プレスリリース
(研究成果)世界初の低アミロース性ソバ新品種(ブランド名:もちやわそば)

- もちもち感や冷蔵保存耐性を生かした国産ソバの需要拡大に期待 -

情報公開日:2026年5月29日 (金曜日)

ポイント

農研機構は、低アミロース性1)を持つ世界初のソバ品種「FE2 iAE P2S1L」と「FE3 iAM P2S1L」(ブランド名「もちやわそば」)を育成しました。両品種は従来品種に比べてもちもち感が強く、冷蔵保存した際に硬くなりにくい(冷蔵保存耐性が強い)ため、この特性を生かした新商品の開発により、国産ソバの需要拡大が期待されます。さらに、難脱粒性2)難穂発芽性3)も併せ持ち、収量と品質の安定化に寄与します。「FE2 iAE P2S1L」は、関東以南で春まきと夏まきによる2期作4)が可能です。「FE3 iAM P2S1L」は春まきには適しませんが、夏まきでは「FE2 iAE P2S1L」より多収です。現在、種子利用許諾先での種子増殖が進んでいます。2026年7月頃に小規模から、種子や粉の先行販売が開始される見込みです。

概要

ソバの需要は近年横ばいで推移しており、製粉・食品加工実需者より、国産ソバの需要拡大につながる新たな品質を持つ品種の開発が求められています。また、国民の食生活が変わり、スーパーやコンビニエンスストアで購入した弁当や総菜を自宅や職場・学校で食べる「中食」が増えています。特に「冷たい麺」の需要は、これまでは8月以降に減少していましたが、近年は残暑の影響で10月頃まで長期化する傾向にあり、注目が高まっています。そばも弁当として広く流通していますが、冷蔵保存した際に、硬くぼそぼそした食感になりやすいため、そのようになりにくい(冷蔵保存耐性が強い)品種の開発が求められていました。本品種は、この課題の改善に加え、新たなソバ食品の開発など、ソバの需要拡大にも貢献することが期待できます。

ソバの食感にはアミロース含有率が大きく関係しており、アミロース含有率が高いと、冷蔵保存した際に硬くぼそぼそした食感になります。今回開発した「FE2 iAE P2S1L」と「FE3 iAM P2S1L」は、世界初の低アミロース性ソバ品種です。両品種は、従来品種(アミロース含有率25%前後)よりアミロース含有率が10ポイント程度低く、もちもち感と冷蔵保存耐性が向上します。実需者による冷蔵麺の評価でも、この2つの点の向上により、従来品種よりおいしさが保たれることが確認されました。また、ソバ麺の評価(打ちたて、ゆでたて)では、従来品種の方が歯切れは良いが、開発品種にはもちもちとした新しい食感のおいしさがある、とする実需者の評価を得ました。本品種の利用により新しいソバ食品の開発が期待されます。

さらに、両品種は難脱粒性と難穂発芽性も兼ね備えており、安定した生産にも寄与します。2期作を実施する場合は、春まきでは早期収穫がより重要となりますので、成熟期の早い「FE2 iAE P2S1L」のほうが「FE3 iAM P2S1L」より適性があります。「FE3 iAM P2S1L」は晩生で日長の長い時期には実をつけにくいことから、春まきには適しませんが、夏まきでは「FE2 iAE P2S1L」より多収です。

もちもちとした食感のソバ品種はこれまでになく、多くの方にその魅力を知っていただくことで、ソバの消費拡大や、ソバ栽培の振興につなげたいと考えています。そのため、ブランド名「もちやわそば」(商標取得済み)のもと、両品種の普及を進めていく予定です。

関連情報

予算:運営費交付金、平成30年度 イノベーション創出強化研究推進事業 基礎研究ステージ そば需要拡大のための「デンプン改変そば」の系統開発と評価(課題番号30002A)

品種登録出願番号:「FE2 iAE P2S1L」「第38022号」(令和7年5月7日出願、令和7年8月14日出願公表)、「FE3 iAM P2S1L」「第38023号」(令和7年5月7日出願、令和7年8月14日出願公表)、特許登録番号・出願番号:登録7835387(2021年9月2日出願)、特開2025-026331(2024年7月1日出願)、商標登録番号:(登録7032850)、種苗の増殖・販売には育成者権に基づく契約が必要となります。特許の許諾は登録状況に応じて必要となります。「もちやわそば」は農研機構の商標です。商標の使用には農研機構の許諾が必要です。

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 九州沖縄農業研究センター 所長 兼松 聡子
研究担当者 :
同 暖地水田輪作研究領域 大豆・資源作物育種グループ長鈴木 達郎
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長緒方 靖大

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

ソバ食品の物性を変化させることは、国産ソバの需要拡大を図るうえで重要な解決策の一つです。現在のソバ品種のデンプン特性は、コメに例えると「ウルチ米」に相当します。この特性は、ソバの歯切れの良い食感を支える要素であり、江戸時代から350年以上続くソバ麺の文化を支える重要な特性です。しかしその反面、冷蔵保存時にぼそぼそした食感になりやすく、近年増加する中食需要に応えきれないこと、もちもち感が少なく新しい食品開発の幅が限られていることが、そばの需要を拡大するうえで課題となっています。こうした課題を解決するためには、冷蔵保存耐性を向上させることやもちもち感を増加させることが必要であり、その有効な手段の一つがデンプン中のアミロース含有率を低下させることです。

