プレスリリース
(研究成果) バイオマス植物として有用なオギススキ新品種の開発

- 株の広がりが速く、草地造成が簡単に -

情報公開日:2022年10月18日 (火曜日)

ポイント

オギススキは、海外ではジャイアントミスカンサスと呼ばれ、バイオマス植物として利用されています。国内においてオギススキの利用を推進するため、農研機構は、株の広がりが速く、草地造成の労力が大幅に削減できる新品種を開発しました。本品種は、1バイオマス燃料として利用することでカーボンニュートラル1)に向けて温室効果ガス(二酸化炭素CO2)排出量削減に貢献できる、 2耕作放棄地に導入することで耕地の省力管理に活用できる、3産業用の有用産物の原料など様々な利用方法がある、など多くの利点を有しています。

概要

オギススキは、オギとススキの自然雑種で日本に自生している植物です。海外ではジャイアントミスカンサスと呼ばれ、バイオマス植物としてボイラーの燃焼材などに使われています(山田 2013)。我が国においてもオギススキの活用により、2050年カーボンニュートラル達成に大きく貢献することが期待できます。一方、国内ではオギススキの利用はまだ限られています。普及が進んでいない要因の一つとして、オギススキは不稔性のため、種子生産ができないことが挙げられます。種子拡散により自然生態系を撹乱するおそれがない利点はありますが、草地造成のためには多くの株を増殖し移植する必要があり、労力がかかる問題点があります。そこで、移植本数を減らすことができる株の広がりが速い新品種「MB-1」と「MB-2」を開発しました。

オギススキ新品種の活用法の一つとして、バイオマス植物として火力発電所などの燃料にすることが考えられます。バイオマス植物に含まれる炭素は光合成で大気中から吸収された二酸化炭素(CO2)なので、石炭等の代替燃料として活用すれば、温室効果ガス削減に貢献できます(詳しくは、以下「今後の予定・期待」の1を参照)。 オギススキは永年生植物であるため一度草地ができると毎年の耕起・鎮圧・播種・除草剤散布などが不要で、省力的に草地を管理することが可能であり、ロータリー耕で簡単に耕地に戻せることから、低未利用地の省力管理植物として耕地の保全にも貢献できます。また、産業利用できる有用化学物質抽出やパルプ製造の原料として利用するための試験を実施しています。さらに畜舎の床に敷く敷料や家畜糞堆肥製造の副資材として畜産での利用や、おがくずの一部代替としてきのこの菌床製造への利用も想定されます。現在、このような多様な利用方法を普及させるために、公設試験場や民間企業との連携を検討しています。

山田敏彦(2013)バイオマス作物としてのススキ属植物の期待 : 遺伝資源の評価と優良系統の育成、農業および園芸, 88(6), 663-667

関連情報

予算: 内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」(管理法人:生研支援センター)
品種登録出願番号: 「MB-1」第35900号(2022年3月30日出願公表)、「MB-2」第35901号(2022年3月30日出願公表)


詳細情報

新品種開発の背景と経緯

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。これを達成する方策のひとつとして、バイオマス植物の開発・普及があります。バイオマス植物の利活用により、温室効果ガス(二酸化炭素CO2)排出量削減への貢献が期待されます。
オギススキ既存品種は、海外ではバイオマス植物として直接燃焼等に利用されています。このオギススキ既存品種は九州の在来種2)ですが、日本ではまだあまり利用されていません。オギススキの普及における問題点は、初期の草地造成に労力がかかることです。オギススキは種子を作らないため、栄養繁殖により多数の株を増殖して移植するという過程が必要で、既存品種では1haの草地を造成するためには1万本の苗を移植する必要があります。
このような欠点を補う特性を有するオギススキの新品種を開発するため、農研機構では2011年から日本各地で自生系統を収集して特性評価や交配育種を実施してきました。その研究過程で2012年に採集した栄養系3)「MB-1」と「MB-2」が、農研機構東北農業研究センター等での栽培試験で優れた草勢を示し、生産力などの優秀性が確認できたので、2021年に品種登録出願しました。これらは既存品種より株が広がりやすく、かつ多収で、草地造成がしやすいという特徴を有します。株の広がりが速いため移植する苗の数を通常の1/4に減らすことが可能で、栽培管理上の作業量を大幅に減らすことができます。

