プレスリリース
(研究成果)多収でサツマイモ基腐病など複数の土壌病害虫に対する抵抗性をもつ原料用サツマイモ新品種「コガネタイガン」

- 原料用サツマイモの安定供給に期待 -

情報公開日:2025年9月30日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、でん粉や焼酎の原料用サツマイモ新品種「コガネタイガン」を育成しました。「コガネタイガン」は、原料用の主力品種「コガネセンガン」より4割程度多収で、サツマイモ基腐病1)などの主要な土壌病害虫に対する抵抗性を有しています。また、萌芽性2)が優れるため、苗作りも容易です。でん粉の特性は従来のでん粉原料用品種とほぼ同等で、焼酎にした時の酒質(味と香り)は「コガネセンガン」の焼酎に似ています。そのため、南九州におけるでん粉や焼酎原料の安定供給への貢献が期待できます。

概要

サツマイモは、南九州の基幹作物として農業生産ならびに地域経済において重要な品目となっており、南九州におけるサツマイモ生産量の7割以上がでん粉と焼酎の原料として使われています。しかし、サツマイモ基腐病(以下、基腐病)の発生により南九州のサツマイモ生産は深刻な被害を受けました。基腐病対策の推進により被害は減少傾向にあるものの、生産者の高齢化に伴う栽培面積の減少も相まって生産量は十分回復しておらず、とりわけでん粉の原料不足はいまだかつてない深刻な状況にあります。また、南九州では、基腐病を原因としない塊根腐敗症状の発生も問題となっています。この課題に対応するため、農研機構は、2021年に育成した「みちしずく」に続く原料用の基腐病抵抗性品種の第二弾として、「コガネタイガン」を育成しました。

「コガネタイガン」は、原料用の主力品種「コガネセンガン」よりも収量が優れ、「みちしずく」並みに多収で、基腐病に対する抵抗性があります。塊根腐敗症状の原因の一つであるサツマイモつる割病3)に対しては、「みちしずく」よりも強い抵抗性を有しており、また、線虫にも強く、複数の主要な病害虫に対する抵抗性(複合抵抗性)を持っていることから、安定生産が期待できます。「みちしずく」よりも萌芽性に優れているため、苗を作りやすく、早期植付の作型4)にも対応しやすいです。でん粉の特性は従来のでん粉原料用品種と同様で、焼酎にした時の酒質は「みちしずく」と同様、「コガネセンガン」に似ています。でん粉と焼酎、いずれの原料としても利用できる汎用性を有していることから、「みちしずく」と併せて普及させることで、単一品種を栽培することによるリスクの軽減、サツマイモ生産量の向上と原料の安定供給への貢献が期待できます。

関連情報

予算:運営費交付金、生研支援センター (食料安全保障強化に向けた革新的新品種開発プロジェクトのうち食料安全保障強化に資する新品種開発)
品種登録出願番号:第37838号(2025年1月21日出願、2025年5月14日出願公表)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 九州沖縄農業研究センター 所長澁谷 美紀
研究担当者 :
同 暖地畑作物野菜研究領域 グループ長小林 晃/研究員 川田 ゆかり
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長緒方 靖大

詳細情報

育成の背景および経緯

南九州におけるサツマイモ生産量の7割以上はでん粉と焼酎の原料として使われており、南九州におけるでん粉製造業と焼酎産業は、農業生産ならびに地域経済において重要な役割を果たしています。しかし、2018年に国内で初確認された基腐病の発生により、南九州のサツマイモ生産は深刻な被害を受けました。基腐病に強いでん粉原料用品種「こないしん」や焼酎・でん粉原料用品種「みちしずく」の普及拡大、苗消毒や薬剤防除、ほ場排水対策等の基腐病対策技術の推進などにより、発生ピーク時と比較すると基腐病の被害は減少し、単収は回復傾向にあります。しかし、生産者の高齢化に伴う栽培面積の減少も相まって、サツマイモの生産量は十分回復しておらず、特にでん粉の原料不足はいまだかつてない深刻な状況にあります。また、気候変動や基腐病以外の病害虫の発生などによる経済的損失のリスクを軽減させるためには、単一品種ではなく複数の品種を栽培することが重要であり、「みちしずく」と併せて普及させることができる品種が求められていました。そこで、農研機構では、「コガネセンガン」よりも基腐病に強く、「みちしずく」並みに多収で、でん粉原料としても焼酎原料としても利用できる、汎用性に優れる新品種の育成に取り組みました。

