普及が期待されるバイオマス処理法であるメタン発酵から排出されるメタン発酵消化液2)の臭気対策や散布技術を開発し、マニュアルに収録しました(図1)。
  • 農業集落排水汚泥堆肥やメタン発酵消化液を用いた減化学肥料栽培により、南西諸島の基幹作物であるサトウキビ栽培で、化学肥料を70%以上削減できます。サトウキビの収量や糖度も、化学肥料のみを使用した場合と比較して、ほぼ同等になります(図2)。
  • 家畜ふん堆肥やメタン発酵消化液を利用することで、野菜や夏植えサトウキビの休閑圃場3)での導入が期待されるソルガム、ソバの減化学肥料栽培ができます(写真1)。

関連情報

本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「南西諸島における家畜糞尿を核とした地域バイオマス利活用モデル構築(課題番号24013)(平成24~26年度)」の研究費補助を受けて実施されました。

構成機関

農研機構、沖縄県畜産研究センター、沖縄県北部農林水産振興センター、金武町役場、沖縄県農業協同組合金武支店、ヤンマー沖縄(株)、(株)アースノート、(株)金武有機堆肥センター

関連リンク

http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/karc/060121.html

図1 新規に導入したメタン発酵処理などによる有機質資源の流れ
図1 新規に導入したメタン発酵処理などによる有機質資源の流れ

図2 メタン発酵消化液や農業集落排水汚泥堆肥を利用したサトウキビの減化学肥料栽培
図2 メタン発酵消化液や農業集落排水汚泥堆肥を利用したサトウキビの減化学肥料栽培

写真1メタン発酵消化液の新規導入作物(ソルガム、ソバ)や野菜育苗への利用
写真1メタン発酵消化液の新規導入作物(ソルガム、ソバ)や野菜育苗への利用

用語解説

1)暫定排水基準
畜産業からの排水のうち一定の要件に該当する場合は、水質汚濁防止法に基づく排水基準を守って公共用水域への排水を行う必要があります。畜産農家の場合、1総面積50平方メートル以上の豚房、2総面積200平方メートル以上の牛房、3総面積500平方メートル以上の馬房、のいずれかに該当するような施設を有する事業場が対象となります。 水質汚濁防止法に基づくアンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物(硝酸性窒素等)の排水基準については、一般排水基準(100mg/L)を達成することが著しく困難と認められる一定の業種(畜産農業を含む)に対して、平成28年6月末日までは暫定排水基準(畜産農業:700mg/L)が設定されています。 (農林水産省ホームページより抜粋)

2)メタン発酵とメタン発酵消化液
メタン発酵とは、家畜ふん尿や生ごみなどの有機物を嫌気状態(酸素が無い状態)におき、微生物によりメタンガスを発生させるシステムのことです。また、メタン発酵により家畜ふん尿等の有機物は分解されて、メタン発酵消化液と呼ばれる液体になります。消化液は、家畜ふん尿等に含まれる窒素やリンがそのままの量で残っており、有機物が分解されるので、メタン発酵する前のスラリーよりも流動性がある良質な液肥となり作物栽培に適しています。消化液は窒素の速効性が高く、化学肥料と同様に基肥だけでなく追肥にも使えます。臭気はふんと尿が混合した流動性の高い液状の家畜ふん尿(スラリー)よりは少ないですが、施肥時の臭気に注意が必要です。

3)サトウキビの休閑圃場
サトウキビの夏植え栽培は8~9月に植付を行い、2年後の1,2月に収穫を行います。そのため、収穫から植付までの期間(3月~8月、6ヶ月間)は圃場が利用されていない状態(休閑圃場)となります。この期間に新規導入作物を栽培することで、圃場利用率を高め農家所得を向上させることができます。

サトウキビの夏植え栽培