プレスリリース
(研究成果) ゲノム編集で長持ちメロン誕生

- 廃棄リスクの低減と海外輸出にも期待 -

情報公開日:2026年1月16日 (金曜日)

農研機
筑波大
サナテックライフサイエンス株式会社

ポイント

メロンは収穫後に急速に熟すため、日持ちが短く、食品廃棄の要因となるほか、長距離輸送や海外輸出には不向きとされてきました。農研機構は、筑波大学およびサナテックライフサイエンス株式会社と共同で、農研機構等が開発した独自のゲノム編集技術「in planta Particle Bombardment(iPB)法1)」をメロンに適用し、果実の熟成に関わる遺伝子を不活化することで、日持ち性が良く、食べ頃を調整できるマスクメロンの作出に成功しました。本成果により、国内の遠隔地への流通や海上輸送による海外への低コスト輸出が可能となり、メロンの国内消費の増加や海外展開の活性化につながることが期待されます。

概要

近年、日本国内におけるメロンの生産量は減少傾向にあります。担い手や労働力の不足に加え、栽培の難しさや市場価格の不安定さが背景にあり、作付面積・出荷量ともに縮小しています。こうした状況の中で、メロン産業の持続的な発展を目指すには、省力化や安定生産に貢献する技術革新と、生産者、流通業者、消費者にとって価値のある新品種の開発が求められています。特に「日持ちの良さ」は、食品廃棄リスクの低減や流通コストの削減、価格の安定に直結する重要な育種目標の一つといえます。

農研機構、筑波大学、サナテックライフサイエンス株式会社からなる研究チームは、メロンの日持ち性向上を目指すにあたり、メロンの果実の熟成(追熟)に関わる「CmACO1」という遺伝子に着目しました。CmACO1エチレン2)という植物ホルモンを合成する酵素の遺伝子です。メロン果実は収穫後にエチレンを自ら放出し、それによって軟らかく甘くなりますが、適期を過ぎると傷みも進みます。CmACO1遺伝子をゲノム編集により不活化することで、エチレンが作られなくなり、「追熟が遅く、日持ちするメロン」ができると考えました。これまで、農研機構と株式会社カネカが共同開発した独自のゲノム編集技術「in planta Particle Bombardment(iPB)法」をメロンに適用することで、CmACO1遺伝子が不活化した植物体が得られ、期待通りエチレンの放出がほとんど見られないことがわかっていました(2023年 研究活動報告 https://www.naro.go.jp/project/research_activities/laboratory/nias/158244.html)。今回、iPB法によりゲノム編集されたメロンを作出し、日持ち性の評価を行ったところ、収穫後1ヶ月以上経っても果皮は緑色で、果肉も固いままでした(図1)。さらに、このゲノム編集メロンをエチレンにさらすことで、通常通り熟して食べ頃になることが確認できました。収穫後7日目に高濃度のエチレンを24時間処理したところ、処理終了後3日目には果肉が軟らかくなり、また果肉のみずみずしさも増して、通常の完熟メロンとほぼ同等の状態に達しました(図2)。これにより、必要なときに追熟を行う"オンデマンド型"の流通が可能となり、廃棄リスクの低減や輸出の拡大にも大きなメリットが期待されます。なお、このエチレンによる追熟法は輸入バナナでは一般的に用いられています。

本成果は、生産者にとっては収穫のタイミングを柔軟に決められる、流通業者にとっては収穫後の鮮度保持や輸送に関わるコストを削減できる、消費者にとっては旬の時期にしか味わえなかった果物をより長い期間楽しめる等のメリットがあり、メロンの国内需要の拡大や輸出促進に向けた大きな一歩といえます。今後、関係省庁への届出や品種登録を行い、3年後を目処に市場への投入を目指します。

図1高日持ち性メロンは収穫後1ヶ月以上長持ちする 元品種 (上段)は20°Cで40日間保存すると食べ頃を過ぎて傷みが進みますが、ゲノム編集メロン(下段)では果皮は緑色を保ち、果肉も固いままです。
図2ゲノム編集メロンはエチレン処理により追熟させ、食べ頃にすることが可能 ゲノム編集メロンにエチレンを処理することで、果実が軟らかくなり、果汁の量も熟した元品種とほぼ同等になることがわかりました。

