プレスリリース
(研究成果) 再生可能資源由来の新素材で劣化アスファルトを再生

- GX時代のインフラを支える次世代アスファルト再生技術 -

情報公開日:2026年6月 3日 (水曜日)

農研機
七王工業株式会社

ポイント

農研機構と七王工業株式会社は、再生可能資源由来の糖質と脂肪酸を原料とした新素材C-AGを用いて、劣化したアスファルトの性能を回復する新しい再生技術を開発しました。
本技術は、従来の石油由来オイルによる「成分補填型」の再生とは異なり、アスファルト内部の微細構造を変化させて柔軟性を回復させる点が特長です。バイオ技術と材料化学を融合した本研究成果は、環境負荷の低減と資源循環を実現し、GX(グリーントランスフォーメーション)1)時代の持続可能なインフラ再生に貢献することが期待されます。

概要

アスファルトは、道路舗装や建築用防水材などに広く使用されている重要なインフラ材料であり、国内では使用済みアスファルトの99%以上がリサイクルされています。しかし、使用や再生を重ね、長期にわたり供用されたアスファルトは、熱や紫外線などの影響により劣化が進み、硬くもろくなります。そのため、従来の再生技術では品質回復に限界があることが課題となっています。

C-AG2)は、でんぷんなどの糖質と脂肪酸を原料に、バイオ技術と材料化学を組み合わせて合成した新素材です。農研機構ではこれまでに、C-AGがアスファルト改質剤として、流動性や耐久性などの物性を制御できることを明らかにしてきました(2022年プレスリリース https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nfri/153477.html)。

本研究では、C-AGを劣化したアスファルトに添加することで、従来の石油由来オイルによる成分補填とは異なる再生効果が得られることを見出しました。C-AGはアスファルト内部で繊維状構造を形成し、微細構造そのものを変化させることで柔軟性を回復させます。この結果、劣化したアスファルトを未劣化状態に近い性状へ再生できることを示しました。

本成果は、アメリカ化学会のACS Sustainable Resource Management誌に2026年2月20日にオンライン公開されました。今後は、社会実装を目指し、さらなる研究を進めていきます。

■ 動画
未劣化アスファルト片、劣化アスファルト片、劣化アスファルトにC-AGを添加したものをピンセットで曲げたときの様子

※劣化アスファルトは80°Cで60~180日加熱したものを使用

https://youtu.be/G6udFG_5y0w

関連情報

予算 : 交付金、資金提供型共同研究
特許 : 特許第7701057号

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 食品研究部門 所長榊原 祥清
七王工業株式会社 代表取締役熊谷 和浩
研究担当者 :
農研機構 食品研究部門 微生物・素材研究領域
上級研究員岩浦 里愛
七王工業株式会社 取締役 技術・製造部門担当
兼 技術部長金泥 秀紀
技術部 研究開発課長細川 晃平
技術部 新技術開発担当木下 満帆
広報担当者 :
農研機構 食品研究部門 研究推進室
渉外チーム長亀谷 宏美

詳細情報

開発の社会的背景

アスファルトは、道路舗装や建築用防水材などに広く使用されている重要なインフラ材料です。高い耐水性や熱可塑性3)を持つ一方で、その原料は原油精製の残渣であり、資源の枯渇や環境負荷の観点から、再利用技術の重要性が高まっています。

近年、劣化したアスファルト舗装(図1)を再生・再利用する取り組みが進んでおり、温室効果ガス排出量やエネルギーコストの低減、資源利用の効率化が期待されています。しかし、現在主流の再生方法では、劣化によって失われた成分を石油由来のオイルで補う必要があり、持続性という観点では限界があります。また、アスファルトは再生を繰り返すことで物性が徐々に低下するため、より持続可能な材料と新しいメカニズムに基づく再生技術の開発が求められています。

図1 劣化によりひび割れが生じたアスファルト舗装道路

研究の経緯

農研機構は、これまで、でんぷんと脂肪酸を原料として製造したC-AGについて、アスファルト改質剤4)としての利用開発を進めてきました(図2)。その過程で、C-AGがアスファルト中の成分と強く相互作用し、内部で自発的に繊維状の構造をつくるという特徴を持つことが明らかになりました。このような特性から、C-AGは物性を調整する改質剤としてだけでなく、劣化によって変化したアスファルトの内部構造を再編成し、再生に利用できるのではないかと考えました。そこで本研究では、加熱により劣化を促進したアスファルトにC-AGを添加し、その再生効果を検証しました。