新品種「コガネタイガン」の特徴

  • でん粉歩留5)が高く萌芽性の良い「九系330」を母、多収で線虫抵抗性が強い「九系11084-2」を父とする交配組み合わせから選抜されました。
  • 塊根の形は"楕円形"で、表皮はやや粗く、色は"黄白"、肉色は"淡黄白"で、外観が優れます(図1)。
  • いもの収量は「みちしずく」並みに高く、「コガネセンガン」の1.4倍、でん粉歩留は「みちしずく」と「コガネセンガン」の中間で、でん粉収量は「みちしずく」や「こないしん」並みに高いです(表1)。
  • 基腐病には「みちしずく」と同等の抵抗性を持ち"やや強"、サツマイモつる割病抵抗性は"強"、サツマイモネコブセンチュウ6)抵抗性は"強"、ミナミネグサレセンチュウ6))抵抗性は"やや強"で、複数の主要な病害虫に対する抵抗性(複合抵抗性)を持っています(表2)。
  • 萌芽性が「コガネセンガン」や「みちしずく」より優れ、苗の確保が容易なため、早期植付の作型にも対応しやすいです(表1)。
  • でん粉の糊化開始温度7)は従来のサツマイモでん粉とほぼ同等です。でん粉の白度8)は、白度が優れている「みちしずく」よりはやや劣りますが、「コガネセンガン」より高いです(表1)。
  • 「コガネタイガン」を焼酎原料とした時のアルコール収得量は「みちしずく」より低いものの、「コガネセンガン」より高いです(表3)。焼酎の香味は「コガネタイガン」と「みちしずく」のどちらも「コガネセンガン」の焼酎に似ていますが、焼酎に含まれる特徴香気成分9)の構成比率は「コガネタイガン」の方が「みちしずく」よりも「コガネセンガン」に近いです(図2)。
図1 「コガネタイガン」、「コガネセンガン」、「みちしずく」の塊根
表1 主な栽培・品質特性
表2 病害虫抵抗性
表3 焼酎醸造適性(2021年 霧島酒造株式会社)
図2 25度焼酎中の特徴香気成分構成比率(GC-MS分析)
(2023年 霧島酒造株式会社)

品種の名前の由来

この品種に関わる全ての人の大きな願いや期待を叶える、力強い、偉大なサツマイモの品種になることを願い、「コガネタイガン」と命名しました。

今後の予定・期待

「コガネタイガン」は南九州の原料用サツマイモ産地において、2025年春より種いも生産が開始されています。2030年に2,000ha以上の普及を目指しています。「コガネタイガン」と「みちしずく」、2品種の普及により、基腐病による被害がさらに軽減し、サツマイモの生産量が増え、南九州地域の基幹的農業生産が安定することで、でん粉製造業と焼酎産業の両者が振興することを期待しています。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

「コガネタイガン」の種苗を生産し譲渡を行う団体と利用許諾契約を締結後、原種苗を提供します。

一般の方の種苗の入手先は以下でご確認ください。
農研機構育成品種の種苗入手先リスト
https://www.naro.go.jp/collab/breed/seeds_list/index.html

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

用語の解説

サツマイモ基腐病
Diaporthe destruens (ディアポルテ・デストルエンス) という糸状菌 (かび) に感染することで起こる、茎葉が枯死し、塊根が腐敗する病気です。サツマイモ基腐病の対策については、技術者向けのマニュアル「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)」や生産者向けの「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書」、「かんしょ生産工程におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術集(概要編)」などがウェブ上で入手できます。
○サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 (令和4年度版)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/158250.html
○サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書
https://sop.naro.go.jp/document/detail/66
○かんしょ生産工程におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術集(概要編)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/168482.html
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萌芽性
サツマイモは一般的に種いもを育苗床に伏せ込み、萌芽した苗を畑に定植して栽培します。萌芽性とは、種いもからの萌芽の早さや揃いの良さ、苗の伸長速度、萌芽数の多少を総合的に評価したものです。[ポイントへ戻る]
サツマイモつる割病
Fusarium oxysporum(フザリウム・オキシスポラム)という糸状菌(かび)に感染することで起こる、茎が地際から縦に裂け、症状がひどいと枯死することもある病気です。[概要へ戻る]
作型
作物を栽培する時期や方法、栽培条件などを総合した技術体系のことです。[概要へ戻る]
でん粉歩留
サツマイモの塊根の重さのうちでん粉が占める割合のことです。焼酎に含まれるアルコールはでん粉から作られるため、でん粉歩留の高さはでん粉原料用として重要なでん粉収量だけでなく、焼酎原料用として重要な焼酎醸造時のアルコール収量の高さに直結します。[新品種「コガネタイガン」の特徴へ戻る]
サツマイモネコブセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ
多くの作物の根に寄生する有害な線虫です。[新品種「コガネタイガン」の特徴へ戻る]
糊化開始温度
でん粉と水を混ぜて加熱した時、糊状になり始める温度のことで、でん粉の性質を表す項目の一つです。[新品種「コガネタイガン」の特徴へ戻る]
でん粉の白度
でん粉の白さを表す規格です。粉体白度計で測定した数値で、この数値が高いほど白さが強く優れることを示します。[新品種「コガネタイガン」の特徴へ戻る]
特徴香気成分
芋焼酎の主な特徴香気成分には、モノテルペンアルコール類であるリナロール、α‐テルピネオール、シトロネロール、ネロール、ゲラニオールや芋焼酎特有の甘い香りに大きく寄与しているβ‐ダマセノンなどがあります。[新品種「コガネタイガン」の特徴へ戻る]