関連情報

  • 特許 :
    「植物のゲノム編集方法」特許第7236121号、特許第7321477号
    「ゲノム編集方法」特許第7416383号、特許第7416384号
    「形質転換植物の作成方法」特許第6967217号
  • 予算 :
    戦略的イノベーション創造プログラム(SIP2)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」
    「バイオ産業・農業に貢献する精密ゲノム編集基盤技術の開発」
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構生物機能利用研究部門 所長立石 剣
研究担当者 :
農研機構生物機能利用研究部門
上級研究員佐々木 健太郎
任期付研究員浦野 薫
エグゼクティブリサーチャー今井 亮三
広報担当者 :
農研機構 生物機能利用研究部門 研究推進室
遠藤 真咲
メールフォーム
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/press
筑波大学 広報局
TEL 029-853-2040
E-mail kohositu@un.tsukuba.ac.jp
サナテックライフサイエンス株式会社 管理部
E-mail info@sls.sanatech-seed.co.jp

詳細情報

開発の社会的背景

メロンは、糖度が高く、果汁が豊富で芳醇な香りを持つことから、我が国において非常に人気の高い果物です。その高級感ある見た目と風味は「贈答文化」と深く結びついており、特に高級メロンはお中元やお歳暮などの贈り物として重宝されてきました。しかし近年、国内における1人当たりの年間購入量は過去7年間で約30%減少するなど、消費の低迷が続いています。一方で、香港やシンガポールを中心とした海外市場が拡大しており、最近ではアメリカへの輸出も解禁されるなど、国産メロンの海外展開が注目を集めています。メロンは収穫後、一定期間の追熟を経て食べ頃を迎えますが、適期を過ぎると急速に商品価値が低下するため、時間のかかる遠隔地への海上輸送は不向きでした。また、空輸は海上輸送よりコストがかかります。こうした背景を踏まえ、今後、国産メロンの市場拡大を目指すには、日持ち性に優れた品種開発が重要な鍵となります(図3)。

図3本研究のねらい 本研究で開発した食べ頃を調整できるメロンは長距離輸送に適しており、国産の高品質メロンの輸出拡大への貢献が期待されます。

研究の経緯

高日持ち性メロンの開発に向けて、共同研究グループは、果実の追熟を促進する植物ホルモンであるエチレンの合成を止めることが鍵であると考えました。エチレンは、アミノ酸の一種であるメチオニンから3段階の反応を経て生成されますが、その最後の反応には、ACC酸化酵素(ACO)と呼ばれる酵素が働くことが知られています。メロンは5個のACO遺伝子(CmACO1CmACO5)を持っており、その中で果実の追熟に関わる主要な遺伝子はCmACO1であることが分かっていました。そこで、CmACO1遺伝子を不活化することで、果実でのエチレンの生成を抑制できると考えました(図4)。

農研機構は、株式会社カネカと共同で確立した高効率なゲノム編集技術「in planta Particle Bombardment(iPB)法」を保有しています。そこで、この技術を用いてCmACO1遺伝子を不活化することにしました。

図4CmACO1遺伝子の不活化によるメロン果実におけるエチレンの発生抑制

研究の内容・意義

iPB法によるCmACO1遺伝子の不活化

高級マスクメロンの標準品種「アールスフェボリット春系3号」の発芽した種子から茎頂(芽の先端)を露出させた後、パーティクルガン3)を用いて、タンパク質とRNAからなるゲノム編集酵素CRISPR/Cas94)を導入しました(図5①)。茎頂の細胞では、導入された酵素の働きでCmACO1遺伝子に変異が生じます。その後、CRISPR/Cas9を撃ち込んだ芽から育てた植物の葉からDNAを抽出し、PCR法によってCmACO1遺伝子が不活化される変異を検出し、その個体を選抜しました(図5② 一次選抜)。期待する変異が検出された植物についてはさらに生育を進め、人工授粉を経て種子を取得しました(図5③)。種子から育てた次世代植物を解析し、親と同じ変異を持つ個体の選抜を行いました(図5④ 二次選抜)。最終的に変異系統を3系統獲得しました(図5⑤)。