アミロース含有率を低下させるためには、顆粒結合性デンプン合成酵素(GBSS)5)の働きを弱める品種開発が必要です。ソバではGBSSa、GBSSbの2種類の酵素が働いており、いずれかが欠損すると低アミロース性となることがわかっています。

新品種「FE2 iAE P2S1L」と「FE3 iAM P2S1L」は、GBSSaを欠損しており、従来品種(「NARO-FE-1」、「常陸秋そば」)よりアミロース含有率が低下します(表1)。食品加工実需者における冷蔵麺の評価では、冷蔵保存耐性が向上し、ぼそぼそした食感になりにくく従来品種よりおいしさが保たれることが確認されました。また、もちもち感が向上することから(表2)、新しいソバ食品の開発が期待されます。

加えて、両品種はソバの安定生産に重要な難脱粒性と難穂発芽性を併せ持つことも特徴です。主要品種と比べて子実のひっぱり強度6)が約2倍高く、脱粒しにくい性質があります(表3)。また、穂発芽もしにくく、品質の安定化に寄与します(表3)。2期作を実施する際の重要ポイントの一つは、収穫時期が梅雨と重なりやすい春まきにおいて、できるだけ早い時期に収穫することです。その点から、成熟期の早い「FE2 iAE P2S1L」のほうが「FE3 iAM P2S1L」より2期作に適性があります(普及見込み地域の一つである栃木県において4日早い)。「FE3 iAM P2S1L」は晩生のため春まきには適しませんが、夏まきでは「FE2 iAE P2S1L」より多収です。

これら新品種の普及により、ソバの新たな需要を創出し、新産地の形成に貢献することが期待されます。

新品種「FE2 iAE P2S1L」,「FE3 iAM P2S1L」の特徴

【交配組合せ】

  • 「FE2 iAE P2S1L」:難脱粒性・難穂発芽性の「九系42」と、低アミロース性の「19Fo_GBSSadel」を交配し、比較的早生の系統を選抜することで育成しました。
  • 「FE3 iAM P2S1L」:難脱粒性・難穂発芽性の「九系46」と、低アミロース性の「19Fo_GBSSadel」を交配し、やや晩生の系統を選抜することで育成しました。

【主な特徴】

  • 「FE2 iAE P2S1L」と「FE3 iAM P2S1L」は、主要品種(「常陸秋そば」、「信濃1号」、「さちいずみ」、「鹿屋在来」)と比べてアミロース含有率が10ポイント程度低く(表1)、食品のもちもち感が向上します(表2)。
  • 両品種は難脱粒性を有し、主要品種と比べてひっぱり強度が約2倍高く、自然脱粒が少なくなります(表3)。
  • 「FE2 iAE P2S1L」は難穂発芽性が強いため、収穫時期が梅雨と重なる春まき栽培で問題となる穂発芽の発生を抑制できます(表3)。
  • 「FE2 iAE P2S1L」は関東以南の栽培地域で、春まき・夏まきによる2期作が可能です。一方、「FE3 iAM P2S1L」は春まきには適しませんが、夏まきでは「FE2 iAE P2S1L」より収量性が高くなります(表3、4)。
    【その他の特徴】
    写真2 夏まき栽培での「FE2 iAE P2S1L」(右から2番目)、「FE3 iAM P2S1L」(一番右) の成熟期の株の写真
    2023年11月20日に育成地・熊本県合志市にて撮影。左から「常陸秋そば」(夏まき標準品種)、「はるかみどり」、「NARO-FE-1」(春まき標準品種)、「FE2 iAE P2S1L」、「FE3 iAM P2S1L」

    【栽培、加工・販売上の注意】

    • 他のソバ品種等の花粉を受粉すると低アミロース性が発揮されないため、栽培の際は他品種と隔離するとともに、野良生えの混入を防ぐ必要があります。
    • 脱粒しにくい品種ですが、刈り遅れると脱粒による収量低下リスクが高まるため、適期での収穫に努める必要があります。
    • 穂発芽しにくい特徴を持ちますが、春まき栽培で刈り遅れると穂発芽のリスクが増すため、適期での収穫に努める必要があります。
    • 春まき栽培で収穫した種子を、直後の夏まき栽培に使用すると発芽率が低いことがあるため、別途種子を準備してください。
    • 本品種の利用や加工・販売には特許の許諾が必要です。また、ブランド名の使用には商標の許諾が必要となります。

      品種の名前の由来

      品種名でブランド化した場合、後続品種への置き換え(ブランドの変更)が困難となります。そのため、農林水産省が推進する「知財ミックス戦略」では、品種名だけでなくブランド名も活用して普及することが提案されています。本育成品種は世界初の低アミロース性ソバであることから、品種名ではなく、もちもち感を生かしたブランド名「もちやわそば」を用いて普及することで、国産ソバ需要拡大のきっかけにしたいと考えています。そのため、両品種はあえてブランド化しにくい「記号・番号を用いた品種名」としました。