新品種「MB-1」と「MB-2」に共通する特徴

  1. 株の広がり
    既存品種と「MB-1」「MB-2」(写真1)の株幅を比べると1年目、2年目および3年目とも既存品種よりも株の広がりが2倍程度速く広がります(図1)。両品種の3年目の株幅は、既存品種の3倍でした。そのため、既存品種は100cm間隔で移植し、4年目に株が繋がりますが、新品種は200cm間隔で栽培しても3年目に株が繋がります。この特性により新品種は、200cm×200cmに1本移植すれば良いため、通常の100cm×100cmに1本移植するのと比較して、移植株数を1/4程度に減らすことができます。
  2. 収量性
    「MB-1」と「MB-2」の収量は、移植1年目~3年目で既存品種よりも多収です(図2)。特に両品種とも移植した1年目の生育に優れるため、雑草の侵入が既存品種よりも少ないことが特長です(図3)。
  3. その他特性
    倍数性4): 両品種とも、倍数性は、既存品種と同じ三倍体です。
    ・稈の長さと茎数: 稈の長さと茎数は、両品種とも既存品種と同程度です。

新品種「MB-1」と「MB-2」の違い

  1. その他特性
    ・早晩性:「MB-1」の出穂期は、既存品種と同程度の'中生'で、「MB-2」の出穂期は、既存品種より遅い'晩生'です。
    ・耐倒伏性: 積雪による倒伏程度は、既存品種が最も強く、次に「MB-1」で最も弱いのは「MB-2」です。そのため、「MB-1」と「MB-2」は降雪前の収穫を想定しています。

今後想定される普及・利用の見込み等

両品種は東北から九州地域まで栽培可能です。越冬が難しいため北海道は適地ではありません。東北地域は、関東以南で栽培されるバイオバス作物であるエリアンサス(Erianthus arundinaceus)よりオギススキの方が栽培に適しています。利用法としては、バイオマス原料、産業原料、耕作放棄地対策、畜産利用など様々な用途が想定されます。

栽培方法

  1. 造成・収穫方法
    オギススキは種子を作る能力が無いため、地下茎を10cm程度に小さく株分けして苗を作り、それを移植して草地を造成します(写真2写真3)。1年目は草丈が1m程度と低く収量が少ないため、刈払いを行います。2年目以降は、草丈が3m以上になりますので、積雪前の11月頃に全面刈りのコーンハーベスタなどを使って収穫作業を行います(写真4)(積雪が少ない地域では越冬後の収穫も可能)。一度草地を造成すると10年以上利用可能で、施肥と収穫作業だけで管理できますので、他の作物(主要作物・飼料作物など)と比べて非常に省力的です。また、ススキのように大きな株になりませんので、20馬力以上のトラクターでロータリー耕起することで、オギススキ草地を耕地に戻すことも可能です。
  2. 栽培上の留意点
    耐倒伏性が既存品種よりやや劣りますので、降雪の多い地域で栽培する場合は、積雪前の収穫が必要です。

品種の名前の由来

MB-1 M: ミスカンサス(ススキ属の意味)
B: バイオマス(バイオマス利用の意味)
1: 1号の意味
MB-2 M: ミスカンサス(ススキ属の意味)
B: バイオマス(バイオマス利用の意味)
2: 2号の意味

今後の予定・期待

  1. カーボンニュートラルに向けて温室効果ガス(CO2)排出量削減への貢献
    オギススキは、海外ではバイオマス植物として利用されています。日本においては東北地域でのバイオマス植物として、活用が期待されます。火力発電所などで「石炭との混焼」やバイオマス発電所での活用が想定されます。
    植物・植物由来の燃料は燃焼してCO2が発生しても、その原料植物は成長過程でCO2を吸収しているためライフサイクル全体でみると大気中のCO2は増加しないことから混焼時においてCO2排出量の削減が可能となります。
  2. 産業原料としての貢献
    産業原料として利用する場合、オギススキはトウモロコシなどに比べると栽培に大量の燃料や資材を投入せずに、同程度の収量を確保することが可能です。将来的にバイオマス燃料のほか、糖、シリカ、パルプ等の産業原料として利用される可能性があります。
  3. 耕地の省力的管理技術
    オギススキは、初年度苗を移植した後は、年1回の施肥と収穫だけですむため、他の作物と比べて圧倒的に省力管理が可能です。さらに、オギススキはロータリー耕により比較的簡単に耕地に戻すことが可能です。オギススキは土壌水分が十分にあるところで本来の能力を発揮しますので、耕作放棄水田等の省力的な保全技術として活用可能です。
  4. 畜産利用
    オギススキを秋に収穫しロールベールにしたものは、嗜好性は高くありませんが繁殖牛などの飼料として活用できます。また、3月以降に収穫したオギススキは、十分に乾燥していますので、敷料、堆肥の水分調整材などにも利用できます。
  5. キノコ菌床への利用
    既存品種は菌床のおがくずの一部代替として利用することができ、オギススキが入ることによりシイタケのサイズを大きくする効果があることが分かっています。新品種についてもおがくずの代替としての利用が期待されます。

