プレスリリース
(研究成果) 「NARO生育・収量予測ツール」を組み込んだ営農支援アプリケーションの社会実装

- 広島県での実証成果を反映した操作が簡単な栽培支援ツール -

情報公開日:2026年8月 4日 (火曜日)

農研機
持続未来株式会社
広島

ポイント

  • 農業データ連携基盤「WAGRI1)」で公開している農研機構開発のAPI2)「NARO生育・収量予測ツール①果菜類」を活用し、持続未来株式会社が生産者向け営農支援アプリケーションを開発しました。
  • 「NARO生育・収量予測ツール」を組み込んだ生産者向けアプリケーションのサービス提供は、国内初となります。
  • 本APIの生産現場での有効性は、広島県が実施する「ひろしま型スマート農業推進事業(ひろしまseedbox)」における実証を通じて確認され、その成果を基に本アプリケーションが開発されました。
  • 本アプリケーションを使うことで、施設野菜の生育や収量の予測結果をグラフとして確認でき、データに基づく栽培管理を支援します。
  • 農研機構の研究成果を活用したアプリケーションが生産現場で活用されることにより、施設園芸でのスマート農業技術の普及と予測に基づく農業経営の実現を加速します。

概要

トマトなどをハウスで育てる施設栽培では、温度や湿度、CO2濃度、日射量などの環境条件が作物の生育や収量に大きく影響しますが、それらの影響を定量的に把握し、栽培管理の判断に活かすことは容易ではありませんでした。農研機構は、こうした課題に対応するため、環境データや、葉幅、葉長、葉数や着果数などの生育データを入力することで、作物の生育量や収量を予測できるAPI「NARO生育・収量予測ツール」を研究開発しました。本ツールには、①果菜類(トマトなど3品目)、②イチゴ、③露地野菜のそれぞれに対応するAPIがあり、農業データ連携基盤「WAGRI」で公開しています。

農研機構と持続未来株式会社は、広島県が実施した「ひろしま型スマート農業推進事業(ひろしまseedbox)」において、API「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」を活用したシミュレーションに取り組みました。その結果、収量向上を目指した年間栽培計画の作成や、環境制御条件の検討に役立つことを確認しました。これらの実証成果をもとに、持続未来株式会社は、農研機構のAPIを組み込んだ営農支援アプリケーション「フルベジナビ3)」を開発し、令和7年9月1日よりサービスを開始しました。

本アプリケーションは、スマートフォンやパソコンから簡単に利用でき、環境データを入力することで、収量の見通しをシミュレーションできる点が特徴です。複数の環境条件に基づく予測結果を比較することで、実際に栽培する際の環境制御条件の検討や選択に活用できます。現在はトマトに加え、キュウリやパプリカなど、他の果菜類での予測を可能とするための機能拡大も進められており、全国各地の栽培施設での活用が期待されています。今後も農研機構は、"科学的な根拠に基づく栽培の支援"を通じて、スマート農業技術の普及と持続可能な農業経営の実現に貢献していきます。

関連情報

予算 : 内閣府総合科学技術・イノベーション会議 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期「収量や成分を自在にコントロールできる太陽光型植物工場」(14533052)

特許 : 第7557853号

問い合わせ先など
■農研機構
研究推進責任者 :
野菜花き研究部門 所長東出 忠桐
研究担当者 :
同 施設生産研究領域 研究領域長礒﨑 真英
副領域長安 東赫
上級研究員山崎 敬亮
同 研究推進室 推進チーム長上野 広樹
本部 企画戦略本部 セグメントⅢ理事室 上級研究員菅野 圭一 ※野菜花き研究部門 施設生産研究領域併任
広報担当者 :
野菜花き研究部門 研究推進室仁木 智哉
■持続未来株式会社
問い合わせ窓口 :
みんなの情報システム部 部長沖川 淳、福永 愛美
■広島県
研究担当者 :
広島県農林水産局農業技術課スマート農業推進担当

詳細情報

開発の社会的背景・研究の経緯

トマトなどの施設栽培では、温度や湿度、CO2濃度、日射量など、複数の環境条件を制御しながら生産が行われています。一方で、こうした環境条件が作物の生育や収量にどの程度影響を与えるのかについては、これまで生産者の経験や勘に頼ることが多く、科学的な根拠に基づいて判断を支援する仕組みが求められていました。こうした背景から、農研機構では、環境データや生育データを入力することで、条件に応じた収量や生育量をシミュレーションできるAPI「NARO生育・収量予測ツール」を開発し、①果菜類、②イチゴ、③露地野菜の3種類を、農業データ連携基盤「WAGRI」で公開しています。

