プレスリリース
(研究成果)(とう)(にく)(しょくの焼酎原料用サツマイモ新品種「はなあかね」

- 華やかな香りの焼酎で芋焼酎市場の活性化に期待 -

情報公開日:2025年9月30日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、橙肉色1)の焼酎原料用サツマイモ新品種「はなあかね」を育成しました。橙肉色の普及品種である「タマアカネ」に比べ、より華やかな香りの焼酎ができ、またでん粉収量が多いので製造コストの低減も期待されます。苗の生産性も向上しています。南九州のサツマイモ産地への普及を見込み、芋焼酎市場の活性化に貢献することが期待されます。

概要

新品種「はなあかね」は橙肉色の焼酎原料用品種で、橙肉色の普及品種である「タマアカネ」に比べてより華やかな香りの焼酎ができます。また、でん粉歩留2)が従来品種より高いためアルコール収量が高くなり、製造コストの低減も見込めます。「タマアカネ」の欠点であった萌芽性3)の低さも改善され、苗の生産性が向上しています。芋焼酎の各銘柄の特色は、原料とするサツマイモの品種によって大きく異なります。特に肉色が"橙"や"紫"の品種は、一般的な焼酎原料用である"黄白"の品種とは異なる、それぞれに特徴的な香り成分(特徴香4))を持ち、多様な嗜好性に応える芋焼酎の原料として使われています。芋焼酎は、癖のないマイルドな麦焼酎とは対照的にイモ独特の風味や甘味など個性の強さを特徴とする焼酎として、国内で1,000億円以上の市場規模を有しています。「はなあかね」が橙肉色サツマイモを原料とする焼酎の需要拡大および製造コストの低減に貢献することで、芋焼酎市場がさらに活性化することが期待されます。

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:第37397号(2024年4月17日出願、2024年8月6日出願公表)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 九州沖縄農業研究センター 所長澁谷 美紀
研究担当者 :
同 暖地畑作物野菜研究領域 研究員川田 ゆかり/グループ長 小林 晃
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長緒方 靖大

詳細情報

育成の背景および経緯

芋焼酎は国内で1,000億円以上の市場規模を有し、癖のないマイルドな麦焼酎とは対照的に、イモ独特の風味や甘味など個性の強さが特徴です。一方、近年フルーティーでさわやかな香りの芋焼酎など、新感覚の焼酎が注目され始めています。芋焼酎の各銘柄の特色は原料とするサツマイモの品種によって大きく異なります。特に肉色が"橙"や"紫"の品種は、一般的な焼酎原料である"黄白"の品種とは異なる、それぞれに特徴的な香り成分(特徴香)を持ち、多様な嗜好性に応える芋焼酎の原料として使われています。

2009年に育成した「タマアカネ」は橙肉色の焼酎原料用品種で、「タマアカネ」製焼酎は「コガネセンガン」を原料とする一般的な焼酎とは異なるフルーティーな香りや味わいを有し、焼酎需要の新規開拓に貢献してきました。一方で、塊根のでん粉歩留が低くアルコール収量が低いことや、萌芽性が悪く苗数の確保に課題があるなどの短所がありました。

そこで農研機構では、「タマアカネ」の短所であるでん粉歩留の低さや萌芽性の悪さを改善した橙肉色品種の育成に取り組みました。

新品種「はなあかね」の特徴

  • 多収で焼酎醸造適性に優れる「九州171号」を母、多収の「九系311」を父とする交配組み合わせから選抜されました。
  • 肉色が淡いオレンジ色のサツマイモです (図1)。
  • 「はなあかね」を原料とした焼酎は、フルーティーな香りや味わいといった、橙肉サツマイモを原料とした焼酎の特徴を示すほか (表1)、橙肉色の普及品種「タマアカネ」を原料とした焼酎に比べ、華やかな香り (花様、柑橘的、果実香、さわやか) を呈する香り成分であるリナロールをより多く含み (表2)、より華やかな香りの焼酎となります (表1)。
  • 「タマアカネ」よりもでん粉歩留が8~10ポイント程度優れ、でん粉収量は「タマアカネ」の40~80%増と、大幅に上回ります (表3)。焼酎に含まれるアルコールはでん粉から作られるため醸造時のアルコール収得量も「タマアカネ」より優れ (表4)、焼酎製造コストの低減に寄与します。
  • 萌芽性が「タマアカネ」より優れ、「コガネセンガン」並みの"中"です (表5)。
  • 巻きつる性5)があるため、育苗時には伸ばし過ぎないよう注意し、伸び過ぎてしまった場合は、つるの先端部を除き、節間の詰まった部分を移植苗として使用するようにしてください。
  • サツマイモ基腐病6)に対する抵抗性は、"やや弱"の「コガネセンガン」よりは強い"中"であるものの、"強"の「タマアカネ」より劣るため、防除対策を徹底するよう心がけてください。
図1 「はなあかね」および「タマアカネ」の塊根
表1 芋焼酎の官能検査結果
注) 宮崎県食品開発センターによる試験で、5名の焼酎官能評価経験者が点数(スコア)とコメントを付けた(山本ら 2021)。スコアは4点法で数字が小さい方が評価が高く (1: 秀; 2: 優; 3: 良; 4: 可)、表中には5名の試験官が付けたスコアの平均を記載した。コメントは上段がポジティブコメント、下段がネガティブコメントであり、カッコ内の数字は当該コメントの人数を表す。「はなあかね」製焼酎は、「タマアカネ」製焼酎と同様の"甘い"、"原料特性"、"きれい"、"旨みある"等のコメントに加え、"柑橘香"、"エステル香"、"フルーティー"といった香りの華やかさの評価が得られた。
1) "原料特性"とは、原料の持つ特性が表れていることを示す。
表2 芋焼酎(アルコール分25%(v/v))の特徴香微量成分濃度
注) 宮崎県食品開発センターによる試験 (山本ら 2021)。ND: 検出されなかったことを表す。各香気成分の香りの特徴については以下の文献を参照。神渡・瀬戸口 (2011) 生物工学会誌, 89 (12), 724-727;大口酒造 (2022) 令和4年度かんしょ品質評価研究会, https://imoshin.or.jp/wp-content/uploads/r04_3-9-2.pdf
  • 1) リナロールは、花様、柑橘的、果実香、さわやかと表現される香りを呈する。
  • 2) β-ダマセノンは、甘い、桃様、あたたかい、芳香剤と表現される香りを呈する。
  • 3) β-イオノンは橙肉色サツマイモ焼酎に特有の特徴香成分であり、スミレの花、加熱したニンジン・カボチャ、キンモクセイ、紅茶のような香りを呈する。
表3 収量性
注) 重さが50 g以上の塊根を上いもとした。標準栽培: 4月下旬~5月中旬植付、10月上~中旬収穫、生分解性黒マルチ栽培; 長期栽培: 4月中~下旬植付、11月上旬収穫、透明マルチ栽培。
表4 焼酎醸造時のアルコール収得量 (L/t)
1) 霧島酒造株式会社による試験。
2) 大口酒造株式会社による試験。
表5 萌芽性 (2018~2023年)
注) 萌芽の遅速とは、種いもを伏せこんでから萌芽するまでの日数のこと。

