プレスリリース
(研究成果) 収量が高く豆腐に利用できるダイズ新品種「そらみずき」、「そらみのり」

- ダイズの安定生産と供給に貢献 -

情報公開日:2023年11月 7日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配から、多収で豆腐に利用できるダイズ新品種「そらみずき」、「そらみのり」を育成しました。「そらみずき」(関東146号)は関東~近畿地域、「そらみのり」(九州187号)は東海~九州地域が栽培適地で、いずれも既存の品種と比較して3割以上の多収が見込まれ、ダイズの安定生産と供給に貢献することが期待されます。

概要

ダイズの自給率は食品用に限っても2割程度であり、需要の多くを輸入に依存しているため、食料安全保障の観点からダイズの自給率の向上は喫緊の課題です。一方、米国の平均単収は日本の約2倍と高い水準にあるものの、米国品種は主に搾油用として育成されていることから、国産ダイズの主用途である豆腐の加工適性に影響するタンパク質含有率が低い傾向にあります。そのため、日本品種が有する優れた豆腐等への加工適性と米国品種が有する多収性を兼ね備えた品種の育成が国内において求められています。

そこで農研機構は、収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種との交配から、収量が高く豆腐加工に利用できるダイズ品種「そらみずき」、「そらみのり」を育成しました。現地実証試験の結果から「そらみずき」は関東~近畿地域、「そらみのり」は東海~九州地域が栽培適地で、両品種とも既存の品種と比較して3割以上の多収が見込まれます。また、両品種とも米国品種等に由来する葉焼病抵抗性や難裂莢性を有するという特長を持っています。これらの品種の普及が進むことで国産ダイズの安定供給や自給率向上に貢献することが期待できます。

「そらみずき」と「そらみのり」の生産者ほ場における現地実証試験での平均収量
「そらみずき」と「そらみのり」の草姿

関連情報

予算 : 農林水産省「国際競争力強化技術開発プロジェクト(輸N4豆、大豆生産基盤強化のための極多収品種の育成)」
品種登録出願番号 : そらみずき 第36804号(令和5年4月18日出願、令和5年8月10日出願公表)
そらみのり 第36797号(令和5年4月17日出願、令和5年8月10日出願公表)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構作物研究部門 所長石本 政男
同 九州沖縄農業研究センター 所長原田 久富美
研究担当者 :
「そらみずき」
同 作物研究部門 畑作物先端育種研究領域 上級研究員加藤 信
「そらみのり」
同 九州沖縄農業研究センター 暖地水田輪作研究領域 主任研究員大木 信彦
広報担当者 :
同 作物研究部門 渉外チーム長中村 洋
同 九州沖縄農業研究センター 広報チーム長田中 和光

詳細情報

開発の社会的背景

ダイズは豆腐、味噌、納豆など日本の伝統的な食品に加工される重要な作物である一方、自給率は6~7%、油糧用等を除く食品用に限っても2割程度であり、需要の多くを輸入に依存しています(農林水産省、大豆をめぐる事情 令和5年)。一方、世界のダイズの消費量は年々増加し、気象災害等により価格の変動幅が大きく、食料安全保障の観点からダイズの国内生産量の向上は喫緊の課題となっています。2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」において、2030年度のダイズの生産努力目標は34万トンに設定されており、多収品種の育成や栽培技術・環境の改善等により単収を高め、国産ダイズの安定生産、安定供給を図ることが強く望まれています。

研究の経緯

日本国内のダイズの平均単収(2017~2021年の5年平均)は157kg/10aであるのに対し、米国の平均単収は336kg/10aと高い水準にあります。一方、米国品種は主に搾油用として育成されており、国産ダイズの主用途である豆腐の加工適性に影響を及ぼすタンパク質含有率が一般的に低い傾向にあり、日本品種が有する優れた豆腐等への加工適性と米国品種が有する多収性を兼ね備えた品種の育成が国内において求められていました。この状況を踏まえ、農研機構では、豆腐等の加工適性に優れた日本の品種・系統と米国の極多収品種を交配し、選抜を行って新品種「そらみずき」、「そらみのり」を育成しました。

新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴

【来歴】

  • 「そらみずき」は「作系76号」(後の「フクユタカA1号」)を種子親、米国品種「UA4805」を花粉親とする交配組合せから育成されました。
  • 「そらみのり」は「九州148号」を種子親、米国品種「Santee」を花粉親とする交配組合せから育成されました。

【特徴】

  • 「そらみずき」および「そらみのり」はいずれも(さや)付きが良く、生産者ほ場における現地実証試験では既存品種「里のほほえみ」や「フクユタカ」と比較して3割以上多収であり、全ての試験で比較品種を上回りました(表1)。
  • 「そらみずき」は関東~近畿地域、「そらみのり」は東海~九州地域が栽培適地です(表1)。
  • 「そらみずき」および「そらみのり」はいずれも裂莢性(れっきょうせい)1)は"難"であり、葉焼病(はやけびょう)2)に対しても"抵抗性"です(表2)。
  • へそ3)の色は「そらみずき」が淡褐、「そらみのり」が黄です(図1)。
  • 育成地や現地試験の生産物のタンパク質含有率は、「フクユタカ」と比較して「そらみずき」はやや低く、「そらみのり」は同等でした(表3)。豆乳抽出率4)は「そらみずき」、「そらみのり」とも「フクユタカ」と同等、豆腐の破断強度(はだんきょうど)5)は「そらみずき」、「そらみのり」とも「フクユタカ」よりもやや低い値でしたが、豆腐に利用できると評価されました。

