プレスリリース
(お知らせ) 改定Vitrigel®-EIT法がOECDテストガイドラインに収載
- 液体物質のみならず固体物質にも適用可能な眼刺激性試験法 -
農研機構
国立医薬品食品衛生研究所
関東化学株式会社
ポイント
化粧品原料等が眼に及ぼす影響を評価するためのVitrigel®-EIT法1)の改定版が、経済協力開発機構(OECD)の定めた統一的な試験法に収載されました。今回の改定では、検査する物質を溶解した液(被験物質調製液)の状態を調べる予試験を実施することで、液体物質のみならず固体物質にも適用可能となりました。今後、実験動物を用いない簡便かつ迅速な試験法として、より安全性の高い化粧品等の原料開発に活用されると期待されます。
概要
農研機構(理事長:久間 和生)が国立医薬品食品衛生研究所(所長:合田 幸広、以下「国立衛研」)および関東化学株式会社(代表取締役社長:野澤 学)と共同で開発した、動物を使用せずに被験物質の眼に対する刺激性を判定する試験法「Vitrigel®-Eye Irritancy Test (Vitrgel®-EIT)法」について、適用範囲を拡大した改定試験法が2021年6月14日にOECDテストガイドライン2)に収載されました。
化粧品や医薬品等を開発する際には、原料のヒトに対する安全性を確認する必要があります。このような「安全性試験」の多くは実験動物を用いて実施されてきましたが、近年は実験動物の代わりにヒト細胞等を利用する動物実験代替法が世界的に推進されています。特に、化粧品の原料には粉末顔料やロウ類など多くの固体物質がありますが、細胞生存率を指標とした過去の試験法では1日以上かけて試験を実施する必要がありました。
2019年にOECDテストガイドラインに収載されたVitrigel®-EIT法では、固体物質と2.5(w/v)%となるように培養液と混合した被験物質調製液のpHが5以下の液体物質は適用範囲から除外されていました。その後、成分が分離しやすい被験物質調製液は偽判定を招く傾向にあることが分かってきたため、眼刺激性の本試験を行う前に、被験物質調製液の溶状を分光光度計で判定する予試験を考案しました。今回、この予試験によって被験物質調製液が相分離しにくいと判定された物質は、液体物質のみならず固体物質でも眼刺激性を正確に予測できることを実証することで、Vitrigel®-EIT法の改定に成功しました。今後、国内外で安全性の高い化粧品等の原料開発に活用されると期待されます。
関連情報
予算:農林水産省「アグリ・ヘルス実用化促進プロジェクト(医薬品作物、医療用素材等の開発)」(No.6320)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(医薬品等規制調和・評価研究事業/医薬品等の安全性評価に関するin vitro 試験(代替法)の開発、国際標準化及び普及促進に関する研究
特許:特許第5892611号、特許第5933223号
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 生物機能利用研究部門 所長吉永 優
関東化学株式会社 取締役上席執行役員 技術・開発本部長加藤 勝
研究担当者 :
農研機構 生物機能利用研究部門 生物素材開発研究領域竹澤 俊明
国立衛研 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部小島 肇
関東化学株式会社 技術・開発本部 技術・開発部山口 宏之
広報担当者 :
農研機構 生物機能利用研究部門 研究推進部古澤 軌
関東化学株式会社 技術・開発本部 技術・開発部山口 宏之
詳細情報
用語の解説
- Vitrigel®-Eye Irritancy Test (Vitrigel®-EIT)法
- 化学物質が眼に付着した際、眼に及ぼす傷害の有無およびその重篤さを評価するための試験法です。具体的には、まず、コラーゲンビトリゲル膜3)をヒトの角膜上皮細胞の足場として用いて6日間培養することで、ヒトの角膜上皮組織に酷似した約6層の細胞層と上皮バリア機能を有する培養モデルを作製します。次に、被験物質を2.5(w/v)%となるように培養液と混合した被験物質調製液を作製します(図1A)。この被験物質調製液についてpH、および、混合直後と3分後の660nmにおける吸光度(A660)を測定して、pHが5を超え、かつ、混合直後と3分後のA660の差が0.1以内である被験物質調製液を選択する予試験を実施します(図1B)。続いて、予試験により選択した被験物質調製液を培養モデルに添加した後、培養モデルの電気抵抗値の変化を3分間測定することで、眼に対する刺激性の有無を判定します。[ポイントへ戻る]
- OECDテストガイドライン
- 化学物質やその混合物の物理化学的性質、生態系への影響、生物分解及び生物濃縮、ならびにヒト健康影響などに関する知見を得るため、経済協力開発機構(OECD)により国際的に合意された試験方法です。日本の化学物質審査規制法や欧州の化学物質の登録、評価、認可及び制限(REACH)など各国の化学物質を管理する法令は、原則としてOECDテストガイドラインの試験法に基づいて規定されています。[概要へ戻る]
- コラーゲンビトリゲル®
- 生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維網で構成される新素材です。コラーゲンビトリゲルは、低密度コラーゲン線維網で構成される従来のコラーゲンゲルを低温で十分に乾燥してガラス状の硬く透明な乾燥体とした後、再水和することで作製できます。コラーゲンビトリゲル膜は、透明性のみならず強度や高分子タンパク質の透過性にも優れています。そのため、細胞の培養、あるいは薬剤の徐放などに活用できます。このような特徴から、再生医療、創薬あるいは動物実験代替法の分野での実用化が期待されています。 なお、ビトリゲルは従来のハイドロゲルをガラス化した後に、再水和して得られる安定した状態にあるゲルのことです。農研機構は、用語「ビトリゲル」「Vitrigel」を商標登録しています(第5602094号)。[用語の解説へ戻る]
参考情報
参考図