図5iPB法を用いたゲノム編集マスクメロンの作出

CmACO1遺伝子を不活化したメロンの日持ち性評価

CmACO1遺伝子を不活化した系統では収穫後の果実でエチレンがほとんど作られないため、追熟は大幅に遅延し、これまでにない高日持ち性を獲得していました。収穫後1ヶ月以上経って元品種が腐ってしまう状況でも、ゲノム編集したメロンの果皮は緑のまま、しっかりと硬度を維持していました(図1)。また、ゲノム編集したメロンの果実をエチレンにさらすと、3日程度で追熟が進み、果皮が黄化して芳香を放ち、果肉も食べ頃になっていることが確かめられました(図2)。つまり、食べ頃の状況を任意のタイミングで作り出すことが可能であることがわかりました。

今後の予定・期待

本研究では、iPB法を用いたゲノム編集により、高日持ち性で食べ頃を調整できるメロンを高効率かつ迅速に作出することに成功しました。本研究で作出した高日持ち性メロンは、生産者にとっては収穫のタイミングを柔軟に決められる、流通業者にとっては収穫後の鮮度保持や輸送に関わるコストを削減できる、消費者にとっては限られた旬の時期にしか味わえなかった果物をより長い期間楽しめる等のメリットがあり、国産メロンの市場拡大に向けた大きな一歩といえます。開発したゲノム編集メロン系統は、ゲノム編集作物として関係省庁への届出や品種登録を行い、3年後を目処に商業化を目指します。

メロン、特にマスクメロンは従来の細胞培養を介したゲノム編集は難しいとされてきましたが、今回用いたiPB法では植物の茎頂をゲノム編集するため、細胞培養の過程を必要とせず、培養により誘発されるDNAの変異や品種ごとの培養への適応性の差といった問題も回避できます。タンパク質とRNAから構成されるゲノム編集酵素を直接細胞に導入することにより遺伝子組換えの過程を経ないため、外来DNAを取り除く必要がありません(図6)。メロンで成功したiPB法は、他のウリ科作物(スイカ、キュウリ、カボチャなど)にも適用できることが期待されます。

図6iPB法を用いたメロンの高効率かつ迅速なゲノム編集手法 本研究で開発したメロンiPB法は、外来DNAを使用しないため、外来DNAを取り除くステップを必要としません。また、茎頂と呼ばれる芽の先端をゲノム編集するため、細胞培養やゲノム編集が生じた細胞を選抜する必要がなく、細胞培養が困難な品種にも適用可能です。

用語の解説

in planta Particle Bombardment(iPB)法
植物の茎頂(芽の先端)に DNA、RNAあるいはタンパク質を導入し、植物細胞を直接ゲノム編集する技術です。L2細胞層と呼ばれる細胞がゲノム編集されると、植物が成長した後に作られる生殖細胞(花粉と胚のう)もゲノム編集による変異を有することになります。雄花と雌花が受粉することで、次の世代にもゲノム編集の変異が伝わります(図6)。
iPB法の詳細は、以下のサイトをご覧ください。
https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nias/2021/nias21_s11.html [ポイントに戻る]
エチレン
常温では気体として存在する植物ホルモンで、果実の成熟や落果の促進、開花制御などに関与することが知られています。 [概要に戻る]
パーティクルガン
植物などの生物組織または個体に、高圧のヘリウムガスを用いて、金粒子を打ち込む装置です。金粒子表面に核酸やタンパク質を付着させることで、細胞内にそれらの物質を導入することができます。 [研究の内容・意義に戻る]
CRISPR/Cas9
ゲノムの特定の場所を狙って切断するゲノム編集酵素の1つで、現在、植物のゲノム編集において最も広く利用されています。その発見は、2020年のノーベル化学賞を受賞しました。 [研究の内容・意義に戻る]

発表論文

Kentaro Sasaki*, Kaoru Urano*, Naozumi Mimida, Satoko Nonaka, Hiroshi Ezura, Ryozo Imai (2025) A long shelf-life melon created via CRISPR/Cas9 RNP-based in planta genome editing. Frontiers in Genome Editing 7, 1623097. *共同第一著者
DOI: https://doi.org/10.3389/fgeed.2025.1623097

  • <著者情報>
  • 農研機構 生物機能利用研究部門
  • エグゼクティブリサーチャー今井 亮三
  • 上級研究員佐々木 健太郎
  • 任期付研究員浦野 薫
  • 筑波大学 筑波大学生命環境系/つくば機能植物イノベーション研究センター
  • 特任教授江面 浩
  • 助教野中 聡子
  • サナテックライフサイエンス株式会社
  • 研究員耳田 直純