プレスリリース
(研究成果) 迅速・簡単な暗渠敷設機「カットドレーナー」が本格販売

- 暗渠の整備を生産者自ら実施できます -

情報公開日:2023年4月25日 (火曜日)

農研機
株式会社北海コーキ

ポイント

農研機構は株式会社北海コーキと共同で、トラクタなどによって牽引することで暗渠(あんきょ)1)とモミガラなどの疎水材2)を敷設・配置して暗渠を整備できる、暗渠敷設機「カットドレーナー」を開発しました。この度、本機はトラクタ販売店などにて北海コーキより本格的に販売されます。
本機の特徴は、V字刃による土塊の切断・持上げ・破砕により、約80cmまでの深さに安定して暗渠管を挿入できる点、また、溝の幅が最大60cmであるため、直径30cm未満の石礫(せきれき)が存在していても整備できる点です。これにより、畑作物の安定生産に資する暗渠を生産者自ら簡単に整備できます。

概要

畑作物を安定的に生産するには、湿害を避けるためにほ場の排水性を高めることが重要です。特に、水田を畑転換したほ場では排水対策は欠かせません。そこで農研機構は、株式会社北海コーキと共同で、生産者自らが簡単・迅速に暗渠を整備できる暗渠敷設機「カットドレーナー」を開発しました。

カットドレーナーは、トラクタや農耕用ブルドーザに取り付けて暗渠を迅速に整備できる機械です。はじめに、V字刃が土塊を切断し、下端の幅が10cm、上端の幅が最大60cmのV字状の溝を形成します。次に、形成された溝の最下部に幅7cmの縦溝を形成し、内径5cmの暗渠管とその上にモミガラなどの疎水材を敷設・配置します。一連の作業は生産者自ら簡単に実施できます。

カットドレーナーの特徴には、暗渠の施工深さが最大80cmであること、対象とするほ場に石礫が存在していても、その直径が30cm未満であれば整備できること、その他、従来の整備手法と比較して少ない疎水材で施工できること、施工時間が100mあたり10分程度と効率的であること、があげられます。

本技術により、ほ場の排水性の改善とそれによる畑作物の生産の安定化が期待できます。

カットドレーナーの技術的な情報は、農研機構ウェブサイトで公開しています。
https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nire/2021/nire21_s01.html

また、本製品については、株式会社北海コーキのウェブサイトで公開します。
https://hokkai-koki.sakura.ne.jp/

関連情報

予算 : 運営費交付金
特許 : 特開2022-082240 暗渠管埋設装置、他1件

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 所長渡嘉敷 勝
株式会社北海コーキ 代表取締役後藤 幸輝
研究担当者 :
農研機構農村工学研究部門 農地基盤情報研究領域 グループ長補佐岩田 幸良
広報担当者 :
同 渉外チーム長林田 洋一

詳細情報

開発の社会的背景

水田を畑転換したほ場は排水性が劣り、雨水などが溜まりやすい状態で畑作物を生産している場合が多くあります。このようなほ場では、湿害のため目標とする畑作物の収量や品質を保つことは困難です。また、気候変動などによって局地的な長雨や集中豪雨などが増加傾向にあり、畑作物の安定的な生産のためには、ほ場の排水性を良好な状態で維持することがこれまで以上に重要になっています。

暗渠はほ場の排水性の抜本的な改善が可能な対策技術ですが、施工に要する労力や費用の負担が大きいため、主に公共事業によって整備が進められています。また、石礫の多いほ場や、耕盤層を含む堅密な土層があるほ場では、暗渠敷設に使用できる技術手法が限られています。

そのため、生産者が自ら迅速・簡単に利用でき、かつ、石礫を含む場合でも暗渠の整備ができる機械が求められていました。

研究の経緯

石礫や堅密な土層がある条件であっても利用でき、かつ、生産者が自ら暗渠の整備ができる機械の開発を目指して研究に取り組みました。特に、石礫があっても施工できること、生産者が効率的に施工できることの2点に留意して開発を行い、石礫に強い特徴的なV字刃と、効率的に施工できる開削部と暗渠管の挿入部・疎水材の投入部を一体化した構造を持つ機械を開発しました。

なお農研機構と株式会社北海コーキは、これまでに、ほ場の排水性を改善する技術として、次の3種類の機械を開発してきました。すなわち、(1)無資材の暗渠を構築する穿孔暗渠機「カットドレーン」、(2)収穫後に地表に散在しているワラなどの残渣を地中に敷設して排水溝を構築する有材補助暗渠機「カットソイラー」、(3)耕盤や堅盤を土層の深くまで全面的に破砕できる全層心土破砕機「カットブレーカー」です。これらは既に「カットシリーズ」として販売されています。今回、暗渠を整備できるカットドレーナーの開発・販売開始により、カットシリーズの種類が増え、現場のニーズに一層応えやすくなりました。

