プレスリリース
(研究成果)株出し多収製糖用サトウキビ品種「はるのおうぎ」の種苗を一般農家へ配布開始

情報公開日:2022年2月17日 (木曜日)

農研機
国際農

ポイント

農研機構が国際農研と共同で開発した株出し多収性に優れる製糖用サトウキビ品種「はるのおうぎ」について、令和4年2月から熊毛地域1)の一般農家への種苗配布が開始されます。「はるのおうぎ」は株出し栽培2)でのサトウキビ収量が減収傾向にある熊毛、大島地域3)の生産現場のニーズに応えることができます。また、「はるのおうぎ」の普及拡大に向けて標準作業手順書4)を作成し、本日ホームページで公表しました。

概要

鹿児島県でサトウキビ生産が行われている熊毛地域、大島地域では、株出し栽培がもっとも多い作型で約7割を占めています。また、かつて手刈りで行っていた収穫作業は高齢化や人手不足により機械化が進み、現在では機械収穫の割合が約9割に達しています。機械収穫後の株出し栽培では単収が減少することが課題となっています。
農研機構と国際農研が共同で開発した「はるのおうぎ」は、収穫後の萌芽5)性に優れ、1回株出し、2回株出し栽培ともに原料茎数を確保しやすい品種です。機械収穫後の株出し栽培でも萌芽数が極めて多い特性を持っています。この品種が両地域で普及することによりサトウキビ単収の減収傾向に歯止めがかかることが期待されます。
熊毛地域では令和4年2月より一般農家への種苗配布が開始されます。また、「はるのおうぎ」の普及拡大に向けて標準作業手順書を作成し、本日、以下の農研機構ホームページで公表しました。
(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/151356.html)

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト「地域バイオマスプロ(1系)」 、競争的資金「イノベーション創出強化研究推進事業」、運営費交付金
品種登録番号:「28825号」(登録年月日2021年12月24日)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構九州沖縄農業研究センター 所長 森田 敏
研究担当者 :
同 暖地畑作物野菜研究領域 田村 泰章
国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点 寺島 義文
広報担当者 :
農研機構九州沖縄農業研究センター 広報チーム長 仲里 博幸
国際農林水産業研究センター 情報広報室長 大森 圭祐

詳細情報

開発の社会的背景

鹿児島県熊毛地域、大島地域の基幹作物であるサトウキビ栽培では、高齢化により2011年に約9000戸あった栽培農家戸数は2020年には約6800戸と、この10年間で約24%減少しています。人手の減少が進む中、収穫作業は機械収穫が90%以上となり、植付け作業が省略可能な株出し栽培が増加し7割に達するなど省力化が求められています。現在の主要品種「農林8号」は耐病性、収量性に優れ熊毛地域、大島地域の収穫面積のそれぞれ40%、17%(2020年産)を占めていますが、株出し栽培では機械収穫時の株の引き抜きや踏圧による欠株のため収量が低下し、生産量に甚大な影響を及ぼしています。そのため、株出し栽培における収量性に優れるサトウキビ品種の育成が求められていました。

新品種「はるのおうぎ」の特徴と種苗の提供について

株出し栽培での多収を目指して、サトウキビ野生種との種間交配6)で育成した多回株出し栽培7)での収量性に優れる飼料用サトウキビ8)品種「KRFo93-1」を母本とし、糖度が高く一茎重が重い製糖用サトウキビ品種「NiN24」を父本とし、人工交配により得た種子から、株出し多収性と高糖性に着目し育成した品種です。「はるのおうぎ」は以下に示すような特徴があります。

    主な特徴
  • 茎数が極めて多く、熊毛地域における原料茎重は春植え、1回株出し、2回株出しの各作型で「農林8号」と比べそれぞれ29%、63%、47%多収で、可製糖量は各作型でそれぞれ31%、55%、46%多収です (表1図1)。
  • 萌芽性は"極高"で(表2)、機械収穫後でも萌芽数が極めて多いです(図2)。
  • 耐倒伏性は"強"であり、倒伏しにくいです(表2)。
    栽培上の留意点
  • 黒穂病9)抵抗性は"弱"のため、適切な採苗圃の設置、植え付け時の苗消毒を実施し、発病を確認した時には株の抜き取りを行ってください。
  • 脱葉性は"難"で、茎数も非常に多いことから機械収穫での利用が前提です。
  • 収穫後に品質劣化が生じやすいため、速やかに製糖工場に搬入する必要があります。