      今後の予定・期待

      栃木県などのソバ産地ですでに栽培が始まっています。今後は関東以南の地域での普及が見込まれており、需要拡大を求める実需者の要望に応えることで、国産ソバの振興に貢献していきたいと考えています。

      原種苗入手先に関するお問い合わせ

      農研機構九州沖縄農業研究センター メールフォームでのお問い合わせ
      https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/inquiry/index.html

      品種利用許諾契約、特許実施許諾契約、商標実施許諾契約に関するお問い合わせ

      下記のメールフォームでお問い合わせください。
      農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
      https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu

      なお、品種の利用については以下もご参照ください。
      農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
      https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

      用語の解説

      低アミロース性
      イネの場合、世界的には在来品種でアミロース含有率に0-30%程度の変異があり、ウルチ性品種群で10-30%程度、モチ性品種群で0-7%程度とされています。モチ性とウルチ性の中間の性質を「低アミロース性」といいます。低アミロース性品種は、もちもち感を生かしブランド化されることが多いです。従来のソバの品種のアミロース含有率はおおむね25%前後とされています。[ポイントへ戻る]
      難脱粒性
      収穫時に子実が脱落しにくい性質を指します。ソバでは、子実と植物体をつなぐ細いヒモのような部分(小果柄(しょうかへい))が切れやすく、特に刈り遅れや強風時に脱粒が問題となります。新品種「FE2 iAE P2S1L」、「FE3 iAM P2S1L」、および2025年8月にプレスリリースされた「はるかみどり」は、花弁が萼(がく)に変化する「グリーンフラワー」と呼ばれる突然変異により、小果柄が太くなり、ひっぱり強度が約2倍高くなります。 [ポイントへ戻る]
      難穂発芽性
      収穫前に種子が穂についたまま発芽する「穂発芽」を軽減する性質です。ソバでは、成熟期以降に高温・多雨が重なると発生しやすく、時間が経つほどリスクが高まります。発芽した種子は乾燥・調製工程で一定程度除去されますが、製品に混入すると麺が切れやすくなるため問題となります。なお、ソバに「穂」はありませんが、イネ科作物で使われる用語にならい便宜的に「穂発芽」と呼んでいます。[ポイントへ戻る]
      2期作
      本州以南では「春まき栽培」(夏ソバ)と「夏まき栽培」(秋ソバ)の2期作を行う地域があります。春まきには夏型~中間夏型(早生)の品種が、夏まきには中間夏型~中間秋型(中生)の品種が適します。夏まき用の品種を春まき栽培すると、主に日長の影響により草丈が伸び、花は咲いても結実しにくい、あるいはほとんど結実しません。逆に春まき用の品種を夏まき栽培すると、十分に生長する前に開花・結実してしまい、収量が低下します。そのため、同一品種で2期作を行うには、両作型で適切な時期に結実して安定した収量を確保するための育種選抜が必要です。[ポイントへ戻る]
      顆粒結合性デンプン合成酵素(GBSS)
      アミロースは顆粒結合性デンプン合成酵素 (Granule Bound Starch Synthase:GBSS)によって合成されます。GBSSの働きが弱まるとアミロースの含有率が減少し、その分アミロペクチンが増加します。アミロペクチンはアミロースと比較しもちもちする性質があるため、結果として食品のもちもち感も増加します。[開発の社会的背景と研究の経緯へ戻る]
      ひっぱり強度
      種子の脱粒しやすさを評価する指標で、子実と植物体をつなぐ小果柄が切れるまでに必要な荷重を計測します。一般に、イネでは約150g、ソバでは約40gとされ、数値が高いほど脱粒しにくいことを意味します。[開発の社会的背景と研究の経緯へ戻る]

      研究担当者の声

      九州沖縄農業研究センター 暖地水田輪作研究領域
      大豆・資源作物育種グループ長 鈴木 達郎

      開発途中では思うような成果が得られない場面や予算難で中止寸前となった時期もありましたが、国産ソバ実需等の皆様のご期待・ご協力をいただき品種を育成することができました。

      <参考情報>
      • 品種名の構成は以下のとおりです。
      • ・FE:ソバの学名(Fagopyrum esculentum)の頭文字
      • ・FEの後ろの数字:農研機構における出願順(知財ミックス戦略を想定)
      • ・スペースの後ろの3文字:生態型
      • iA=中間秋型(intermediate Autumn Type)
      • E=早生(Early)
      • M=中生(Middle)
      • ・スペースの後部:特性を示す
      • P=難穂発芽性(Preharvest sprouting resistance)
      • S=難脱粒性(Shattering resistance)
      • L=低アミロース性(Low-amylose)
      • 数字はクラス(大きいほど強い)、例:P2S1=難穂発芽性クラス2,難脱粒性クラス1
      • ∗現状ではP2,S1が最も強いクラスとなります。