プレスリリース
(研究成果)一般的なサツマイモでん粉とは特性が異なる低温糊化性でん粉原料用サツマイモ新品種「こなみらい」

- 食感改良効果や品質保持効果を活かした食品用途拡大に期待 -

情報公開日:2025年9月30日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、低温糊化性でん粉1)をもつでん粉原料用サツマイモ新品種「こなみらい」を育成しました。低温糊化性でん粉は、食品の食感改良効果や品質保持効果などを有し、様々な食品に利用されています。「こなみらい」は従来の低温糊化性でん粉原料用品種「こなみずき」よりも、多収で、サツマイモ基腐病2)に強いです。南九州のサツマイモ産地への普及を見込み、安定生産とサツマイモでん粉の食品用途拡大への貢献が期待されます。

概要

サツマイモ新品種「こなみらい」は、一般的なサツマイモでん粉とは特性が大きく異なる「低温糊化性でん粉」をもつ品種です。低温糊化性でん粉は、でん粉食品のみずみずしさを長持ちさせたり、食感を改良したりできる高品質で付加価値の高いでん粉です。農研機構は2010年に低温糊化性でん粉をもつ画期的なでん粉原料用品種「こなみずき」を育成しました。「こなみずき」のでん粉を利用した食品は、弾力感や喉ごし、歯切れのよさを兼ね備え優れた食感改良効果があるため、様々な食品に利用されてきました。しかし、サツマイモ基腐病(以下、基腐病)の発生以降、本病に弱い「こなみずき」の栽培は激減しています。「こなみらい」は「こなみずき」よりも収量が優れ、基腐病にも強いため、安定生産とサツマイモでん粉の食品用途拡大への貢献が期待できます。

関連情報

予算:運営費交付金、生研支援センター (食料安全保障強化に向けた革新的新品種開発プロジェクトのうち食料安全保障強化に資する新品種開発)
品種登録出願番号:第37292号(2024年2月14日出願、2024年5月23日出願公表)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 九州沖縄農業研究センター 所長澁谷 美紀
研究担当者 :
同 暖地畑作物野菜研究領域 グループ長小林 晃/研究員 川田 ゆかり
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長緒方 靖大

詳細情報

育成の背景および経緯

でん粉原料用サツマイモは、そのほとんどが南九州で生産されています。南九州では、でん粉原料用サツマイモはサツマイモ作付け面積の約3割(2021年産)を占めており、基幹作物として生産者所得の安定化に寄与し、でん粉工場とともに地域経済、地域産業を支える重要な役割を果たしています。サツマイモでん粉は、清涼飲料水などに使用される異性化糖などの糖化原料用、菓子類・麺類・水産練り製品などの加工食品用に使われていますが、用途として最も多い糖化原料用は、安価なコーンスターチと競合しています。そのため、サツマイモでん粉特有の性質を活かした加工食品向けの固有用途を拡大し、競争力を強化することがサツマイモでん粉の課題となっています。

農研機構は従来のサツマイモでん粉にはないユニークな特性のある「低温糊化性でん粉」をもつ品種「こなみずき」を2010年に育成しました。「こなみずき」の低温糊化性でん粉は、耐老化性3)があり、わらび餅や葛餅などに使用すると、冷蔵しても硬くなりにくく、水分が保持されることで、ぷるぷるとした瑞々しい食感が長期間保持されます。従来のでん粉よりも少ない添加量で食品をゼリー状に固めることができる優れた成形性もあります。この低温糊化性でん粉が有する食感改良効果や品質保持効果を活かして、わらび餅や葛餅の他にも、水産練り製品、麺類、パンなど多様な食品に利用され、サツマイモでん粉の固有用途の拡大に貢献してきました。しかし、2018年に国内で初確認された基腐病の発生により、本病に弱い「こなみずき」の栽培は激減し、低温糊化性でん粉の製造が危ぶまれています。そこで、農研機構では、「こなみずき」よりも基腐病に強い、低温糊化性でん粉原料用品種の育成に取り組みました。