研究の内容・意義

  • 暗渠敷設機「カットドレーナー」(図1写真1-ア)は、トラクタで牽引することで、図1のようにV字刃により下端の幅が10cm、上端の幅が最大60cmのV字状の溝を作ります。次に、V字状の溝の最下部に幅7cmの縦溝を開削します。さらに、同時に開削した縦溝に暗渠管(内径50mm)と疎水材(モミガラや木材チップ)を敷設します。敷設が可能な最大の深さは80cmです。
  • カットドレーナーは、V字状に幅広く土壌が破砕された透水性の高い溝を形成することから、雨水を広く集水でき、疎水材や暗渠管までの水移動が容易になります。
  • カットドレーナーの機体は、前面に土壌の切断・持上げ・破砕部となるV字刃があり、その後方に直列の溝の開削部と暗渠管の挿入部、疎水材の投入部があり、独特な構造です。
  • カットドレーナーを牽引するのに適した車両は、農業機械を牽引するための装着部である三点リンクを有する90~150馬力程度の大型農業トラクタ(写真1-イ・キ)と、農耕ブルドーザ(ウ)です。
  • カットドレーナーによる暗渠の整備の手順を図2に示します。
    (A)準備:(a)はじめに、ほ場の表面に残っている残渣や刈り株をフレールモア3)などにより粉砕する表面処理が必要です。また、額縁明渠4)などによる表面排水対策を事前に行い、機械の走行性を確保する必要があります。
    (B)施工:カットドレーナーを牽引することで、(b)V字刃により土壌を切断・持上げて土中に最大60cm幅のV字状の溝を形成し、(c)後方の開削ユニットによりV字状の溝の最下部に開削溝を形成し、(d)暗渠管とモミガラなどの疎水材を敷設します。
    (C)後処理:(e)ロータリなどで耕耘し、開削された溝を埋め戻して地表面を平らにします。
  • 暗渠の整備に際し、必要となる資材やその取扱いなどは次のとおりです。
    暗渠管やモミガラの小袋を事前にほ場に配置し(写真1-エ)、暗渠の整備に伴いモミガラの小袋などの疎水材を供給します(カ・ク)。
    また、トラクタ用クレーンを装着した場合(キ)は、疎水材を連続的に供給できるため、作業効率が高まるうえ、トラクタのオペレーター1名のみで整備が可能です。
  • 暗渠の整備に際し、排水路に設置する落水口の設置方法は次のとおりです。
    排水路の法面から水平な水閘(すいこう)5)を挿入して敷設する場合(オ)は、排水路内にカットドレーナーを下ろし、排水路内の法面から、水閘を付けた落水口パイプを暗渠管に接続して、機械の進行に合わせて押し込みながら挿入して敷設します。この際、水閘を設置する位置・深さの調整が重要です。
  • 整備後の暗渠の状況は写真2のとおりです。(写真2-ケ)は石礫のある沖積土の礫質灰色低地土と、(コ)は石礫のある洪積土で中山間地の礫質灰色台地土、(サ)は黒ボク土における事例です。礫質土や黒ボク土のような、これまでの一般的な暗渠の整備機械では整備が困難であった土壌においても、カットドレーナーは暗渠を整備できます。
  • カットドレーナーの利用上の留意点を表1に示します。
  • カットドレーナーの希望小売価格は308万円です(2023年、税込、オプション・送料別)。

今後の予定・期待

カットドレーナーの主なユーザーは、農機メーカー、農家や法人、農協などの農業団体、自治体や土地改良区などの地域組織、土木建設業者を想定しています。農研機構は普及のため、各地域での実演や現地実証に取り組んでおり、2023年2月末現在、5道県6地域にて実証試験を行いました。

用語の解説

暗渠・暗渠管
暗渠とは、地下水や地表の滞水を排除することを目的として地下排水路として地中に空ける穴のことです。暗渠管は、開けた穴が崩れて塞がれないように、地下に埋設される管のことです。内径50mm程度で管の表面に多数の穴が開いている暗渠管を、深さ50cm~1mの位置に10m程度の間隔で農地に敷設することで、水はけが改善され、作物の生育や農業機械の作業効率が向上するなどの利点があります。[ポイントへ戻る]
疎水材
疎水材は、地下水や地表の滞水を地下に埋設された暗渠管まで流れ込み易いように、暗渠管の直上から作土の直下までの深さに、5cm~20cmのある程度の幅で、透水性の良い資材を埋設するものです。疎水材には、モミガラや木材チップ、砂利や火山礫など地域にある透水性の高い資材を使用します。[ポイントへ戻る]
フレールモア
農耕用ロータリの耕耘刃のように、高速回転する横軸にハンマー状やナイフ状の刃が沢山装着された粉砕機械。地表面にある収穫後の刈株などの残渣を細かく粉砕できます。[研究の内容・意義へ戻る]
額縁明渠
農地の境界である畦畔に沿って周囲を額縁のように囲んで掘った排水溝。最初に実施する排水対策としてや水田の畑転換時に有効な方法です。[研究の内容・意義へ戻る]
水閘(すいこう)
暗渠の排水の出口に取り付けられ、排水を出したり止めたりする操作に使用します。暗渠に接続したパイプで、排水路の側面に出ていて、ここに排水口にキャップで蓋をする等の作業により、水田利用時などに暗渠からの排水を止めることができます。[研究の内容・意義へ戻る]

参考情報

参考図

A.カットドレーナーの構造の説明
B.カットドレーナーの実機の構造
C.トラクタへの装着状況(80馬力ハーフクローラー)
D.カットドレーナーで暗渠の構造

図1 暗渠敷設機「カットドレーナー」と施工された暗渠の構造

ア.本機の外観
イ.トラクタへの装着事例(150馬力ホイールトラクタ)
ウ.ブルドーザへの装着事例(農耕用)
エ.暗渠資材(暗渠管・モミガラ)のほ場配置事例
オ.落水口(キャップ式の水閘)の敷設状況
カ.モミガラ疎水材を小袋で供給する事例
キ.モミガラ疎水材の大袋で供給する施工事例
ク.木材チップ疎水材をコンテナ供給する施工事例

写真1 V字刃本暗渠敷設機「カットドレーナー」の外観と整備状況

図2 カットドレーナーによる暗渠の整備方法
管敷設深:管下80cm
ケ.礫質灰色低地土
(北海道:畑地)
管敷設深:管下80cm
コ.礫質灰色台地土
(岩手県:水田)
管敷設深:管下70cm
サ.黒ボク土
(北海道:畑地)

写真2 カットドレーナーによる暗渠整備後の土壌断面

表1 カットドレーナーの利用上の留意点