【その他の基本情報・栽培上の留意点】

  • 「そらみのり」はダイズモザイクウイルス6)のAおよびB系統に対して抵抗性ですが、「そらみずき」はA~Eの全ての系統に対して感受性です。また、「そらみずき」、「そらみのり」はダイズシストセンチュウ7)に対して感受性です。そのため、これらの被害履歴のあるほ場での作付けを避けてください。

品種の名前の由来

「そらみずき」はダイズの生長をはぐくむ"空"と"水"に感謝し、収穫を"喜"ぶ姿を、「そらみのり」はダイズの生長をはぐくむ"空"に感謝し、多くの子実が"実る"姿をイメージして命名しました。また"空"には空のように高い収量を目指して育成した品種である意味も含まれています。

今後の予定・期待

「そらみずき」は関東~近畿地域を中心に、「そらみのり」は東海~九州地域を中心に普及を進めています。両品種は既存品種と比較して約3割以上多収であることから、普及が進むことで国産ダイズの安定供給や自給率向上に寄与できると期待されます。

なお、両品種の原種苗については以下からお問い合わせください。

原種苗入手先に関するお問い合わせ(生産者向け)

「そらみずき」

農研機構作物研究部門 メールフォームでのお問い合わせ
https://www.naro.go.jp/inquiry/index.html

「そらみのり」

農研機構九州沖縄農業研究センター メールフォームでのお問い合わせ
https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/inquiry/index.html

利用許諾契約に関するお問い合わせ(種苗会社向け)

下記のメールフォームでお問い合わせください。

農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu

なお、品種の利用については以下もご参照ください。

農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

用語の解説

裂莢性(れっきょうせい)
成熟した莢がはじける性質を指します。裂莢性が"易"の品種は、成熟後に高温乾燥状態が続くと、自然にはじけやすく、莢内の種子がこぼれてしまうので、収穫ロスの原因になります。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]
葉焼病(はやけびょう)
細菌によって引き起こされる病害で、ダイズの葉に感染すると斑点性の病斑が現れ、症状が激しくなると葉が早期に落ち、粒大や収量が減少するなどの影響が出ます。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]
へそ
種子が莢とつながる部分。黄、緑、淡褐、暗褐、黒などに分類される。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]
豆乳抽出率(とうにゅうちゅうしゅつりつ)
豆腐を製造する際の製品歩留まりを表す指標の1つで、抽出率が高いほど豆腐加工適性が高いことを示します。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]
豆腐の破断強度(はだんきょうど)
豆腐に力を加えていき、豆腐が壊れるまでに要した力の強さで、豆腐の硬さの指標として使われています。一般的に破断強度は高い方が良いとされており、タンパク質含有率が高いほど破断強度は高くなる傾向にあります。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]
ダイズモザイクウイルス
ダイズがこのウイルスに感染するとダイズモザイク病を引き起こし、葉にモザイク症状やえそ症状が現れるとともに、種皮に褐色や黒色の斑紋が現れ、収量や収穫物の品質に影響が出ます。このウイルスは、A、A2、B、C、DおよびE系統の6系統が国内において報告されており、「そらみずき」はいずれの系統にも感受性、「そらみのり」はAおよびB系統に抵抗性、その他の系統に感受性です。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]
ダイズシストセンチュウ
ダイズの根に寄生するセンチュウです。寄生された植物体は、生育が低下して黄化症状が現れるとともに、根に本センチュウの卵が詰まった黄色いシストが多数形成されます。シストは土壌中で数年以上生存し、翌年以降の病原になります。判別品種に対する寄生の度合いによって16種類(レース1~16)に分類され、国内で発生するレースのほとんどはレース3で、「そらみずき」および「そらみのり」はレース3に対して感受性です。[新品種「そらみずき」、「そらみのり」の特徴へ戻る]

発表論文

加藤ら(2023)「近代米国品種由来の多収性を有する関東から九州地域向けのダイズ新品種「そらみずき」の育成」農研機構研究報告第16号(印刷中)

参考図

表1 生産者ほ場における現地実証試験成績

注1) いずれの試験も実栽培規模(約30a)で、子実重はコンバイン収穫により評価した。
注2) 2022年は播種後の干ばつにより「里のほほえみ」は発芽不良となった。
注3) 台風の被害により低収傾向となった。
注4) 倒伏は無、微、少、中、多、甚の6段階にて評価した。
注5) 収量の標準対比のうち、赤字で示したものは標準対比130以上であった。

表2 裂莢性と葉焼病抵抗性

注1) 室内での加熱試験(60°Cで3時間)による裂莢率から判定。
注2) DNAマーカーを用いた多型調査から判定。

カラースケールは1.0cm × 1.0cm

図1 「そらみずき」と「そらみのり」の子実の外観(2022年産)

左から「UA4805」、「Santee」、「フクユタカ」、「そらみずき」、「そらみのり」

表3 「そらみずき」と「そらみのり」を原料とした豆腐の加工適性試験結果

注) 第三者検査機関による試験結果