プレスリリース
(研究成果) 極早生で良食味のニホンナシ新品種「(そう)(げつ)

- ミルキーな甘い香気を持つ大果の青ナシ -

情報公開日:2025年8月 5日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、極早生でミルキーな甘い香気を持ち食味に優れる青ナシ1)「蒼月」を育成しました。関東以南の地域では露地栽培で7月下旬から収穫できるため、ニホンナシの需要が高い7月下旬から8月中旬ごろに出荷できます。大果で極早生の青ナシ品種として普及が期待されます。

概要

「蒼月」の果実

ニホンナシは7月下旬から8月中旬ごろにかけて需要が高まるため、この時期に収穫・販売できる品種は生産者にとって大きなメリットがあります。従来、露地栽培で「幸水」2)の盆前収穫が困難であった地域において8月中旬までの時期にナシを収穫・出荷するためには、早生品種の「幸水」を促成栽培の一種であるトンネル栽培3)で生産する必要がありますが、資材費や被覆労力の負担が課題となっています。このため、露地栽培でも8月上旬に収穫可能な極早生品種の育成が求められています。

そこで農研機構は、早生の主要品種「幸水」より約20日早く成熟し、7月下旬から8月上旬に収穫可能な極早生のニホンナシ新品種「蒼月」を育成しました。「蒼月」は、「幸水」とほぼ同じ大きさで極早生品種としては大果であり、「幸水」より果肉が軟らかく、糖度と酸味はほぼ同程度で、ミルキーな甘い香りと優れた食味を備えています。「蒼月」は促成栽培が不要なため、本品種の導入により資材費や被覆労力の軽減が期待できます。

本品種の苗木は、今後許諾契約を締結した果樹苗木業者から販売される予定であり、令和8年秋以降の販売開始を目指しています。

関連情報

予算 : 運営費交付金
品種登録出願番号 : 第35580号(令和3年11月29日出願公表)
品種登録番号 : 第30869号(令和7年3月12日品種登録)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構果樹茶業研究部門 所長草塲 新之助
研究担当者 :
同 果樹品種育成研究領域 グループ長髙田 教臣
広報担当者 :
同 研究推進部研究推進室 果樹連携調整役三谷 宣仁

詳細情報

新品種開発の社会的背景と経緯

ニホンナシは果面のコルク層が発達する赤ナシと、発達しにくい青ナシに大別されます。このうち青ナシでは、中生の「二十世紀」4)「ゴールド二十世紀」5)がその大半を占めており、労力分散の観点から熟期の異なる新品種の育成が求められています。また、ニホンナシの需要は7月下旬から8月中旬にかけて高まりますが、その時期に露地栽培で収穫できる主力の品種は見当たらず、早生の「幸水」で対応する場合、多くの産地でトンネル栽培を必要とするため、資材費や被覆労力の負担が課題となっています。このため露地栽培でも8月上旬に収穫可能な極早生品種の育成が求められています。

そこで、農研機構は極早生で良食味の青ナシ品種である「蒼月」を育成しました。この品種は、露地栽培で高い需要期に対応できる新たな選択肢として期待されています。

新品種「蒼月」の特徴

  • 極早生で果実品質良好な青ナシ品種の育成を目的として、2007年に早生の青ナシの「なつしずく」に極早生の赤ナシの「はつまる」を交雑して得られた実生から選抜しました。
  • 樹勢は「幸水」よりやや強く、枝の発生密度は「幸水」よりもやや少ないため、1年枝が太くなりやすいです。短果枝6)の着生は少なく、えき花芽7) の着生は"やや少"~"中"であるため花芽の着生が「幸水」より少なく、安定生産のため積極的に花芽の確保を行う必要があります。育成地(茨城県つくば市)における開花期は「幸水」と同時期で、収穫期は7月下旬~8月上旬と「幸水」より20日程度早く収穫できる品種です(表1)。
  • 果実重は370g程度と「幸水」とほぼ同じ大きさで極早生品種としては大果であり、無袋栽培8)ではサビが中程度に発生し、果形が円形の青ナシです(写真1)。果肉硬度は「幸水」より軟らかく、糖度と酸味(pH)は「幸水」と同程度であり、食味良好です。農研機構における2018年からの4年間の観察ではみつ症9)心腐れ10)の発生は見られていません(表2)。
  • 黒斑病11)に対して抵抗性があります。一方、黒星病12)に対しては罹病性ですが、慣行防除で対応可能です。
  • 香気成分プロファイリングにより、牛乳から検出される香り成分であるγ-デカラクトン13)による特徴的なミルキーな香気を持つことが明らかとなっています。