種苗の提供については、農研機構種苗管理センターが増殖率の高い側枝苗等を活用し、通常では原原種10)配布開始まで4年程度要しているところを2年に短縮して令和2年春植用原原種の配布を開始したため、令和4年春植用として一般農家への種苗の早期供給が可能となりました。

今後の予定・期待

「はるのおうぎ」は2019年8月に鹿児島県熊毛地域の奨励品種に、2020年8月に大島地域の奨励品種に採用されました。本品種の普及により株出し単収の減少に歯止めがかかることが期待され、鹿児島県熊毛地域において1150ha、大島地域において400haの普及を予定しています。
農研機構は「はるのおうぎ」の特性を取りまとめた標準作業手順書(鹿児島県熊毛地域版)を作成し、本日、農研機構ホームページで公表しました。
(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/151356.html)
鹿児島県と農研機構は令和4年2月8日に連携協定を締結しましたので、この枠組みの中で、作業手順書も活用しながら、本品種の普及拡大を強力に推進します。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

農研機構九州沖縄農業研究センター研究推進部研究推進室
TEL 096-242-7513 FAX 096-249-1002

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】

用語の解説

熊毛地域
種子島、屋久島、馬毛島、口永良部島からなる地域で、サトウキビ栽培は種子島で行われています。 [ポイントへ戻る]
株出し栽培
前作の収穫後に再生する萌芽茎を仕立て、再度、収穫する栽培法のことです。[ポイントへ戻る]
大島地域
奄美市及び大島郡からなり、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の8つの有人島があります。このうちサトウキビ栽培は主に奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島で行われています。[ポイントへ戻る]
標準作業手順書
品種開発の社会的背景や品種の特徴、栽培上の留意点等が記載されており、行政や実需担当者に配布して、生産現場での指導に用いられます。[ポイントへ戻る]
萌芽
サトウキビを収穫した後の株から再生する芽のことです。[概要へ戻る]
種間交配
同じ属に含まれる異種間での交配のことです。「はるのおうぎ」は、株出し能を向上させるためサトウキビ野生種と製糖用品種との種間交配を利用して育成された、世界的にも例が少ない品種です。[新品種「はるのおうぎ」の特徴と種苗の提供についてへ戻る]
多回株出し栽培
複数回にわたり株出し栽培を実施する栽培法です。[新品種「はるのおうぎ」の特徴と種苗の提供についてへ戻る]
飼料用サトウキビ
牛の飼料専用に開発されたサトウキビのことです。[新品種「はるのおうぎ」の特徴と種苗の提供についてへ戻る]
黒穂病
正式にはサトウキビ黒穂病と称します。黒穂病菌(Sporisorium scitamineum)の寄生によって起こる植物の病気で、サトウキビ最重要病害です。病気が発生すると茎の先端から薄い灰色の膜につつまれた黒色の鞭状物べんじょうぶつを抽出し胞子を飛散させます。感染した株は枯死するため大幅な減収をもたらします。胞子の飛散による被害の拡大を防ぐためには、株の抜き取り作業を行う必要があり多大な労力が必要となります。[新品種「はるのおうぎ」の特徴と種苗の提供についてへ戻る]
原原種
原種(農家が使用する農業用種子を生産するための種苗)の前世代の種苗で、原種生産の元種苗です。サトウキビ種苗の供給体制は下図のようになっています。育成地(この場合、農研機構九州沖縄農業研究センター)から提供された元種苗を使い、農研機構種苗管理センターにおいて増殖し原原種を生産します。原原種から原種を育成し、採種農家において一般栽培用種苗を生産します。[新品種「はるのおうぎ」の特徴と種苗の提供についてへ戻る]

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参考図

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図1.「はるのおうぎ」の草姿
左:農林22号、中:はるのおうぎ、右:農林8号
表1 「はるのおうぎ」作型別収量の「農林8号」との比較(手刈り収穫)
表2 「はるのおうぎ」の特性
図2「はるのおうぎ」の萌芽数(本/a)
図中の * および *** は、各試験で萌芽数の品種間差異について分散分析した結果、5%水準および0.1%水準で有意差が認められたことを示します。