こうした中、広島県では、令和3年度に生産性の高い農業の実現を図る取り組みとして、「ひろしま型スマート農業推進事業(愛称 : ひろしまseedbox)」を立ち上げました。このプロジェクトでは、県内農業の収益性向上と持続可能な経営モデルの確立を目指し、先端技術を活用したスマート農業の実証を進めています。この事業の中で、主要品目の一つであるトマトの産地(呉市)では、品質の維持や収量の向上、作業の効率化、販売の安定化など、複数の課題が顕在化しており、データに基づいた解決策の導入が求められていました。

そこで、農研機構と持続未来株式会社は、農研機構が開発したAPI「NARO生育・収量予測ツール①果菜類」を活用して、環境・生育データに基づいて生育や収量をシミュレーションする技術を現場に提供し、生産者の意思決定を助ける仕組みの構築に取り組みました(図1)。

図1農研機構・持続未来株式会社・広島県による取り組みの概要

研究の内容・意義

  • 環境データを用いて収量を事前に予測し、栽培条件の最適化に役立つことを検証

    広島県内(呉市)の、環境モニタリング装置と環境制御システムを備えた温室を対象に、温度、CO2濃度、日射量などの環境データを、令和3年度から継続的に記録しました。これらの環境データをもとに、技術の導入前(令和3年度)と比べて収量を 15% 増加させることを目標に、温度やCO2濃度などの管理条件を変えた複数の栽培計画を立て、令和5年度の管理方針を検討しました。

    シミュレーションの結果、冬期(11月~3月)の昼間において、温室内のCO2濃度を 50 ppm から 100 ppm 高めることが収量の向上に効果的であることが分かりました。一方で、それ以上に濃度を高めても効果は小さく、無駄の少ない効率的なCO2施用条件を示すことができました。

    このシミュレーション結果をもとに、年間の環境制御目標を設定し、実際の栽培で環境を調整し、確認しながら栽培を行ったところ、目標としていた 15% の収量増を達成しました。この実証により、生産者は環境制御装置を「感覚」ではなく「データにもとづいて」最大限に活用できるようになり、作物が持つ生産力を最大限に引き出す意思決定が可能になることが示されました。

  • 生産現場で使えるアプリケーションとして実用化し提供を開始

    この取り組みの成果をもとに、持続未来株式会社は、生産現場でもシミュレーションを活用できる営農支援アプリケーション「フルベジナビ」を開発し、令和7年9月1日よりサービスを開始しました。「フルベジナビ」では、例えば温室内のCO2濃度を 400 ppm から 500 ppm に変更した場合の収量の変化を視覚的に確認できるほか、複数条件のシミュレーションが可能となっています。

    また、作業記録、勤怠管理、出荷管理、生産資材(農薬・肥料)の管理をアプリ上で一元管理する機能を有しています。これにより、現場での環境制御や経営判断の一助となることが期待され、生産性の向上と安定した農業経営の実現に貢献します。

今後の予定・期待

今回の成果により、これまで生産者の経験や勘に頼ることが多かった施設栽培の環境制御を、データに基づいて科学的に判断できるようになりました。生産者は、温度やCO2濃度などの環境データと作物の生育状況をあわせて確認し、現在の生育状態や収量の見通しを数値として把握できるようになります。

今後は、こうしたデータに基づく栽培管理が、より多くの生産現場で実践される段階に移行することが期待されます。また、現在対応しているトマトに加え、本アプリケーションはキュウリやパプリカなど他の果菜類にも対応する予定であり、利用場面の拡大が見込まれます。地域や栽培方法の違いにも柔軟に対応できるデータ活用の仕組みとして、「NARO生育・収量予測ツール」の全国各地の生産現場への普及が進むことにより、施設園芸におけるスマート農業技術の定着や持続可能な農業経営への貢献が期待されます。

用語の解説

WAGRI
農業データ連携基盤(WAGRI)とは、農業分野の情報システム間でデータ連携を促進するためのプラットフォームです。農研機構が運用を行っています。詳しくはWAGRIのウェブサイトをご覧ください。URL : https://wagri.naro.go.jp/ [ポイントへ戻る]
API
APIとはApplication Programming Interfaceの略称であり、ソフトウェアやプログラム同士連携させるための仕組みのことです。特にHTTPなどのWeb技術を用いて構築されたものは、Web-APIといいます。 [ポイントへ戻る]
フルベジナビ
フルベジナビとは、持続未来株式会社が開発した果菜類向けの営農支援アプリケーションです。LINEやパソコン・スマートフォンを使って作業の記録・確認ができ、WAGRIのAPI「NARO生育・収量予測ツール①果菜類」を活用した収量予測のほか、作業記録、勤怠記録、出荷記録、農薬・肥料の在庫管理などの機能を備えています。詳しくは以下のウェブサイトをご覧ください。
URL : https://jizoku-mirai.com/cms/wp-content/themes/custom/images/system-development/agri-systems/20251210fullvege.pdf [概要へ戻る]

参考資料