ポイント
- 農研機構は「サツマイモ基腐病1)に対する蒸熱処理による種イモ消毒技術標準作業手順書(SOP)2)」を本日ウェブサイトで公開しました。
- 本SOPは、サツマイモ基腐病の病原菌に潜在感染した種イモを効果的に消毒可能とする、蒸熱処理技術3)を解説したものです。
- 本SOPを活用することで、同病をほ場に「持ち込まない」対策として蒸熱処理技術による種イモの消毒が適切に実行され、被害の拡大防止と早期収束に貢献することが期待されます。
概要
農研機構は、11月14日、「サツマイモ基腐病に対する蒸熱処理による種イモ消毒技術標準作業手順書」を公開しました。
サツマイモ基腐病(以下、基腐病)は、サツマイモの茎葉の枯死および塊根の腐敗を引き起こす病害で、一部の産地に深刻な被害をもたらしています。我が国では2018年に初めて発生し、2023年9月末時点で33都道府県において発生が確認されています。基腐病は感染した種苗や罹病残さの移動により発生域が拡がるため、こうした感染源とともに基腐病の病原菌をほ場に「持ち込まない」、「増やさない」、「残さない」ことが重要です。「持ち込まない」対策の一つとして、基腐病の病原菌に感染した種イモを使わないことが挙げられます。しかし、外見上は健全でも基腐病の病原菌に潜在感染している種イモが紛れ込んでいることがあるため、その対策が求められていました。
そこで農研機構は、相対湿度95%、48℃の気流を用いる蒸熱処理により、萌芽への悪影響がなく、基腐病の病原菌に潜在感染した種イモを消毒する処理条件を明らかにしました。本処理条件を用いた蒸熱処理は、すでに生産現場で行われ、今年度のサツマイモ栽培に生かされています。
本SOPは、基腐病の病原菌をほ場に「持ち込まない」対策として農業指導者および生産者の皆様が種イモ蒸熱処理技術への理解を深め、現場において適切に実施できるよう、種イモの収穫から苗床への伏せ込みまでの一連の作業の重要ポイントを取りまとめています。
本SOPを活用することで、基腐病の被害に悩む産地はもとより、侵入を警戒する地域で、本病発生のリスク低減に役立つことが期待されます。
【標準作業手順書掲載URL】サツマイモ基腐病に対する蒸熱処理による種イモ消毒技術標準作業手順書
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/160456.html
関連情報
予算:運営費交付金、戦略的スマート農業技術の開発・改良事業(JPJ011397)
「かんしょ輸出産地を支えるサツマイモ基腐病総合的防除体系の開発」
同 植物防疫研究部門 所長大藤 泰雄
技術適用研究チーム長荒川 祐介
同 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
病害虫防除支援技術グループ 上級研究員野口 雅子
同 植物防疫研究部門 研究推進室 渉外チーム松下 陽介
用語の解説
- サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)
- 糸状菌(Diaporthe destruens)によるサツマイモの病害で、発病が進むと茎葉は枯死し、地下部では塊根がなり首(茎のつけ根側)から腐敗します。症状がみられなかった塊根でも貯蔵中ないし苗床で発病し腐敗することがあります。感染した種イモから萌芽した苗が本菌により汚染され、ほ場に移植されることで本病の二次感染の原因になり得ます。[ポイントへ戻る]
- 標準作業手順書(SOP: Standard Operating Procedures)
- 技術の必要性、導入条件、具体的な導入手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し、社会実装(普及)を進める指針としています。[ポイントへ戻る]
- 蒸熱処理
- 50℃前後の飽和水蒸気の気流を処理対象物に当てて加熱することで処理対象物に潜む病害虫を消毒する処理法です。蒸熱処理は、生果実に寄生するミバエ類の卵や幼虫を飽和水蒸気(相対湿度が100%に近い気流)の熱で殺虫する方法として、1910年代にアメリカで研究が始められました。現在では、主に東南アジアから熱帯産生果実を日本に輸出する際の植物検疫措置に利用されています。[ポイントへ戻る]