図2 でんぷんと脂肪酸を原料として製造したC-AG

研究の内容・意義

本研究では、C-AGを添加した劣化アスファルトについて、その内部構造および力学特性を評価しました。

原子間力顕微鏡5)による観察から、未劣化アスファルトでは、表面に凹凸のある比較的硬い部分と、それを取り囲む平たんな部分があることがわかります。一方、劣化が進むと硬い部分が増え、表面全体が凹凸の多い構造になります。これに対して、C-AGを添加した劣化アスファルトでは、未劣化アスファルトや劣化アスファルト単独では見られない繊維状の構造体がアスファルト内部に分散して形成されていることが確認されました(図3)。

図3 (1)未劣化アスファルト、(2)劣化アスファルト および (3)C-AG添加劣化アスファルトの
原子間力顕微鏡像

※劣化アスファルトは80°Cで60~180日加熱したものを使用

また、C-AGを添加した劣化アスファルトは、通常は割れやすい劣化アスファルトとは対照的に、曲げ試験において未劣化のアスファルトと同様に割れずに曲がり、柔軟性が回復していることが示されました(図4動画を配信予定)。

さらに、動的粘弾性測定6)の結果から、C-AGを添加した劣化アスファルトは、劣化アスファルトに比べて剛性が低下し、未劣化状態に近い力学特性を示すことが明らかになりました。

以上の結果から、C-AGの添加によって、劣化したアスファルトの内部微細構造が変化し、未劣化状態に近い性状へと再生されることを確認しました。本研究は、従来の成分補填型とは異なるメカニズムに基づく、新しいアスファルト再生技術を示すものです。

図4 各アスファルト片をピンセットで曲げたときの様子
(1) 未劣化アスファルト(曲がる)、(2)劣化アスファルト(折れる)、(3) 劣化アスファルトに C-AGを添加(曲がる)
※劣化アスファルトは80°Cで60~180日加熱したものを使用

今後の予定・期待

本研究により、C-AGの添加によって、加熱劣化したアスファルトの力学特性が未劣化状態に近づくことを確認しました。

今後は、紫外線による劣化アスファルトに対する再生効果の検証や、ライフサイクルアセスメント7)による環境負荷の定量的評価、C-AGの工業的な製造技術の確立が課題となります。再生可能資源由来のC-AGを活用した本技術は、アスファルトの再生利用を高度化し、環境負荷の低減とインフラの持続可能性の両立に貢献する技術としての展開が期待されます。

用語の解説

GX(グリーントランスフォーメーション)
カーボンニュートラルを軸とした経済・産業・社会構造の転換。 [ポイントへ戻る]
C-AG
でんぷん由来の糖質(1,5-アンヒドロ-D-グルシトール)と脂肪酸を原料とし、脱水縮合反応によって合成される無水ソルビトール脂肪酸エステル。本研究では、アスファルトの再生材料として用いた。 [概要へ戻る]
熱可塑性
熱を加えるとやわらかくなり、冷えると硬くなる性質。 [開発の社会的背景へ戻る]
アスファルト改質剤
アスファルトに添加することで、強度や耐久性などの性質を改善する材料。 [研究の経緯へ戻る]
原子間力顕微鏡
ナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)レベルで材料表面の微細な構造や硬さの違いを観察できる顕微鏡。 [研究の内容・意義へ戻る]
動的粘弾性測定
材料を繰り返し変形させながら、粘性と弾性の性質を評価する方法。 [研究の内容・意義へ戻る]
ライフサイクルアセスメント
製品やサービスが環境に与える影響を、原材料の採取から廃棄・リサイクルまでの全過程で評価する手法。 [今後の予定・期待へ戻る]

発表論文

Rika Iwaura, Kohei Hosokawa, Hideki Kanezako, Reiko Shimane "Rejuvenation of asphalt subjected to thermally accelerated aging with an asphalt-miscible self-assembling starch-based fatty acid ester" ACS Sustainable Resource Management, 2026, 3, 3, 748-755.