プレスリリース (研究成果) カキのわい性台木に利用できる品種「豊楽台( ほうらくだい ) 」の 標準作業手順書を公開
- カキをコンパクトに育て、生産性の向上と省力化を可能に -
農研機構
島根県農業技術センター
ポイント
農研機構と島根県は、共同で育成したカキのわい性台木品種「豊楽台」の特徴と利用方法をまとめた標準作業手順書を公開しました。「豊楽台」台木1) に接ぎ木2) した「富有」3) 樹は、一般的な台木に接ぎ木した樹と比べて樹高が低く、樹の大きさも半分程度になり、単位容積当たりの収量が向上するため生産性も高まります。また、高所での作業も減ることからカキの省力栽培、労災軽減に貢献します。「豊楽台」の接ぎ木苗は、2025年秋から販売される予定です。本作業手順書の活用により、高生産性で省力栽培でき、労災軽減にも繋がる技術としてカキわい性台木の普及が期待されます。
概要
カキは高木になりやすい樹種です。生産者の高齢化のため、高品質果実生産に必須の管理作業である摘らい(つぼみを間引く作業)・摘果(果実を間引く作業)や収穫、せん定など脚立を使用した高所作業が困難になりつつあります。同時に、省力・軽労化、労働災害防止の要望も高まっていることから、接ぎ木によりカキの樹を小型化(わい化)する事が可能なわい性台木が強く求められています。これまでカキの台木は、種子で増やせる実生苗の台木が利用されてきましたが、台木の遺伝的なバラツキが大きいため樹全体の生育が個体により大きく異なるという問題が生じます。そのため、安定したわい性台木の育成には、遺伝的に同一であるクローン苗4) で生産できることが不可欠です。
図1 台木の違いによる「富有」樹の生育の差
慣行栽培した10年生「富有」樹。撮影:2015年。
赤白の縦棒の高さは、2m。
そこで農研機構と島根県は、接ぎ木した樹がわい化して高い生産性を示し、挿し木5) によってクローン苗を生産できるカキわい性台木品種「豊楽台」を2016年に育成しました(図1 )。そしてこのたび、カキの生産者向けに「豊楽台」の接ぎ木した樹のわい化効果、果実品質や生産性を解説した標準作業手順書を公開しました(図2 )。 「豊楽台」の接ぎ木苗は、日本果樹種苗協会と許諾契約を締結した果樹苗木業者から、2025年秋より販売される予定です。本作業手順書の活用により、高生産性で省力栽培でき、労災軽減にも繋がる栽培技術として、まだ普及技術として定着していないカキわい性台木の普及が期待されます。
図2 標準作業手順書の表紙
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 果樹茶業研究部門 所長 井原 史雄
研究担当 者 :
同 果樹生産研究領域 領域長補佐 薬師寺 博
(現 本部 知的財産部 育成者権管理課)
広報担当 者 :
同 研究推進部 研究推進室 果樹連携調整役 藤野 賢治
詳細情報
開発の社会的背景および研究の経緯
カキは樹高が高くなりやすい樹種で、果実の生産に寄与しない徒長した枝の発生が多いため、生産効率が低くなりやすい等の欠点があります。また、生産現場では脚立を使用した高所作業が多くなり、高品質果実生産に必須の管理作業である摘らい・摘果や収穫、せん定など脚立を使用しなければなりません。生産者の高齢化のため、これらの高所作業が困難になりつつあり、作業性や安全性に問題もありました。このため、カキの低樹高栽培法として、樹を小型化することが可能なわい性台木の開発が要望されてきました。
一方、カキは挿し木によるクローン苗の生産が難しいため、通常は種子で増やせる実生苗を台木として利用してきました。一般に果樹の実生苗は遺伝的に不均一なため、台木として利用した場合に穂木を含む樹全体の生育も大きくバラつくという問題が生じます。台木の増殖にあたり、その特性を安定して発現させるためには、遺伝的に同一なクローン苗で生産することが不可欠です。
そこで農研機構と島根県は、接ぎ木した樹がわい化して高い生産性を示し、かつ挿し木によってクローン苗を生産できるカキのわい性台木を育成しました。
研究の内容・意義
今後の予定・期待
「豊楽台」は、わい性台木として、「富有」のような樹勢が中程度の品種や「西条」など樹勢が強い品種のわい化栽培に有効です。カキ台木の普及において、強く要望されてきた増殖性も優れています。本手順書に記載されている利用方法の普及により、果実の生産性向上も期待でき、カキの省力・安定生産、労働災害の軽減や農薬削減に役立つことが期待されます。
原種苗入手先に関するお問い合わせ
「豊楽台」の購入先等の情報につきましては、以下へお問い合わせください。
■ (一社)日本果樹種苗協会
〒104-0041 東京都中央区新富1丁目17番1号 宮倉ビル4階
Tel 03-3523-1126 | Fax 03-3523-1168
利用許諾契約に関するお問い合わせ
下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/hinshu
なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html
用語の解説
台木
接ぎ木するときに土台となる植物です。台木によって接ぎ木された樹の結実性が早くなったり、生育が影響を受けたりします。また、土壌病害に強い台木もあります。
[ポイントへ戻る]
接ぎ木
2個以上の植物体を、人為的に作った切断面を合わせて癒合を促し、一つの植物体に養成する育苗法です。上部の植物体を穂木、下部の植物体を台木と呼びます。
[ポイントへ戻る]
「富有」
江戸時代に岐阜県で栽培されていたカキで1884年(明治17年)に接ぎ木して育成され、その後「富有」と命名されました。品評会などで高い評価を受け、全国に広まりました。甘ガキの代表品種であり、品種別栽培面積は1位です。
[ポイントへ戻る]
クローン苗
挿し木、取り木、組織培養によって栄養繁殖された植物体です。親と遺伝的に同じであり、果樹の苗木の生産はほとんどクローン苗です。
[概要へ戻る]
挿し木
葉や枝など植物の一部を切り取り、培養土等に挿して植物体を再生する増殖方法です。枝の場合、落葉した冬の枝(休眠枝)を使用する場合と春に新しく発生した新梢の枝を使用する場合があり、休眠枝を使用した挿し木を休眠枝挿し木、新梢の枝を利用した挿し木を緑枝挿し木と言います。
[概要へ戻る]
樹冠容積
樹の地上部(枝や葉)が占める空間(容積)です。
[研究の内容・意義へ戻る]
樹冠面積
地面に対して、樹の枝や葉が最大限に占める面積です。
[研究の内容・意義へ戻る]
発表論文
Yakushiji et al. (2021) Tree growth, productivity, and fruit quality of 'Fuyu' persimmon trees onto different dwarfing rootstocks. Scientia Horticulturae. 278: 109869. doi: 10.1016/j.scienta.2020.109869
成果情報:カキのわい性台木に利用できるカキ新品種「豊楽台」(農研機構 普及成果情報 果樹 2021年)