品種の名前の由来

華やかな香りの焼酎ができ肉色がオレンジ色であることから、「はなあかね」と命名しました。

今後の予定・期待

芋焼酎の原料となる原料用サツマイモは、そのほとんどが南九州で生産されています。「はなあかね」も、南九州における原料用サツマイモ産地への普及を見込んでいます。

「タマアカネ」と比べてより華やかな香りの焼酎ができ、でん粉歩留や萌芽性に優れる「はなあかね」が、橙肉色サツマイモを原料とする焼酎の需要拡大および製造コストの低減に貢献することで、芋焼酎市場が活性化することを期待しています。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

「はなあかね」の種苗を生産し譲渡を行う団体と利用許諾契約を締結後、原種苗を提供します。

一般の方の種苗の入手先は以下でご確認ください。
農研機構育成品種の種苗入手先リスト
https://www.naro.go.jp/collab/breed/seeds_list/index.html

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

用語の解説

肉色
サツマイモの塊根 (いも) の内部の色のこと。[ポイントへ戻る]
でん粉歩留
サツマイモの塊根の重さのうちでん粉が占める割合のこと。焼酎に含まれるアルコールはでん粉から作られるため、でん粉歩留の高さは焼酎醸造時のアルコール収量の高さに直結します。[概要へ戻る]
萌芽性
サツマイモは一般的に種いもを育苗床に伏せ込み、萌芽した苗を畑に定植して栽培します。萌芽性とは、種いもからの萌芽の早さや揃いの良さ、苗の伸長速度、萌芽数の多少を総合的に評価したものです。[概要へ戻る]
(芋焼酎の) 特徴香
焼酎を特徴づける香り成分のことで、焼酎醸造時にサツマイモに含まれる成分が化学反応を受けるなどして作られます。橙肉色品種や紫肉色品種を原料とする焼酎は、それぞれサツマイモに含まれるβ-カロテン (橙色色素) およびアントシアニン (紫色色素) に由来するものと推察される特徴的な香り成分 (それぞれβ-イオノンおよびジアセチル) を有します。[概要へ戻る]
巻きつる性
茎の先端がつる状になる性質のことです。つるの部分は節間が広くなります。サツマイモの塊根は節から伸びる根が肥大してできますが、節間が広い苗を畑に植え付けると土中に埋め込む節数が減るため、塊根数の減少につながります。[新品種「はなあかね」の特徴へ戻る]
サツマイモ基腐病
Diaporthe destruens (ディアポルテ・デストルエンス) という糸状菌 (かび) に感染することで起こる、茎葉が枯死し、塊根が腐敗する病気です。サツマイモ基腐病の対策については、技術者向けのマニュアル「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)」や生産者向けの「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書」、「かんしょ生産工程におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術集(概要編)」などがウェブ上で入手できます。
○サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 (令和4年度版)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/158250.html
○サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書
https://sop.naro.go.jp/document/detail/66
○かんしょ生産工程におけるサツマイモ基腐病発病リスク低減技術集(概要編)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/168482.html
[新品種「はなあかね」の特徴へ戻る]

発表論文等

小林ら「はなあかね」品種登録出願公表第37397号 (2024年8月6日)
山本英樹・水谷政美・祝園秀樹・福良奈津子・喜田珠光・菊池祐一郎・小林晃 (2021) 新系統甘藷の焼酎醸造適性評価: 九州200号および九州194号について. 研究報告= Report of Miyazaki Prefecture Industrial Technology Center & Miyazaki Prefectural Food & R&D Center 65: 45-50.