新品種「こなみらい」の特徴

  • 低温糊化性でん粉をもつ「九系297」を母、低温糊化性でん粉をもちでん粉歩留4)が高い「九系07267-175」を父とする交配組み合わせから選抜されました。
  • 塊根表皮の主な色は白色で、塊根のなり首やしっぽ(尾部)5)は桃色がかっており、肉は白色です(図1)。
  • 「こなみずき」より多収で、でん粉歩留も高いです(表1)。
  • 基腐病に対する抵抗性は、"弱"の「こなみずき」よりは強い"中"であるものの、"やや強"の一般的なでん粉原料用品種「こないしん」より劣るため、防除対策を徹底するよう心がけてください(表1)。
  • 「こなみらい」のでん粉の糊化開始温度は、一般的なでん粉原料用品種「シロユタカ」よりも約15°C低く、「こなみずき」と同様、低温糊化性です。でん粉の白度6)は「こなみずき」より高いです(表2)。
  • 「こなみらい」のでん粉は、「こなみずき」と同様、耐老化性が優れます。でん粉ゲルを低温で保存しても水分が保持され、硬くなりにくいため、ぷるぷるとした瑞々しい食感が長持ちするといった食感改良効果や品質保持効果があります(表2、図2、3)。
図1 「こなみらい」と「こなみずき」の塊根
表1 主な栽培特性
表2 でん粉の特性
図2 「こなみらい」でん粉、「こなみずき」でん粉、一般サツマイモでん粉で作ったゲルの強度(でん粉製造業者による評価)
でん粉濃度15%のゲルを1日間、7日間冷蔵保存(6~8℃)した後、ひずみ率30%時の荷重を測定した。数値が大きいほどゲルが硬いこと、冷蔵1日間と冷蔵7日間の変化が小さいほど老化しにくいことを表している。
図3 「こなみらい」でん粉、一般サツマイモでん粉で作ったゲルを3日間冷蔵した後の硬さの比較

品種の名前の由来

優れた特性を持つ「低温糊化性でん粉」が、サツマイモでん粉の未来につながることを願って「こなみらい」と命名しました。

今後の予定・期待

「こなみらい」は南九州のでん粉原料用サツマイモ産地への普及を見込んでいます。「こなみずき」の低温糊化性でん粉は、これまで利用上の差別化や固有用途がなかったサツマイモでん粉の希望の星として、用途の拡大とサツマイモでん粉を使った食品産業の振興に貢献してきました。しかし、基腐病の発生以降、「こなみずき」の栽培の激減により、低温糊化性でん粉の製造が危ぶまれています。このような状況で誕生した新品種「こなみらい」が、サツマイモでん粉の未来を明るく照らす品種になっていくことを期待しています。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

「こなみらい」の種苗を生産し譲渡を行う団体と利用許諾契約を締結後、原種苗を提供します。

一般の方の種苗の入手先は以下でご確認ください。
農研機構育成品種の種苗入手先リスト
https://www.naro.go.jp/collab/breed/seeds_list/index.html

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

用語の解説

低温糊化性でん粉(ていおんこかせいでんぷん)
でん粉に水を加えて加熱すると糊状になります。糊状になり始める温度(糊化開始温度)が、一般的なサツマイモでん粉よりも15~20℃程度低いでん粉を低温糊化性でん粉と呼びます。「こなみらい」や「こなみずき」がもっているでん粉はすべてが低温糊化性のでん粉です。[ポイントへ戻る]
サツマイモ基腐病
Diaporthe destruens (ディアポルテ・デストルエンス) という糸状菌 (かび) に感染することで起こる、茎葉が枯死し、塊根が腐敗する病気です。サツマイモ基腐病の対策については、技術者向けのマニュアル「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)」や生産者向けの「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書」、「かんしょ生産工程におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術集(概要編)」などがウェブ上で入手できます。
○サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 (令和4年度版)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/158250.html
○サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書
https://sop.naro.go.jp/document/detail/66
○かんしょ生産工程におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術集(概要編)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/168482.html
[ポイントへ戻る]
耐老化性
糊状になったでん粉が時間の経過とともに、白濁、硬化、離水といった現象を起こすことを老化といい、これらの現象が少ないものを耐老化性といいます。[育成の背景および経緯へ戻る]
でん粉歩留
サツマイモの塊根の重さのうちでん粉が占める割合のことです。[新品種「こなみらい」の特徴へ戻る]
なり首としっぽ(尾部)
塊根(いも)と地下部分の茎をつなぐ部分をしょ梗と呼びます。しょ梗側のいもの端をなり首、反対側の端をしっぽ(尾部)と呼びます。[新品種「こなみらい」の特徴へ戻る]
白度
でん粉の白さを表す規格です。粉体白度計で測定した数値で、この数値が高いほど白さが強く優れることを示します。[新品種「こなみらい」の特徴へ戻る]