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせ下さい。
農研機構HP【品種についてのお問い合わせ】

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法】

原種苗入手先に関するお問い合わせ

苗生産者

現在「MB-1」と「MB-2」の利用許諾契約を希望される苗生産者を募集しています。希望される方は、上記にお問い合わせください。

栽培希望者

「MB-1」と「MB-2」の栽培利用のための苗を希望される生産者の皆様には、利用許諾契約を締結した組織から、2023年4月以降に苗が販売される予定です(苗の育苗に数ヶ月必要ですので、予約が必要となります)。苗の販売情報についても上記農研機構メールフォームにお問い合わせください。

用語の解説

  1. 1) カーボンニュートラル

    二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとする、つまり人為的温室効果ガスの「排出量」から、植物栽培などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

  2. 2) 在来種

    「地方種・地方品種ともいう。育種操作を受けることなく、特定の地方に保存されてきた作物及び家畜の品種」(草地学用語辞典)

  3. 3) 栄養系

    挿木など無性生殖により増えた株のことです。そのため栄養系は、基本的に同じ遺伝子情報を持ちます。

  4. 4) 倍数性

    基本の染色体を何セット有しているかを示す情報です。通常、動植物は2セットの染色体を有する二倍体が基本です。植物の場合、二倍体以外に四倍体、六倍体などの植物が存在します。二倍体のススキと四倍体のオギが交配することにより、三倍体のオギススキが得られます。三倍体の場合は、種子や花粉が不稔の場合が多いです。

参考図

写真1
写真1. 新品種「MB-1」「MB-2」および既存品種の移植2年目の草勢
2021年10月15日撮影 盛岡市

図1
図1. 新品種「MB-1」「MB-2」および既存品種の1年目~3年目までの株幅
新品種「MB-1」と「MB-2」の株の広がりは、移植2年目で100cm、移植3年目で200cmを超えます。オギススキは通常100cm間隔で移植するため、既存品種の株が繋がるには4年以上かかりますが、新品種は2年で繋がります。また、新品種を200cm間隔で移植すれば、3年目で繋がり、株数は通常の1/4に減らせます。(移植間隔:3m×1mでの系統比較試験の結果、調査日:1年目2018年11月14日、2年目2019年11月12日、3年目2020年11月18日調査)
図2
図2. 新品種「MB-1」「MB-2」および既存品種の1~3年目までの乾物収量(t/ha)
新品種「MB-1」と「MB-2」の乾物収量は、いずれの年も既存品種よりも多収でした(移植間隔:3m×1mでの系統比較試験の結果、調査日:1年目2018年11月14日、2年目2019年11月12日、3年目2020年11月18日調査)。

図3
図3. 新品種「MB-1」「MB-2」および既存品種の1年目のオギススキと雑草の乾物重(t/ha)
新品種「MB-1」と「MB-2」の1年目の乾物収量は、既存品種よりも多いだけでなく、雑草の乾物重も少ないです(移植間隔:1m×1mでの実証試験の結果。調査日:2021年11月18日)。
写真2
写真2. オギススキ苗移植の様子(移植間隔1m×1m 2021年5月24日撮影)
写真3
写真3. オギススキ育苗苗の様子(4×6の連接ポットで育苗、2022年4月13日撮影)
写真4
写真4. コーンハーベスタを用いたオギススキ既存品種収穫の様子(2020年11月10日撮影)