開発の社会的背景
アスファルトは、道路舗装や建築用防水材などに広く使用されている重要なインフラ材料です。高い耐水性や熱可塑性3)を持つ一方で、その原料は原油精製の残渣であり、資源の枯渇や環境負荷の観点から、再利用技術の重要性が高まっています。
近年、劣化したアスファルト舗装(図1)を再生・再利用する取り組みが進んでおり、温室効果ガス排出量やエネルギーコストの低減、資源利用の効率化が期待されています。しかし、現在主流の再生方法では、劣化によって失われた成分を石油由来のオイルで補う必要があり、持続性という観点では限界があります。また、アスファルトは再生を繰り返すことで物性が徐々に低下するため、より持続可能な材料と新しいメカニズムに基づく再生技術の開発が求められています。
図1 劣化によりひび割れが生じたアスファルト舗装道路
研究の経緯
農研機構は、これまで、でんぷんと脂肪酸を原料として製造したC-AGについて、アスファルト改質剤4)としての利用開発を進めてきました(図2)。その過程で、C-AGがアスファルト中の成分と強く相互作用し、内部で自発的に繊維状の構造をつくるという特徴を持つことが明らかになりました。このような特性から、C-AGは物性を調整する改質剤としてだけでなく、劣化によって変化したアスファルトの内部構造を再編成し、再生に利用できるのではないかと考えました。そこで本研究では、加熱により劣化を促進したアスファルトにC-AGを添加し、その再生効果を検証しました。
図2 でんぷんと脂肪酸を原料として製造したC-AG
研究の内容・意義
本研究では、C-AGを添加した劣化アスファルトについて、その内部構造および力学特性を評価しました。
原子間力顕微鏡5)による観察から、未劣化アスファルトでは、表面に凹凸のある比較的硬い部分と、それを取り囲む平たんな部分があることがわかります。一方、劣化が進むと硬い部分が増え、表面全体が凹凸の多い構造になります。これに対して、C-AGを添加した劣化アスファルトでは、未劣化アスファルトや劣化アスファルト単独では見られない繊維状の構造体がアスファルト内部に分散して形成されていることが確認されました(図3)。
図3 (1)未劣化アスファルト、(2)劣化アスファルト および (3)C-AG添加劣化アスファルトの
原子間力顕微鏡像
※劣化アスファルトは80°Cで60~180日加熱したものを使用
また、C-AGを添加した劣化アスファルトは、通常は割れやすい劣化アスファルトとは対照的に、曲げ試験において未劣化のアスファルトと同様に割れずに曲がり、柔軟性が回復していることが示されました(図4、動画を配信予定)。
さらに、動的粘弾性測定6)の結果から、C-AGを添加した劣化アスファルトは、劣化アスファルトに比べて剛性が低下し、未劣化状態に近い力学特性を示すことが明らかになりました。
以上の結果から、C-AGの添加によって、劣化したアスファルトの内部微細構造が変化し、未劣化状態に近い性状へと再生されることを確認しました。本研究は、従来の成分補填型とは異なるメカニズムに基づく、新しいアスファルト再生技術を示すものです。
図4 各アスファルト片をピンセットで曲げたときの様子
(1) 未劣化アスファルト(曲がる)、(2)劣化アスファルト(折れる)、(3) 劣化アスファルトに C-AGを添加(曲がる)
※劣化アスファルトは80°Cで60~180日加熱したものを使用
今後の予定・期待
本研究により、C-AGの添加によって、加熱劣化したアスファルトの力学特性が未劣化状態に近づくことを確認しました。
今後は、紫外線による劣化アスファルトに対する再生効果の検証や、ライフサイクルアセスメント7)による環境負荷の定量的評価、C-AGの工業的な製造技術の確立が課題となります。再生可能資源由来のC-AGを活用した本技術は、アスファルトの再生利用を高度化し、環境負荷の低減とインフラの持続可能性の両立に貢献する技術としての展開が期待されます。
用語の解説
- GX(グリーントランスフォーメーション)
- カーボンニュートラルを軸とした経済・産業・社会構造の転換。
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- C-AG
- でんぷん由来の糖質(1,5-アンヒドロ-D-グルシトール)と脂肪酸を原料とし、脱水縮合反応によって合成される無水ソルビトール脂肪酸エステル。本研究では、アスファルトの再生材料として用いた。
[概要へ戻る]
- 熱可塑性
- 熱を加えるとやわらかくなり、冷えると硬くなる性質。
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- アスファルト改質剤
- アスファルトに添加することで、強度や耐久性などの性質を改善する材料。
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- 原子間力顕微鏡
- ナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)レベルで材料表面の微細な構造や硬さの違いを観察できる顕微鏡。
[研究の内容・意義へ戻る]
- 動的粘弾性測定
- 材料を繰り返し変形させながら、粘性と弾性の性質を評価する方法。
[研究の内容・意義へ戻る]
- ライフサイクルアセスメント
- 製品やサービスが環境に与える影響を、原材料の採取から廃棄・リサイクルまでの全過程で評価する手法。
[今後の予定・期待へ戻る]
発表論文
Rika Iwaura, Kohei Hosokawa, Hideki Kanezako, Reiko Shimane "Rejuvenation of asphalt subjected to thermally accelerated aging with an asphalt-miscible self-assembling starch-based fatty acid ester" ACS Sustainable Resource Management, 2026, 3, 3, 748-755.