プレスリリース
「ため池」等防災・減災のために開発した技術成果5点をリーフレットにして関係機関に配布

情報公開日:2010年3月31日 (水曜日)

ポイント

  • ため池・農地のハザードマップ作成技術、高度防災情報システム、ため池の改修技術、農地の保全対策効果の評価の5点の技術成果をリーフレットにとりまとめました。
  • 農林水産本省、地方農政局、都道府県の防災担当部局等の機関に配布し、具体的な問い合わせにも農工研が対応します。

概要

農研機構 農村工学研究所(所長 小前 隆美)は、ため池・農地のハザードマップ作成技術、高度防災情報システム、ため池の改修技術及び農地の保全対策効果の評価の各研究に、平成17年度から21年度まで取り組んできました。農村工学研究所は、これまでの研究成果を毎年発生する農村地域の災害に対する予測や対策に活用することが減災につながると考え、主要な研究成果5点をリーフレット形式に統一し、関係機関に配布します。それぞれには研究担当者を明記し、関係機関からの問い合わせに対応しており、これらの成果の普及を通して災害に強い農村地域の実現を目指します。なお、これらの研究は農林水産省の競争的資金「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」の課題「ため池等の低コスト改修・高度防災情報による防災対策技術の開発」により実施されました。


詳細情報

研究開発の背景・目的

我が国では豪雨、地震による災害が毎年、全国で発生しており、平成16年度には新潟・福島の豪雨災害、淡路島の台風災害、新潟県中越地震災害など農村地域での大災害が多発しました。これらの災害はため池の決壊、農地盛土や斜面の崩壊を引き起こし、次年度の水田作付けが困難になるなど農業生産に甚大な影響を及ぼしました。このため、本研究では施設の耐震性・耐豪雨性を向上させるための改修工法等の新技術や、災害に適切に対処できる災害予測・防災情報伝達システム技術の研究・開発を行いました。これらの研究成果をため池を有する農村地域に適用することにより、農村地域において安定的な農業生産を可能とするとともに、地震時や豪雨時に人命・財産に及ぶ多大な被害を最小化することを目的としました。

リーフレットに記載した研究成果の概要

各成果を図表や写真などを使いそれぞれ4ページにまとめています。

成果1 ため池の地震時や豪雨時における安全性向上のための改修技術の開発

ため池堤体の構築に特殊形状の大型土のうを用いることで、一時的な越流を許容し、堤体及び付帯設備(洪水吐・取水施設)の防災機能の向上と改修コスト縮減を図る耐久性の高いため池への改修工法を開発しました。この工法により改修したため池の耐震性と越流に対する安全性は、モデル実験や実際のため池への適用試験により確認し、施工マニュアル等を整備しています。

成果2 大規模農地災害の危険度及び対策工効果の評価技術の開発

地震時や豪雨時の大規模な農地災害の危険度やその農地保全対策の効果を定量的に評価する技術を開発しました。特に、中越地震等により発生した大規模農地災害の調査により、地震時に棚田のような緩い斜面にある農地がなぜ崩壊する場合があるのかを明らかにしており、地震・豪雨災害時に必要となる調査・解析手順をとりまとめています。

成果3 ため池決壊によるハザードマップ作成技術の開発

ため池諸元、地形図、標高情報等の既存資料と現地調査結果の解析により、ため池の決壊による洪水時の最大水深、流速、洪水到達時間等を地図上に表示するシステムを開発しました。既存情報を活用することでシステム導入コストを抑え、簡便な操作でため池が決壊した場合の氾濫域を事前に把握することができ、経済的被害についても評価することができます。システムの普及に向けて詳細な運用マニュアルを整備しています。

成果4 農地災害ハザードマップ作成技術の開発

リアルタイム気象情報・地震情報を利用して、農地や農地地すべりの災害時の点検支援や危険度予測を行うハザードマップの作成技術を開発しました。豪雨・地震災害時の液状化、地すべり、斜面崩壊等の要点検箇所の抽出や集計を迅速に行うことができます。

成果5 リアルタイム防災情報を活用した高度防災情報システムの構築

自治体や地域住民にため池の氾濫解析結果や危険度等のリアルタイムな防災情報を携帯メールやホームページを通じて伝達することができるシステムを構築しました。防災対策の優先順位決定や適切な避難判断・行動を支援し、地域の防災・減災力の向上を図ることができます。常時の情報伝達体制や災害発生危険時の情報伝達タイミングに関するシナリオの検討を行うことができます。

今後の予定・期待

リーフレットは平成22年度中に農林水産省、地方農政局及び都道府県の防災担当部局あてに送付し、上記成果の普及を図ります。個々の成果については研究担当者が継続的に検討を続け、学術誌への公表、技術指針への反映等を通じて情報発信を行います。さらに、成果の導入や運用に当たっては研究担当者とともに農村工学研究所技術移転センターが窓口となり、各種相談に対応します。これらの成果の普及を通して災害に強い農村地域の実現を目指します。