<その他基本情報・問題点>

  • 贈答用果実等を生産する場合には、有袋栽培8)を行うことでより外観を奇麗に仕上げることが可能です(写真2)。ただし、無袋栽培果実と比べて糖度が低下すること、トンネル栽培に比べて負担は大きくないものの労力や資材費が必要となる点に注意が必要です。
  • 1年枝が太くなりやすいため、夏季の枝誘引によって剪定時に更新する結果枝を確保することが望ましいです。また、短果枝、えき花芽ともに着生が少ないことから、栽培に当たっては夏季の枝誘引等によって花芽の確保に努める必要があります。
  • 試作試験では、「幸水」等と同様に、九州地方を中心とした一部の試験場所で花芽の枯死や発芽不良が確認されています。施肥時期を冬季から春季に変更することや、冬季の土壌改良処理によって発芽不良の発生が抑制できることがわかっています。そのため、「幸水」等で発芽不良が発生している地域に本品種を導入する際には、これら技術の導入を検討することが望ましいです。
写真1 「蒼月」の結実状況(無袋栽培果実)
果面のサビが中程度発生
写真2 「蒼月」の結実状況(有袋栽培果実)
本摘果終了後の5/25(満開後約50日)に撥水改良合わせ袋(H55L、JA全農とっとり)を被袋した。
表1 「蒼月」の樹体特性果樹茶業研究部門 2018-2021
表2 「蒼月」の果実特性(無袋栽培)果樹茶業研究部門 2018-2021

品種の名前の由来

「蒼月」という名前は、果面が奇麗な青ナシであることと、果実が円形で丸い月を連想させることから名づけられました。

今後の予定・期待

「蒼月」は全国のニホンナシ栽培地帯で栽培可能であり、特に、従来、露地栽培で「幸水」の盆前収穫が困難であった地域において、7月下旬以降から収穫可能な極早生品種として普及が期待されます。また、「幸水」より早い時期に収穫できる極早生品種として、直売所等での果実販売も期待できます。

品種に関するお問い合わせ

農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/sonota

なお、品種の利用については以下をご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

用語の解説

青ナシ
「二十世紀」や「なつしずく」等のニホンナシ品種のように、幼果を袋掛け等によって保護して生育させたときに果実表面にコルク層を形成しない品種。 [ポイントへ戻る]
幸水
現在、ニホンナシで最も広く栽培されている早生品種。2021年時点でニホンナシの全栽培面積の39.6%を占めます。 [概要へ戻る]
トンネル栽培
早期出荷を目的として、2月中旬から5月中旬の生育初期の時期に園地をビニール等のフィルムで被覆する簡易施設栽培。 [概要へ戻る]
二十世紀
1889年頃に千葉県で発見された品種で、1980年頃までは最も多く栽培されていたニホンナシ品種。現在も、ニホンナシの全栽培面積の5.3%を占め、品種別栽培面積で第5位、青ナシでは第1位の品種です。 [新品種開発の社会的背景と経緯へ戻る]
ゴールド二十世紀
「二十世紀」の黒斑病抵抗性突然変異品種で、農業生物資源研究所(現、農研機構)放射線育種場で育成されました。現在、ニホンナシの全栽培面積の1.2%を占めます。 [新品種開発の社会的背景と経緯へ戻る]
(たん)()()
数cm以下の短い枝の芽が花芽となったもの。花芽が開花し、結実するので短果枝と呼びます。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
えき()()
数十cm以上伸長した枝に着生した先端以外の芽(えき芽)で花芽となったもの。えき花芽が着生した枝は通常長い場合が多く、長果枝とも呼ばれます。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
()(たい)栽培、(ゆう)(たい)栽培
有袋栽培は樹上の果実一つ一つに紙製の袋(果実袋)などを熟期までかぶせる栽培方法のことで、病害虫対策や果実の外観向上等の目的で行われます。果実袋をかけずに栽培する方法を無袋栽培と言います。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
みつ症
果肉の一部が水浸状の半透明となる生理障害。みつ症が発生したニホンナシ果実は商品価値が低下します。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
(しん)(ぐさ)
心部が褐変、腐敗する症状。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
(こく)(はん)
ニホンナシの主要病害の一つ。主要品種の中では「二十世紀」が罹病性。「幸水」、「豊水」、「新高」は抵抗性を示します。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
(くろ)(ほし)
現在ニホンナシの最重要病害。主要品種を含め、ほとんどのニホンナシが罹病性です。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]
γ-デカラクトン
牛乳から検出される香り成分で、香気成分データベースでは桃様、ミルク様といった表現で記載されています。 [新品種「蒼月」の特徴へ戻る]

研究担当者の声

「クリの研究もしています」

果樹茶業研究部門 果樹品種育成研究領域
グループ長髙田 教臣

極早生の青ナシ「蒼月」は、いままでのニホンナシとは違う甘いミルキーな香りが特徴です。店頭に果実が並ぶのは苗木の販売開始から数年先になりますが、ぜひ一度皆様に味わっていただきたい品種です。